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嵐の夜に―4

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 ルイの手から石を受け取り裏表を確認して、ルイに戻す。
 これが橋の一部ならば、橋は崩れてる可能性が否定出来ない。

「ルイ、うちの部隊を半分に別けて、半分橋の方へ向かわせよう。橋が全壊だったら修復に時間が必要になる。」

 レイヴァンの言葉にルイは黙って頷く。

「私は第三部隊の隊長と話をしてくるから、後で向かう。そちらに向かうまで、ロベルトと後は委せる。」

「分かった。」

 レイヴァンがルイに指揮を委ねるのは今回が初めてでは無い。
 本来ならば必ず隊長が全ての指揮を執るべきだが、いつか部隊から離れる時の事も考え、自分が信頼を置ける者に指揮を委ねるようにしている。
 何だかんだ言いつつも、ルイはレイヴァンと一生一緒に部隊に居られない事を理解しているし、レイヴァンが自分を信頼してくれている事を分かっている為、レイヴァンから指揮を託されても拒否はしない。
 ルイの頷く姿を見た後、レイヴァンは第一部隊の部屋から出て、隣の更衣室の自分の棚から予備の騎士服に着替え、第三部隊の隊長が居るであろう部屋へ向かった。

 ―――コンコン…ギィー……
 第三部隊の扉を二度、ノックして扉を開けると数名の視線がレイヴァンを捉えた。
 その視線には気にも止めず、部屋の奥の左側、窓際で両手に書類を持ち、器用に視線を左右に動かす男性に近付く。
 マロングラッセカラーの短髪・微かなそばかす跡・シルバーチェーンで繋がれた銀縁の片眼鏡モノクル
 眉間にシワが出来ると何とも冷たい印象与えそうな薄い顔。

「コルベル隊長」

 男性はレイヴァンに呼ばれ、書類から目だけレイヴァンに向けた。
 呼んだ相手がレイヴァンだと認識すると、ゆっくりと書類を机に置く。

「……アズュール隊長。何用か?」

 口には出さないが、何故貴方がここに居るんですかと顔に書いてある第三部隊隊長―――セルビオ・ル・コルベル。
 剣の腕と竜の操縦は正直上手くないが、頭は意外とキレる為、前第三部隊隊長引退時に、試験に合格して隊長になった。
 セルビオが隊長になったのは、レイヴァンより少し後だが、初めて顔を合わせた時から好かれていない事はセルビオの態度で分かる。
 レイヴァンも打ち解けたいと思わない為、深く関わるつもりは無いが、仕事では避ける訳にはいかない。

「嵐の影響で、橋が壊れた可能性がある」

 橋と聞いて、セルビオの右眉が微かに動いた。
 橋のある場所は、主に第三部隊の管轄で、レイヴァンが確認する前に第三部隊の誰かが確認し、全部隊に情報を共有している筈であった。
 しかし、レイヴァンが碧鷹を飛ばす前も、飛ばした現在も何も報告は上がっていない。
 隊長としての任務を怠ってはいないかとレイヴァンはセルビオに聞きに来たのだ。

「隊員の誰かに確認させていないのか?」

 レイヴァンは鋭い目付きでセルビオを睨んだ。

「…隊員達には各自、雨が止んだ時点で確認に向かわせたが?」

 他にも隊員が居る室内で、一瞬にしてピリッとした空気が流れる。
 仕事はきちんとしているとでも言いたげにセルビオはレイヴァンを睨み返す。
 レイヴァンに言い返した後、室内に居る隊員達をジロりと見渡した。
 橋の担当は誰だ?何故、俺が怒られる?という視線。
 そんなセルビオの姿に、レイヴァンは周りが気付かない位のため息を吐いて、口を開いた。

「部屋で書類を確認するだけが、隊長の仕事ではない。誰かがやるだろうなんて甘い思いで隊長が務まるのか?…隊員に確認しているか聞いて、行っていないなら自分から動く。それ位出来てこそ、隊長なら当たり前だ。」

 上に立つ者としての責任感が足り無いとレイヴァンはセルビオに言葉を突き付ける。
 レイヴァンの言葉にセルビオは黙った。

「…まぁいい、時間が勿体無い。今、私の隊員達が向かっている。代わりにコルベル隊長、女性隊員を貸してくれ。」

「女性隊員を?何故だ?…橋の補修や撤去ならば、女性より男性の手ではないのか?」

 一瞬、苦虫を噛みつぶしたような表情がセルビオから見てとれたが、レイヴァンの問に馬鹿にするような笑みが浮かぶ。
 セルビオはレイヴァンが判断を血迷ってるとでも思ったようだ。

「橋が全壊しているかは、今確認中だ。それより橋の周りで被害にあってる者がいないか、そちらの確認も必要になる。万が一、女性や子供で負傷者が居た場合、男手だけより女性が居た方が安心だろう」

 レイヴァンの冷静な言葉に、セルビオは視線を机に移した。

「レイヴァン隊長」

 重たい沈黙を破ったのは、セルビオの後ろの部屋から出て来た声の主。
 レイヴァンはセルビオから顔を上げた。

「アリーヌ副隊長」

 そこに立っていたのは、シトリンのような瞳にブロンドの髪をツインテールに結んだ女性隊員。
 アリーヌ・ル・フランドル。
 手には本を三冊抱えている姿から、何かを調べていた様子。
 レイヴァンから名前を呼ばれたアリーヌは、セルビオの机に本を置いて、レイヴァンを見た。

「うちのバ…隊長が済みません。女性隊員が必要なんですよね?直ぐに向かわせます。」

 自分の部隊の隊長を侮ってる物言いのアリーヌは、第三部隊の主に女性隊員のまとめ役であり、一応、セルビオの補佐でもある。
 セルビオと違い、竜の操縦は確かな腕前を持つ。
 会議にもセルビオと共に参加している為、レイヴァンとも何回か話した事があり、レイヴァンに対しても普通に接する。

「アリーヌ!君は今、バカと言わなかった!?」

 聞き捨てならない台詞セリフが聞こえたとセルビオがアリーヌを睨む。
 だが、アリーヌはセルビオを無視して、室内に居た女性隊員達の方へ歩いて行った。
 セルビオの言葉は無視されたせいで空気と化し、仕方無くセルビオは何事も無かったかのように咳払いをして、レイヴァンに視線を移した。
 レイヴァンはセルビオの取り乱しには何も言わなかった。

「アリーヌが向かわせるらしい。到着後は、そちらの隊員達と合流するよう指示を出す」

 決して頼むとは言わないセルビオは、これで文句無いだろう口を噤んだ。
 神経質そうな冷たい印象のセルビオに戻ったようだ。

「あぁ。それでは失礼する」

 用が済んだレイヴァンは第三部隊の部屋を出た。
 次にするべき事はと考えながら歩いているレイヴァンを追う者が居た。

「レイヴァン隊長!」

 レイヴァンが呼ばれた方を振り返ると、さっき女性隊員達に声をかけていたアリーヌが走っている姿だった。

「手の空いている者から順に、そちらへ合流するように指示は出しました……っ」

 声に足を止めたレイヴァンの元に追い付くと、少し息を切らせつつアリーヌは話し掛けた。

「助かる。」

「あの、それで、何人くらい必要とかありますか?ある程度明確な人数があれば…」

「まだ橋の状況を完璧把握していないから何とも言え無いが、可能な限りで構わない。そちらでも女性隊員は必要だろう。」

「分かりました。では、取り急ぎ二十名、先に向かわせます。」

 アリーヌの言葉に頷き、歩き出そうとしたレイヴァンだが、もう一度アリーヌの方を見る。

「私より先に現場にはルイとロベルトが行っている。合流した女性隊員達には、ルイの指示に従うよう伝えてくれ。私は後で合流するからと」

「はい!」

 レイヴァンに一礼すると、アリーヌは第三部隊の部屋へと掛けて行く。
 アリーヌの後ろ姿を見届け、レイヴァンもその場から離れた。

 ルイ達と合流する前に、現時点で確認した状況を報告書に書き留めてから向かおうと、第一部隊の部屋に戻ると、持ち場の作業が終わった一部の隊員が報告書を書きに戻って来ていた。

「「「「お疲れ様です」」」」

 報告書を書き終えた隊員は、レイヴァンの机にある提出用引き出しへ報告書を提出し、隊長席に着いたレイヴァンに挨拶して部屋を出て行く。
 レイヴァンが第三部隊の部屋に行っている間に、隊員達はルイから指示を貰ったようで、各自、次の場所へと向かうのだろうと思われた。
 自分も早く合流しようと、空白の報告書を引き出しから取り出すのだった。
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