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22 欠けているピースを埋めるヒント
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食事の時間はとても楽しいものだった。美味しいものを食べるという行為もさることながら、何よりそこにある会話が一番のエッセンスになることをかおるは噛み締めた。
大地と大河は初めてかおるに会ったというのに上手く話を振り、打ち解けられるよう気を使ってくれているのが良く分かる。一方的に投げかけられる言葉ではなく、返事を待ち、そこからまた話を広げるように。
食後に奏絵とかおるが二人で焼いたクッキーを食べる頃には、秀一の前でもかおるは何度も笑顔を見せることができる程寛いだ時間を過ごした。
「かおるさん、来週も木曜でいいかしら?」
「すみません。来週は木曜午後から出張なので、」
「あら、じゃあ、火曜がいいかしらね。出張の前日と月曜ははずしたほうがいいものね。どう、火曜日で?」
「はい。火曜でお願いします。」
「ところで、どこへ出張なの?」
「はい、ニューヨークへ。」
「まあ、素敵。わたしも行きたいわ。」
「奏絵、三上君は仕事なんだから。」
秀一は仕事と言ったが、かおるはまだ何故自分が恭祐に同行しニューヨークへ行くのか理由がわからないままだ。
「現地で土日をまたぐので、お土産ゆっくり見てきますね。ご希望があるようでしたら、今度の火曜日に教えて下さい。」
「僕はかおるさんが無事に帰ってきてくれれば他には何もいらないな。」
「大河、おまえ、本当に調子のいいやつだな。」
「ところでお二人さん、どっちでもいいからかおるさんを家まで送ってあげて。」
「そんな、まだ9時過ぎですから、電車で帰ります。」
「いいのよ、なんだかんだ言って疲れたでしょ。元上司と現上司の家でその家族と食事をしたんですもの。」
「じゃあ、オレ送っていくよ。大河の運転は荒いからな。」
「そうね、大地の運転の方がまだマシね。」
「なんだよ、それ。」
「事実だろ。」
大地と大河はとても仲が良い兄弟のようだ。初めて二人を見たかおるにもそれが伝わってくるほど。そして明るい母奏絵を中心に家族は良くまとまっている。
だからなのか、ここに恭祐というピースがどうおさまるのか、かおるには全く想像がつかなかった。
「今日は来てくれてありがとう。母さん、随分はしゃいでいたな。」
「いえ、わたしこそお言葉に甘えてしまって。」
「いいんだよ。ちらっと聞いたんだけど、土日も働くことがあるって。その上、代休も有給も取れていないって。父さんが悪いことしたって言ってたよ。」
「若林さんがそんなことを?」
「うん、自分がかおるさんを兄さんのアシスタントに推薦しなければって、」
「そんなことないですよ。第一、土日に働かなくてはいけないのは、わたしの能力の問題ですから。」
今まで聞いていた話、そして本人と少しでも接すれば分かる、そんなことはない、と。推薦した父よりも、もっと責があるのは土日も働かせ、更には代休すらまともに取らせていない兄だろう。
大地は改めてかおるに申し訳ないと思った。けれどかおるの言葉を否定したとしても、本人の心の中までは覆すことなど出来ない。
変に長引かせるよりは、この話はここで区切ってしまおうと大地は思った。
それに…母が大地にかおるを送るように言った真意を考えると…話題は変えたほうがいいだろう。
母は昔から兄を大切に育て、兄の幸せを願ってきた。大地はどのタイミングで何を話すか考えながら車を走らせた。
「かおるさん、コーヒー一杯つきあってもらえないかな。」
それまでと少し違う声のトーンでそういう大地に少し戸惑いながらも、かおるは了承した。
大地とは初対面だ。とすると、恭祐からの伝言か何かがあるのだろうか…、そんなことを思ってしまう。
コーヒーが運ばれてくるまで大地は何も話さなかった。
ただその表情は、初対面のかおるにも分かる程緊張している。なぜ、そんなに緊張しているかは分からないが。
「かおるさん、こんな時間につきあってもらって申し訳ない。」
「いえ、そんな。」
「でも、知っていて欲しいんだ、これから話すことを。そして誰にも言わないで欲しい。…あと、話す内容に対する質問は受け付けられない。知っていて欲しいから話すのに、質問するなっていうのが一方的すぎるのは重々承知の上でのお願いなんだけど、了承してもらえるかな。」
「あの、一体何のことを。」
「ああ、ごめん、若林家のことなんだ。」
「えっと、どうしてわたしなんかに話す必要が、知っておく必要が…」
「あなただからこそ、知っていて欲しい。今後うちに来るようになれば、今日時折あなたが感じた疑問以外のことも気になるようになるだろう。それら全てを解消できるかは分からない。けれど、理解する鍵にはなる。何より僕達家族が薄々感じている兄さんのあなたへの態度の理由もこの話の中に含まれているような気がする。だからこそ聞いてもらいたいんだ。」
