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Chapter 1:まさか援交目的で誘った女子高生と、援助契約するとは思ってもいませんでした。
第23話 嘘でしょ ACT 3
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結局、俺が社屋を出たのは7時過ぎだった。
やべぇ、香の奴待たせてるなぁ。まったく、山岡もあれくらいの資料つくんのに今までかかりやがって、あんなのほんの1時間もあれば”サクッと”出来る物を。しかも手直しありときたもんだ。ま、長野は、相変わらず卒なくやることやって、定時で「お先しま――す」て帰っちまいやがったけど。
あん時の山岡の顔。泣きそうな顔してたのには、笑いを抑えるのに苦労したよ。
おっと、こりゃ、香に連絡入れていた方がいいな。上着からスマホを取り出し、消してしまおうかと迷った挙句、そのままにしていた香の電話番号をタップする。
「あ、俺だけど……」
「うん、雄太私の番号消してなかったんだ」
香は電話に出て一番にその言葉を返した。
「あ、いや、ま、まぁな」
「ふぅ―ん、そっかぁ。ありがとう」
「いや、それよりもわりぃ、今仕事終わって会社出たところなんだ。遅くなって悪いんだけど、もう少し待っててくれるかなぁ」
「うんいいよ。私もさっき着いたばかりなんだぁ。ちょっと寄り道してたからねぇ」
「そうかわりぃな」
「ううん、それじゃ待ってるね」
それだけで通話は切った。香からは怒っているような雰囲気は伝わってこなかった。むしろ機嫌がいい時の香の声だ。
それでも俺は急いで二人でよく通った、あの焼き肉屋へと足を急がせた。
ようやく店に着き入り口の暖簾をくぐると「あ!」と俺の顔を見た店員が「お待ちかねですよ」とにこやかに言い、香が待つ小部屋へと案内してくれた。よく二人で通った店だから、店員も俺たちの顔は覚えていてくれたんだろう。
「遅くなってごめん」
「あ、来たねぇ。大丈夫よ私まだ1杯目だから」グイッとビールジョッキを持ちゴクゴクとジョッキの中のビールを飲みほした。
「ビールでいいでしょ。お肉は来てから焼こうと思ってたから、まだ注文していないわよ」
「ああ、すまん」
店員を呼びビールと、いつもの様に香りが肉を注文する。
赤身の牛ロースにカルビ。カルビは俺が好きなのを知っている。そしてこの焼き機肉屋で外せないのが牛タンだ。この三種は必ず注文する。
先にビールジョッキが二つ運ばれ、テーブルの掘りに七輪がセットされた。
「まずは乾杯かなぁ」
「ああ、でも何に乾杯したらいいんだろな。……俺たち」
「うふふ、そうねぇ。新しい門出に。とでもしましょうか」
「門出ねぇ。ま、なんでもいいや」
カチンとジョッキが鳴り、冷たく冷えたビールが喉に流れ込む。
「ふぅ―」と一息ついたところで肉が運ばれて来た。
香はその皿を有無を言わさず取り、トングで網の上に置いて行く。ジュ―という音が耳に入ってくる。
ここではいつもこのスタイルだ。肉を焼くのは香。付き合い始めの頃は俺が焼いていたが、何時しかその係は香りに移ってしまった。
「あ、もうそこいいわよ」
「あ、うん」銀の箸で程よく焼けた肉をつまみ、タレをつけ口へと運ぶ。
相変わらずうまいなぁ。何となく久しぶりにこの店の肉を食うような気がする。
「美味しい?」と、香がにっこりとほほ笑んで俺に訊く。
「ああ、変わらず旨いなぁ」
何も変わっていない。俺たちが別れる前と今、ここにいる俺たちは。
香もトングを置き、焼けた肉を箸でつまみ口へと運ぶ。
「ん――、美味しい。ホント久しぶりだね」そして手はジョッキを掴み、ビールを流し込む。俺が来てから香もようやく一息ついたような感じがする。
「今日はごめんね。急につき合わせちゃって」
そろそろいいだろうと俺から切り出そうとしたが、香の方から切り出してきた。これで主導権は香に取られちまった。
「いや、別にいいんだけど、どうしたんだ?」
その問いに香はすぐには答えなかった。肉の焼ける音がやけに響く。
「あ、お肉焦げちゃう」ハッとして網の上の肉を箸で取りながら「あのね雄太。……私たちより戻さないって言ったら怒っちゃう?」
「はぁ?」
な、何だよ。て、マジかよう。なんか恐れていたことが現実になっちまった感じがする。恐れていた? 何でそんな思いが俺を襲うんだろう。
「て、ね。びっくりした?」
「びっくりしたって、何で今頃になってまた」
別れ話を切り出したのは香りの方からだったじゃないか。という事は口が裂けても言えない。
「あはは、雄太、あの時みたいに凄い顔してるね」
「そりゃ、なるわ。また、いきなりそんなこと言われると」
「だよねぇ―」と、今度はけらけらと笑いだした。
「お前俺の事からかってる?」ちょっとむっとしながら香に言うと、香は「ごめんごめん怒んないでよぉ。冗談だってばぁ……でもさ、半分は冗談で、残りの半分はお願いなんだけど」
「お願いって?」
「ええッとねぇ、ちょっと協力して欲しんだぁ。うちの親、煩いの通り越していよいよ切れ始めて来ちゃってね。……こんな年になっても彼氏もいないなんて。それでね、このままだとなんかお見合いさせられそうなんだぁ。私はまだ結婚とかそんな気ないんだけど……」
オイオイ! 何となく話の筋がみえて来たぞ。
「……つまりは、俺に彼氏役をやれって言う事なのか?」
「ま、簡単に言うと、そうなんだけど」
「はぁっ」とため息が漏れた。最近ため息ばかりついているような気がするが、実際増えたのは確かだ。
「こんな事頼めるの雄太しかいないから……。お願い!!」
また「お願い!」が出ちまいやがった。俺ってホント香りには弱ぇよな。
「ふ、ふりだけでいいんだよな」
「うんうん、そう、彼氏のふりだけ、私の親に対してだけそうしてくれればいいから」
「しょうがねぇなぁ」そんな乗り気の無い様な返事をしておきながらも、俺の気持ちは、嬉しいのと後ろめたさが入り混じった、変な気持ちになった。
この後ろめたさはどこから来るんだろう。……まさかなぁ。
それでも香からのこの申し出を、きっぱりと断れねぇ俺は。
優柔不断なんだろうな。きっと……。
やべぇ、香の奴待たせてるなぁ。まったく、山岡もあれくらいの資料つくんのに今までかかりやがって、あんなのほんの1時間もあれば”サクッと”出来る物を。しかも手直しありときたもんだ。ま、長野は、相変わらず卒なくやることやって、定時で「お先しま――す」て帰っちまいやがったけど。
あん時の山岡の顔。泣きそうな顔してたのには、笑いを抑えるのに苦労したよ。
おっと、こりゃ、香に連絡入れていた方がいいな。上着からスマホを取り出し、消してしまおうかと迷った挙句、そのままにしていた香の電話番号をタップする。
「あ、俺だけど……」
「うん、雄太私の番号消してなかったんだ」
香は電話に出て一番にその言葉を返した。
「あ、いや、ま、まぁな」
「ふぅ―ん、そっかぁ。ありがとう」
「いや、それよりもわりぃ、今仕事終わって会社出たところなんだ。遅くなって悪いんだけど、もう少し待っててくれるかなぁ」
「うんいいよ。私もさっき着いたばかりなんだぁ。ちょっと寄り道してたからねぇ」
「そうかわりぃな」
「ううん、それじゃ待ってるね」
それだけで通話は切った。香からは怒っているような雰囲気は伝わってこなかった。むしろ機嫌がいい時の香の声だ。
それでも俺は急いで二人でよく通った、あの焼き肉屋へと足を急がせた。
ようやく店に着き入り口の暖簾をくぐると「あ!」と俺の顔を見た店員が「お待ちかねですよ」とにこやかに言い、香が待つ小部屋へと案内してくれた。よく二人で通った店だから、店員も俺たちの顔は覚えていてくれたんだろう。
「遅くなってごめん」
「あ、来たねぇ。大丈夫よ私まだ1杯目だから」グイッとビールジョッキを持ちゴクゴクとジョッキの中のビールを飲みほした。
「ビールでいいでしょ。お肉は来てから焼こうと思ってたから、まだ注文していないわよ」
「ああ、すまん」
店員を呼びビールと、いつもの様に香りが肉を注文する。
赤身の牛ロースにカルビ。カルビは俺が好きなのを知っている。そしてこの焼き機肉屋で外せないのが牛タンだ。この三種は必ず注文する。
先にビールジョッキが二つ運ばれ、テーブルの掘りに七輪がセットされた。
「まずは乾杯かなぁ」
「ああ、でも何に乾杯したらいいんだろな。……俺たち」
「うふふ、そうねぇ。新しい門出に。とでもしましょうか」
「門出ねぇ。ま、なんでもいいや」
カチンとジョッキが鳴り、冷たく冷えたビールが喉に流れ込む。
「ふぅ―」と一息ついたところで肉が運ばれて来た。
香はその皿を有無を言わさず取り、トングで網の上に置いて行く。ジュ―という音が耳に入ってくる。
ここではいつもこのスタイルだ。肉を焼くのは香。付き合い始めの頃は俺が焼いていたが、何時しかその係は香りに移ってしまった。
「あ、もうそこいいわよ」
「あ、うん」銀の箸で程よく焼けた肉をつまみ、タレをつけ口へと運ぶ。
相変わらずうまいなぁ。何となく久しぶりにこの店の肉を食うような気がする。
「美味しい?」と、香がにっこりとほほ笑んで俺に訊く。
「ああ、変わらず旨いなぁ」
何も変わっていない。俺たちが別れる前と今、ここにいる俺たちは。
香もトングを置き、焼けた肉を箸でつまみ口へと運ぶ。
「ん――、美味しい。ホント久しぶりだね」そして手はジョッキを掴み、ビールを流し込む。俺が来てから香もようやく一息ついたような感じがする。
「今日はごめんね。急につき合わせちゃって」
そろそろいいだろうと俺から切り出そうとしたが、香の方から切り出してきた。これで主導権は香に取られちまった。
「いや、別にいいんだけど、どうしたんだ?」
その問いに香はすぐには答えなかった。肉の焼ける音がやけに響く。
「あ、お肉焦げちゃう」ハッとして網の上の肉を箸で取りながら「あのね雄太。……私たちより戻さないって言ったら怒っちゃう?」
「はぁ?」
な、何だよ。て、マジかよう。なんか恐れていたことが現実になっちまった感じがする。恐れていた? 何でそんな思いが俺を襲うんだろう。
「て、ね。びっくりした?」
「びっくりしたって、何で今頃になってまた」
別れ話を切り出したのは香りの方からだったじゃないか。という事は口が裂けても言えない。
「あはは、雄太、あの時みたいに凄い顔してるね」
「そりゃ、なるわ。また、いきなりそんなこと言われると」
「だよねぇ―」と、今度はけらけらと笑いだした。
「お前俺の事からかってる?」ちょっとむっとしながら香に言うと、香は「ごめんごめん怒んないでよぉ。冗談だってばぁ……でもさ、半分は冗談で、残りの半分はお願いなんだけど」
「お願いって?」
「ええッとねぇ、ちょっと協力して欲しんだぁ。うちの親、煩いの通り越していよいよ切れ始めて来ちゃってね。……こんな年になっても彼氏もいないなんて。それでね、このままだとなんかお見合いさせられそうなんだぁ。私はまだ結婚とかそんな気ないんだけど……」
オイオイ! 何となく話の筋がみえて来たぞ。
「……つまりは、俺に彼氏役をやれって言う事なのか?」
「ま、簡単に言うと、そうなんだけど」
「はぁっ」とため息が漏れた。最近ため息ばかりついているような気がするが、実際増えたのは確かだ。
「こんな事頼めるの雄太しかいないから……。お願い!!」
また「お願い!」が出ちまいやがった。俺ってホント香りには弱ぇよな。
「ふ、ふりだけでいいんだよな」
「うんうん、そう、彼氏のふりだけ、私の親に対してだけそうしてくれればいいから」
「しょうがねぇなぁ」そんな乗り気の無い様な返事をしておきながらも、俺の気持ちは、嬉しいのと後ろめたさが入り混じった、変な気持ちになった。
この後ろめたさはどこから来るんだろう。……まさかなぁ。
それでも香からのこの申し出を、きっぱりと断れねぇ俺は。
優柔不断なんだろうな。きっと……。
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