11 / 21
海へ、行きたいな
しおりを挟む
雪兎とのカップル成立が学校中に知れ渡ったので、女子から告白される事もなくなった…。
と思いきや、未だにちょいちょい呼び出しを受ける機会はあるよ。裏庭とかに連れ出されて、決闘でも始めるのかと思ったら…。
「初めて見た時から、一ノ瀬くんの事が好きでした(過去形)。でも伊勢嶋くんと、どうぞお幸せにね」
とか、そんな感じ。文字通りの、告白だね。わざわざそれを、おれに伝える意味があるのかと思うけど。自分自身の、精神的な区切りのためには必要なのかな…。
どっちみち、こちらとしても断る理由を毎回考える必要は無くなった。めでたし、めでたし…なのかな。
みなさんこんにちは。一ノ瀬蒼12歳、ホモです。今日は学校の行事で、バレエ鑑賞にやって来たのですよ。市内の芸術劇場に、有名な劇団が来たからって。この手の気取った行事、大好きだよねこの学校。
バレエなんざ、内容も分からないし退屈で仕方ない…。と言いたい所ですが、実は有名どころはたいがい知ってるんですよね。姉ちゃんが昔、体力をつけるためにちょっとバレエ教室に通ってたんですよ。
そのうち体調が悪化したので何年も通っていた訳ではありませんが、バレエの世界には引き込まれてしまったようで。家でよく、なんたら劇団のなんたら公演みたいなDVDを鑑賞させられました。
なんで、バレエの知識についてはそこら辺の小学生に負けない自信があった…筈なんですが。この日の演目は、ちょっと今まで見た事も聞いた事もないものでした。もともと交響曲としては有名だったけど、バレエとしてはあんまり演じられる事がなかったんですって。
分からないなりに、ざっと内容をまとめるとこんな感じ。主人公が美しい娘に恋をして、母親から無理難題を申し付けられました。ここら辺、かぐや姫みたいな話やね。2つ目までは何とかなったけど、3つ目の課題が黄泉の川を泳ぐ白鳥を射って殺しなさいみたいな内容でした。だいぶ端折るけど、結局無理だったんで現世に戻されましたみたいな話。ここら辺、日本神話みたいやね。
暗いなぁ。もっと明るくて、有名な演目なら良かったのに。まぁ劇団の方々も、小学生相手だけに演じてる訳でもないしね。まぁでも、いいか。話がどうであれ、雪兎と隣同士の鑑賞だから。特に誰かにコネを使った訳でもなく、出席番号順で並んだ結果だよ。初めて、出席番号に感謝したわ。
今日は六年生だけの行事だから、お邪魔虫の梢もいない。せいぜい甘いムードの中で、大人同士の鑑賞会を楽しませてもらおう。差し当たって、暗闇に紛れて手は繋がせてもらいました。当然ながら、指と指を絡め合う恋人繋ぎってやつね。周りの連中にはバレてるかもだけど、知ったこっちゃあるかい。
いやもう手を繋ぐだけに飽き足らず、あんな所やこんな所まで触り合ったりとか?ゆ、雪兎くん。可愛い顔して、意外と大胆な…!なんつってね。
そんなこんなで、二人の時間を楽しみながら…。頭の片隅の方で、ふと思ったんだ。こんな立派な舞台、姉ちゃんにも生で鑑賞させてやりたかったなって。いやむしろ、舞台に立たせてやりたかったな。流石にプロの劇団は無理でも、バレエ教室の発表会とかで。周りの娘に負けない、綺麗な衣装を着せてさ。母さんも、きっとそれを見て喜んだ事だろう。
そう考えてたら、何だか…。舞台の方で、本当に姉ちゃんが踊ってるような気がしてきた。いや、これは雪兎の能力の産物じゃなくてね。舞台に感情移入するうち、おれの想像力が暴走し始めたとかそんなんだと思う。
ただ、そのイメージとしての姉ちゃん…。由香里姉ちゃんの表情は、暗くて虚無だ。どうにも、楽しくて踊っていると言う感じではない。義務って言うのか…罰?何の罪かは知らないけど、大いなる存在に無理やり踊らされてますみたいな感じ。生と死の狭間にあるというこの川で、未来永劫ずーっとずーっと踊らされてるのかな。あり得ないけど、そんな風に考えたら…。
