ゴミ捨て場で男に拾われた話。

ぽんぽこ狸

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 時間をまったく気にせずに描き進めていくと、唐突にコンコンっと軽いノックの音が響いて、体を小さく飛び上がらせて驚いた。

 瞬きを二回して、扉の方を凝視する。それから、セージか、と合点がいって「どうぞっ」と急いで返事をした。
 そうすると扉が開いてあっ、と気が付く。描いている絵が出しっぱなしである。みられるのは恥ずかしい。けれど、隠そうにもこれから乾かす絵なのだ。乱暴には扱えない。

「ユキ、ごめんね、忙しかった?」
「べ、別に!……全然」
「絵、描いてたんだ……邪魔してごめんね。そろそろ、寝ようと思っておやすみって言いに来ただけなんだ」

 幸いにもセージは、何を描いているのだとか聞いてきたり、この絵を見ようとはしてこない。

 ただ、本当に、就寝を伝えに来ただけだったようで、部屋の入口でそれだけ伝えてじゃあね、と出ていこうとする。

 ホッとする反面、あっけなく部屋から出ていこうとする彼に、ふと疑問を覚える。大の大人が、おやすみと言いに来ただけなんて、そんなことあるだろうか。

「……本当に、それだけ」

 ボクがそう、呟くみたいに聞くと、セージはすこし目を見開いて、笑みを深める。

「いいや?……でも、強制はしないよ。やることがあるなら、そちらを優先してもいいよ」
「……、……」

 どうやら、そういう事らしい。

 なんとなく、落ち着かないような心地になりつつも、画材を片付ける。やらなければならない事は割と進んだ、それほど切羽詰まってもいない。なにより、この場所に居させてくれて、ボクに色々と与えてくれる彼がボクに唯一、望む事だ。それより優先すべきものなどない。

「お前の部屋に行けばいいのか?」
「うん、おいで。一緒に寝てしまってもいいように、すこし片付けてから来てね」
「……わかった」

 そういってセージは先に自分の部屋へと戻っていく。ボクは、片付けをしながら昨日の情事を思い出してしまわないように意識して、どうにか平静を装って、セージの部屋へと向かった。

 彼はベットに腰かけて待っていた。電気はついていて、特にそういう雰囲気というわけでもないのに、緊張してしまう。セージと視線を合わせられなくて、意味もなく視線をさまよわせてみれば、ベットのサイドテーブルにローションとタオルが置いてあるのを見つけて、今から抱かれるのだということを再度認識してしまう。

 そうなると、羞恥で足が動かない。入口で立ち尽くすボクに、セージは優しく笑いかけて、自ら立ち上がってこちらまでくる。

「大丈夫?」

 柔らかい声音が少し心配そうに言う。怖気づいているボクの心を簡単に見透かされてしまったようで、どうにもいたたまれない。

「……いやになっちゃった?」

 ……違う。

 そう思って、ゆっくりと頭を振る。それからセージを見上げると、彼は少し逡巡してから、ボクのすぐそばにあった灯りのスイッチを押す。カチっと、小さな音が鳴って、灯りがふっと消えた。

「恥ずかしいなら、お酒でも飲む?」

 言いながらセージはボクの髪を梳くようにしてゆっくりと撫でつける。

「……飲まない」
「そっか」

 暗闇と夜の静けさの中で、ぽつりとつぶやくと、彼も同じようにして、ささやくような声を返す。




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