大地と大河は初めてかおるに会ったというのに上手く話を振り、打ち解けられるよう気を使ってくれているのが良く分かる。一方的に投げかけられる言葉ではなく、返事を待ち、そこからまた話を広げるように。
食後に奏絵とかおるが二人で焼いたクッキーを食べる頃には、秀一の前でもかおるは何度も笑顔を見せることができる程寛いだ時間を過ごした。
「かおるさん、来週も木曜でいいかしら?」
「すみません。来週は木曜午後から出張なので、」
「あら、じゃあ、火曜がいいかしらね。出張の前日と月曜ははずしたほうがいいものね。どう、火曜日で?」
「はい。火曜でお願いします。」
「ところで、どこへ出張なの?」
「はい、ニューヨークへ。」
「まあ、素敵。わたしも行きたいわ。」
「奏絵、三上君は仕事なんだから。」
秀一は仕事と言ったが、かおるはまだ何故自分が恭祐に同行しニューヨークへ行くのか理由がわからないままだ。
「現地で土日をまたぐので、お土産ゆっくり見てきますね。ご希望があるようでしたら、今度の火曜日に教えて下さい。」
「僕はかおるさんが無事に帰ってきてくれれば他には何もいらないな。」
「大河、おまえ、本当に調子のいいやつだな。」
「ところでお二人さん、どっちでもいいからかおるさんを家まで送ってあげて。」
「そんな、まだ9時過ぎですから、電車で帰ります。」
「いいのよ、なんだかんだ言って疲れたでしょ。元上司と現上司の家でその家族と食事をしたんですもの。」
「じゃあ、オレ送っていくよ。大河の運転は荒いからな。」
「そうね、大地の運転の方がまだマシね。」
「なんだよ、それ。」
「事実だろ。」
大地と大河はとても仲が良い兄弟のようだ。初めて二人を見たかおるにもそれが伝わってくるほど。そして明るい母奏絵を中心に家族は良くまとまっている。
だからなのか、ここに恭祐というピースがどうおさまるのか、かおるには全く想像がつかなかった。
「今日は来てくれてありがとう。母さん、随分はしゃいでいたな。」
「いえ、わたしこそお言葉に甘えてしまって。」
「いいんだよ。ちらっと聞いたんだけど、土日も働くことがあるって。その上、代休も有給も取れていないって。父さんが悪いことしたって言ってたよ。」
「若林さんがそんなことを?」
「うん、自分がかおるさんを兄さんのアシスタントに推薦しなければって、」
「そんなことないですよ。第一、土日に働かなくてはいけないのは、わたしの能力の問題ですから。」
今まで聞いていた話、そして本人と少しでも接すれば分かる、そんなことはない、と。推薦した父よりも、もっと責があるのは土日も働かせ、更には代休すらまともに取らせていない兄だろう。
大地は改めてかおるに申し訳ないと思った。けれどかおるの言葉を否定したとしても、本人の心の中までは覆すことなど出来ない。
変に長引かせるよりは、この話はここで区切ってしまおうと大地は思った。
それに…母が大地にかおるを送るように言った真意を考えると…話題は変えたほうがいいだろう。
母は昔から兄を大切に育て、兄の幸せを願ってきた。大地はどのタイミングで何を話すか考えながら車を走らせた。
「かおるさん、コーヒー一杯つきあってもらえないかな。」
それまでと少し違う声のトーンでそういう大地に少し戸惑いながらも、かおるは了承した。
大地とは初対面だ。とすると、恭祐からの伝言か何かがあるのだろうか…、そんなことを思ってしまう。
コーヒーが運ばれてくるまで大地は何も話さなかった。
ただその表情は、初対面のかおるにも分かる程緊張している。なぜ、そんなに緊張しているかは分からないが。
「かおるさん、こんな時間につきあってもらって申し訳ない。」
「いえ、そんな。」
「でも、知っていて欲しいんだ、これから話すことを。そして誰にも言わないで欲しい。…あと、話す内容に対する質問は受け付けられない。知っていて欲しいから話すのに、質問するなっていうのが一方的すぎるのは重々承知の上でのお願いなんだけど、了承してもらえるかな。」
「あの、一体何のことを。」
「ああ、ごめん、若林家のことなんだ。」
「えっと、どうしてわたしなんかに話す必要が、知っておく必要が…」
「あなただからこそ、知っていて欲しい。今後うちに来るようになれば、今日時折あなたが感じた疑問以外のことも気になるようになるだろう。それら全てを解消できるかは分からない。けれど、理解する鍵にはなる。何より僕達家族が薄々感じている兄さんのあなたへの態度の理由もこの話の中に含まれているような気がする。だからこそ聞いてもらいたいんだ。」
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