途端に涙が溢れ出て、どうにも止める事が出来なくなった。何だこりゃ。実際に姉ちゃんが亡くなった時も、泣きゃしなかったってのに。いや、その時に限らず…。物心ついた時から、人前で泣いたって記憶がない。泣かない事が「男らしい」と思っていたけど、もっと小まめに泣いておけば良かったかも。
何せ、涙も鼻水も次から次へと溢れ出てきて止まりゃしねぇ。すでにもう姉ちゃんがどうとかは離れて、今までの人生の嫌な事や悲しい事が一気に押し寄せてるんだって気がしてきた。
「あお君?…どうしたの?大丈夫?」
雪兎が気づいて、ハンカチを手渡してくれる。何となく、事情は察したのだろう。嫌だな。こんな情けない表情、雪兎にだけは見られたくなかった。でも、見られたのが雪兎で本当に良かった。そのまま、座席から立ち上がってそっと外へと連れ出してくれたんだ。
舞台の外の、待合室?で座って、だいぶ涙は落ち着いて来たけど…。
「…帰りたくねぇな。周りから、何て言われるやら。おれ、めっちゃ舞台に感激して泣いてたみたいじゃん?」
「あはは。いいじゃん、それはそれで。でも、あお君が帰りたくないって言うなら…。フケちゃう?このまま。学校をサボるなんて、生まれて初めてだけど…。いいよね。今日は、課外授業だし。途中までは、参加したんだし」
「…いいのか?雪兎は、それで」
「いいよ。お母さんに頼んで、体調を崩したとか何とか適当な言い訳してもらうから。それじゃ、今日はもう帰っちゃう?」
「…何となく、家にも帰りたくねぇな。その、うみ…」
「え?何て?うーみゅ?」
「何でちょっと、あざとく言うんだよ。その、うみへ…。海へ、行きたいな」
と思いきや、未だにちょいちょい呼び出しを受ける機会はあるよ。裏庭とかに連れ出されて、決闘でも始めるのかと思ったら…。
「初めて見た時から、一ノ瀬くんの事が好きでした(過去形)。でも伊勢嶋くんと、どうぞお幸せにね」
とか、そんな感じ。文字通りの、告白だね。わざわざそれを、おれに伝える意味があるのかと思うけど。自分自身の、精神的な区切りのためには必要なのかな…。
どっちみち、こちらとしても断る理由を毎回考える必要は無くなった。めでたし、めでたし…なのかな。
みなさんこんにちは。一ノ瀬蒼12歳、ホモです。今日は学校の行事で、バレエ鑑賞にやって来たのですよ。市内の芸術劇場に、有名な劇団が来たからって。この手の気取った行事、大好きだよねこの学校。
バレエなんざ、内容も分からないし退屈で仕方ない…。と言いたい所ですが、実は有名どころはたいがい知ってるんですよね。姉ちゃんが昔、体力をつけるためにちょっとバレエ教室に通ってたんですよ。
そのうち体調が悪化したので何年も通っていた訳ではありませんが、バレエの世界には引き込まれてしまったようで。家でよく、なんたら劇団のなんたら公演みたいなDVDを鑑賞させられました。
なんで、バレエの知識についてはそこら辺の小学生に負けない自信があった…筈なんですが。この日の演目は、ちょっと今まで見た事も聞いた事もないものでした。もともと交響曲としては有名だったけど、バレエとしてはあんまり演じられる事がなかったんですって。
分からないなりに、ざっと内容をまとめるとこんな感じ。主人公が美しい娘に恋をして、母親から無理難題を申し付けられました。ここら辺、かぐや姫みたいな話やね。2つ目までは何とかなったけど、3つ目の課題が黄泉の川を泳ぐ白鳥を射って殺しなさいみたいな内容でした。だいぶ端折るけど、結局無理だったんで現世に戻されましたみたいな話。ここら辺、日本神話みたいやね。
暗いなぁ。もっと明るくて、有名な演目なら良かったのに。まぁ劇団の方々も、小学生相手だけに演じてる訳でもないしね。まぁでも、いいか。話がどうであれ、雪兎と隣同士の鑑賞だから。特に誰かにコネを使った訳でもなく、出席番号順で並んだ結果だよ。初めて、出席番号に感謝したわ。
今日は六年生だけの行事だから、お邪魔虫の梢もいない。せいぜい甘いムードの中で、大人同士の鑑賞会を楽しませてもらおう。差し当たって、暗闇に紛れて手は繋がせてもらいました。当然ながら、指と指を絡め合う恋人繋ぎってやつね。周りの連中にはバレてるかもだけど、知ったこっちゃあるかい。
