上 下
193 / 763
神様の人形

マスタールーム

しおりを挟む
砂漠の階層の下の階層は溶岩で埋め尽くされていた。

歩けそうな所がないんだけど、元々この仕様だったらクリア不可能なんじゃないかな?

しばらく飛んで周囲の探索をしていたら正面に大きな穴が空いている所に辿り着いた。
壁に穴が空いている訳ではなく、空間そのものが歪んで穴が開いた様になっていた。
ルーティアさんが聞いてくる。

「飛び込むぞ。いいな?」

見渡す限り溶岩のこの階層に留まっていても仕方ない。全員が同意して次の階層に飛び込んだ。

次の階層は様子が違った。

真っ黒な空間だ。暗いのではなく黒い。
広さもよく分からない。平衡感覚すら失いそうになる、お世辞にも居心地の良い場所とは言えそうにないその空間の一角にその人達は居た。

「正面、マリさんとサチさんです!」
「なんだありゃ?」

倒れて動かないマリさんと、それを庇う様にして立つサチさん。
相対するのは巨大な鎧騎士。サチさんと比較して、身長が4メートル近くあるのが分かる。
手には大剣。その体に合わせた剣だけにもはや鉄の柱の様だった。
それを振りかぶっていて、今まさにサチさんに振り下ろそうとしているのだ。

私達はウルちゃんに乗ったままサチさん達の方へ目掛けて飛んでいる。
辿り着くまではあと少し掛かる。

「援護を!」
「はい!」

ルーティアさんの指示とほぼ同時にオーバーブーストを掛けてライトニングボルトを放つ。サチさん達に当たらない様に、振りかざした大剣を狙った。

振り下ろされる大剣に雷撃が命中して軌道が逸れる。
それと同時にサチさんがわずかに横に逃れた。

大剣はサチさんの右腕を斬り飛ばし床にめり込む。それをすぐに引き抜くと鎧騎士はこちらを見ながらサチさんとも距離をとった。

『光精よ、敵を討つ光となれ《オプティカルインペイル》!』
「《マナエクスジベイト》、《マナラセレイション》!」
「《雷槍撃》!」

ルーティアさん、リオさん、エルさんが次々と鎧騎士に攻撃していく。

鎧騎士は一歩二歩と後退している。

ウルちゃんがサチさんと鎧騎士の間に着地する。オル君も飛び降りて竜の姿になった。全員が戦闘態勢で鎧騎士と向かい合う。鎧騎士は中身が無い。リビングアーマーの様なものみたいだ。

クラースさんとリオさんはマリさんとサチさんの手当てに向かった。

「なんだコイツ……気配が異常だ。」
「サチの作ったモンスターか?」
「だとしたら何故マスターを襲う?」

マサキさんが間合いを詰めながら警告する。
ダキアさんとクロウさんはゆっくりと回り込みながら話している。

「まさかもうここを見つけるとはな。」

鎧騎士が喋った。

「何者です?」

ユキさんが警戒を強めながら前進する。

「私はオゾーリオ。サチの作ったモンスターだ。」
「それがなぜ主人を襲う?」

ルーティアさんが聞く。

「私の主人はあれではない。」

ダンジョンマスターをあれと呼ぶオゾーリオに敬意などなかった。

「じゃあ何だ?お前の主人は他にいるのか?」
「我が主はあのお方のみ。」
「それは神か?」
「神?その様な不確かなものではない。」

ハナちゃんの問い掛けに答えを返すオゾーリオ。

「サチを殺してダンジョンマスターに成り代わるつもりか?」
「このダンジョンの主はそこの者ではない。」

うん?

ルーティアさんの質問に対して不可解な返答をしてきた。

話している間にリオさんとクラースさんがマリさんの治療をしている。

[マリの生命活動が停止します。このままでは危険です。至急治癒の魔法陣を構築してください。]

ヘルプさんが教えてくれたので全員に告げて急いでマリさん達の所に向かう。

「貴様がミナか。ここで死んでもらう!」
「させるかよ!」
「全員攻撃開始だ!ミナに近づけるな!」

オゾーリオは私を狙って動き出したけど、真っ先にテュケ君が飛び出して斬り掛かっていた。次いでルーティアさんの指示と同時に全員が動き出す。

鎧騎士はみんなに任せて立体魔法陣を組み上げる。少し時間が掛かったけど完成。オーバーブーストを追加して発動させる。そのまま魔法陣をマリさんの所に持っていった。
マリさんの傷はかなり深い。腹部を大きく抉られていた。リオさんとクラースさんの回復魔法でギリギリ持ち堪えていたのだろう。そうでなければもう死んでいたと思う。

「強力な治癒の魔法陣です。サチさんも入ってください。」

右腕を失ってグッタリしているサチさんにも入ってもらう。

「硬え…しかも早えぇ…!」
「数で押せ!引き付けるだけでいい!」

ウェスターさんの声が聞こえてくる。
ルーティアさんも指示を飛ばしている。

何人かダメージを受けている。致命傷にはなっていないみたいだけど私が魔法陣を組み上げている間に凄まじい戦闘が繰り広げられていたみたい。

ユキさんがオゾーリオの攻撃を受け止めて他のメンバーで攻撃。
このパターンが一番安全だけど一筋縄ではいかない。

ユキさんに攻撃するフェイントをかけてすり抜ける。あんな巨体なのにスゴく早い。ユキさんの後ろにはルーティアさんがいる。

大剣をコンパクトに横薙ぎに振ってルーティアさんに襲い掛かるけど、ルーティアさんはそれを冷静にバックステップで躱した。

直後に兎人族ダシュプーシェン4姉妹が膝関節を狙って次々と攻撃を加え、アリソンさんが二刀からの強烈な一撃を頭部に見舞った。

それでもオゾーリオはビクともしない。

「脆弱な人如きが、我に勝てるはずもあるまい!」

纏わり付く兎人族ダシュプーシェンとアリソンさんを大剣の一振りで弾き飛ばし誇らしげに叫んでいる。

「傀儡が偉く出たものだな!」

全員が離れた瞬間にウルちゃんがブレスを放つ。まともに受けて大きく吹き飛んだ。

「ぐっ…!流石は全ての竜の祖だ。」

すぐに体勢を立て直して剣を構えるオゾーリオ。

ウルちゃんのブレスを受けてまだ動けるなんて…。

「貴様に勝ち目はない。ここで灰燼に帰すがいい。」

今度はオル君がブレスを放つ。
オゾーリオがブレスに包まれる直前、何者かが彼の前に立ちはだかった。

オゾーリオと同じサイズの全身鎧。巨大な盾でオル君のブレスを防いでいた。

「オリファントか。」
「何をやっているオゾーリオ。何故サチを始末していない?」
「見ての通りだ。人種はともかく竜が邪魔をしている。」

「コイツもサチの作ったモンスターかよ。何体いるんだ?」
「貴様らが知る必要はない。ここで死ぬのだからな。」

ダキアさんが言った事にすぐに答えてくるオリファント。
直後、同じ様な全身鎧が2体やってきた。

一体は槍を持ち、もう一体は巨大な棍棒を持っている。

「ほう?この竜達が最強の竜か。」
「最強と雖も脆弱な人種を護りながら戦う事はできまい。」

「皆様、オルの陰に隠れてください。私がまとめて相手をします。」

ウルちゃんが前に出る。

マリさんとサチさんの傷は完全に治った。このままウルちゃん達に任せてもいいけど納得がいかない。

「ウルちゃん。私がやるよ。」
しおりを挟む
感想 1,506

あなたにおすすめの小説

泉の精の物語〜創生のお婆ちゃん〜

足助右禄
ファンタジー
沢山の家族に看取られ80歳で天寿を全うした春子は、神様らしき人物に転生させられる。 「おめでとうございまーす。アナタは泉の精に生まれ変わりまーす。」 気がついたら目の前には水溜まり。 「これが……泉?」 荒れ果てた大地に水溜まりが一つ。 泉の精として長大な時間を過ごす事になったお婆ちゃんの話。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。

譚音アルン
ファンタジー
ブラック企業に勤めてたのがいつの間にか死んでたっぽい。気がつくと異世界の伯爵令嬢(第五子で三女)に転生していた。前世働き過ぎだったから今世はニートになろう、そう決めた私ことマリアージュ・キャンディの奮闘記。 ※この小説はフィクションです。実在の国や人物、団体などとは関係ありません。 ※2020-01-16より執筆開始。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。