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しおりを挟む……思ったより、物が多いな。
ていうか、今日の午後だけで、よくここまで物を買ったよな。こんなに買い物をしたのは初めてかもしれない。
……セージが心配性なせいも大きいよな。あれもいるかもしれない、これもあった方がいいと様々なものをどんどん買うものだから、ボクもそれにあてられて、よく吟味せずに買ってしまった物がいくつかある。
よく考えたら、こんなクッションはいらないし、スケッチブックだってストックがこんなにあっても困るのだ。……けれど、もしかしたらセージがこんなに物をボクに買い与えたのは、ボクが余計なことを言ってしまったせいもあるかもしれない。
……でも、事実なんだから、伝えなければならなかったのだ。
余計な事を言ってしまった原因となったボクの黄色い大きな鞄を見る。ジッパーを開けて中に入っているのは、衣類が数着とスマホ、それから、大きく幅を取っているのはすべて画材だ。スケッチブック、筆箱、絵具、パレット、水入れ、その他もろもろ。
それらが旅行二泊分ぐらいの荷物が入る使い古された黄色い鞄にぎっしりと詰まっている。
ボクの所有物というのは、ここ数年この鞄に入るだけしかなかったのだ。物を増やすと怒られるし、そんなに偉くなったのかと問い詰められるので、増やそうとも思わなかったし、なんだかんだ慣れてしまえば、所有物が少ないというのは楽でもあった。
高価で、何より大事な画材さえあれば、一応何とかなるものだし、非常時に、すぐにまとめられて持ち出せるので、何かを置いていかなければならないことがないので、精神的な損失も少ない。
だからついセージにも行ってしまったのである。鞄の中身と、今、身につけているもの以外に私物はなく、それ以上のものを持つ気もないと。
「じゃあ、俺が家の日用品をユキの趣味に合わせて買っているだけだから、君は気に入ったものを言うだけでいいよ」と返され、結局、実質ボクが使うためだけに買われた物なのだから、ボクの持ち物として買われるのと大差なかった。
「……」
タオルのタグをパチパチ切りながら、真っ白なそれの手触りを確かめる。
しっとりしていてフワフワで、触ってるだけで心地がいい。今度、非常事態で逃げ出す時には、これは持って行ってもいいような気がする。
とりあえず白いタオルだけは、作業用の机の上において、それ以外を片付けて、画材を机に広げる。水入れに水を張りにリビングに行くが、セージの姿はない。自分の部屋にいるのだろう。
それから、部屋着が汚れないように、エプロンをして、少し絵を描くには少し手狭な机で、描き始める。部屋が静かだったこともあり自然と集中できて筆が進む。
久しぶりに、迷いなく手が動くのが嬉しくて、鼻歌混じりに依頼の絵を仕上げていった。
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