いやもう手を繋ぐだけに飽き足らず、あんな所やこんな所まで触り合ったりとか?ゆ、雪兎くん。可愛い顔して、意外と大胆な…!なんつってね。
そんなこんなで、二人の時間を楽しみながら…。頭の片隅の方で、ふと思ったんだ。こんな立派な舞台、姉ちゃんにも生で鑑賞させてやりたかったなって。いやむしろ、舞台に立たせてやりたかったな。流石にプロの劇団は無理でも、バレエ教室の発表会とかで。周りの娘に負けない、綺麗な衣装を着せてさ。母さんも、きっとそれを見て喜んだ事だろう。
そう考えてたら、何だか…。舞台の方で、本当に姉ちゃんが踊ってるような気がしてきた。いや、これは雪兎の能力の産物じゃなくてね。舞台に感情移入するうち、おれの想像力が暴走し始めたとかそんなんだと思う。
ただ、そのイメージとしての姉ちゃん…。由香里姉ちゃんの表情は、暗くて虚無だ。どうにも、楽しくて踊っていると言う感じではない。義務って言うのか…罰?何の罪かは知らないけど、大いなる存在に無理やり踊らされてますみたいな感じ。生と死の狭間にあるというこの川で、未来永劫ずーっとずーっと踊らされてるのかな。あり得ないけど、そんな風に考えたら…。
途端に涙が溢れ出て、どうにも止める事が出来なくなった。何だこりゃ。実際に姉ちゃんが亡くなった時も、泣きゃしなかったってのに。いや、その時に限らず…。物心ついた時から、人前で泣いたって記憶がない。泣かない事が「男らしい」と思っていたけど、もっと小まめに泣いておけば良かったかも。
何せ、涙も鼻水も次から次へと溢れ出てきて止まりゃしねぇ。すでにもう姉ちゃんがどうとかは離れて、今までの人生の嫌な事や悲しい事が一気に押し寄せてるんだって気がしてきた。
「あお君?…どうしたの?大丈夫?」
雪兎が気づいて、ハンカチを手渡してくれる。何となく、事情は察したのだろう。嫌だな。こんな情けない表情、雪兎にだけは見られたくなかった。でも、見られたのが雪兎で本当に良かった。そのまま、座席から立ち上がってそっと外へと連れ出してくれたんだ。
舞台の外の、待合室?で座って、だいぶ涙は落ち着いて来たけど…。
「…帰りたくねぇな。周りから、何て言われるやら。おれ、めっちゃ舞台に感激して泣いてたみたいじゃん?」
「あはは。いいじゃん、それはそれで。でも、あお君が帰りたくないって言うなら…。フケちゃう?このまま。学校をサボるなんて、生まれて初めてだけど…。いいよね。今日は、課外授業だし。途中までは、参加したんだし」
「…いいのか?雪兎は、それで」
「いいよ。お母さんに頼んで、体調を崩したとか何とか適当な言い訳してもらうから。それじゃ、今日はもう帰っちゃう?」
「…何となく、家にも帰りたくねぇな。その、うみ…」
「え?何て?うーみゅ?」
「何でちょっと、あざとく言うんだよ。その、うみへ…。海へ、行きたいな」
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした
紫
BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。
実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。
オメガバースでオメガの立場が低い世界
こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです
強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です
主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です
倫理観もちょっと薄いです
というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります
※この主人公は受けです
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる