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第一章
第6話 ニンゲンと吸血鬼のハーフ
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ベッドを整え顔を洗って、歯を磨く。髪の毛を櫛で梳かし、身だしなみを整える。まだまだ銀には程遠い。
目は青。窓の外には月と星。
何一つ変わらない日々が過ぎていく。
食事の後、いつもなら部屋に戻って休憩してからお兄様たちの部屋に向かうんだけど、今日はその前にお父様から重大発表があるという。
一体何のお話だろう? もしかして、お兄様たちと同じ部屋にしてもらえるんじゃ? それともニンゲンのパーティーに行ってもいいよとお許しが出るのかも。
(そうだとしたら……なんて素敵なんだろう)
何かが変わるんじゃないかという期待に胸が膨らむ。
我慢できずに早めに部屋を出たら、なんと呼ばれた時間の一時間も前に、応接間に着いてしまった。
「いつでも落ち着いていられるように、時間前行動を心がけましょうね」というのがお母様の口癖だとはいえ、いくらなんでも早すぎる。
どうせまだ誰もきてないだろうと思いつつ、そっとドアを開けてみるとーー
意外なことに先客がいた。
大きなピンクの瞳に長い銀のまつ毛、白磁のように透き通った白い肌、そして髪の毛は高位の吸血鬼の家系に多い銀髪。お人形みたいに整った顔の少年が、ソファに座ってミルクティーを飲みながら窓の外を眺めている。
(えーと、誰だろう……容姿からしていかにも吸血鬼のご子息ってかんじだし、お父様のご友人の子ども、とかかな? 同じ年くらいだし話しかけてみたいけど……)
家族以外とはほとんど喋ったことがないから、何を話せばいいかわからない。社交界に出て知らない人と話す時はとりあえず相手を褒めろと習ったし、「綺麗な銀髪だね」って褒めてみようか。
ところが、ぐだぐだ悩みすぎたせいか、声をかけるより前に彼が僕の存在に気づいてしまった。
少年は美しい顔をこちらに向けて、不機嫌な声で言い放つ。
「何? 薄汚い人間風情がジロジロ見てこないでよ」
「え……?」
(薄汚いニンゲンって僕のこと?)
可愛らしいピンクの唇から飛び出たしんらつな言葉に唖然とする。
見かけによらずちょっと、いや、かなり失礼な子かもしれない。ニンゲンと間違えるだけならともかく、初対面の相手に薄汚いだなんて。
「僕は……」
ニンゲンじゃないよと否定しようとしたその時。すぐ後ろでバンッと勢いよくドアが開くと同時に、お母様の甲高い声が響いた。
「まぁ、アーシュちゃん!? どうしてあなたがここにいるの? お約束の時間まで、まだ一時間もあるはずでしょう?」
長いふわふわウェーブの銀髪を弾ませてお母様が小走りで近づいてきた。いつもおっとりお淑やかなお母様がこんなふうに青い顔をして慌てているなんて只事じゃない。
(もしかして早く来ちゃダメだったのかも。そういえば、早すぎるのもマナー違反だと教わったっけ)
「お母様……僕、待ちきれなくて……ごめんなさい」
ぺこりと下げた頭に、長い髪が触れる。気づけば心配そうなお母様のお顔がすぐ側にあった。
「どこも噛まれてないわね!?」
「えっと。か、かまれて……? ないです」
吸血鬼の僕が噛むならともかく、噛まれるって何? しかも、何度も「噛まれてないです」と繰り返しているのに、なぜかしつこく僕の首筋や手首をチェックし続けるお母様に、困惑を隠せない。
その後ろでは、続いて入ってきたお父様やお兄様も異変がないか確かめるように厳しい目つきで僕の体を観察している。
「あの……お母様、お父様、お兄様……?」
訳のわからない家族の反応に戸惑っていると、美少年が立ち上がり、弁解するように言った。
「僕は何もしてません。ですよね? アーシュさん」
彼がこの状況とどう関わりがあるのかわからないけど、ここは頷くしかない気がして、僕は疑問だらけのままこくんと頷いた。
しばらくすると、お父様は僕の頭をポフポフと撫で、大きく息を吐いた。
「ふぅ、どうやらそのようだな。匂いもついていないし、接触した形跡はない。疑って悪かったね、ルカ君。色々と説明……紹介する前に二人が出会ってしまったことに少しばかり焦ってしまったんだよ。ごほん、では気を取り直して紹介しよう。この子は今日からここに住むことになったルカ=ブライデン君だ。彼の父は私の古い友人でな。仕事で遠方に行くからその間だけ、息子のルカ君を預かることになった。仲よくしてやってくれ。ルカ君、こっちは長男のリエル、次男のジュダ、三男のセインと末っ子のアーシュだ」
よろしくお願いします、と微笑んだルカ君は小悪魔のように愛らしい。綺麗に弧を描いた唇の隙間からは鋭い牙が覗いている。
(なんて立派な牙!!)
でも注目すべきはそこではなかったようで、僕以外の兄弟はみな揃ってルカ君の目を凝視している。
「へえ、ピンクの瞳か。見たことねえ色だな」
不躾に顔を近づけ瞳を覗き込むジュダ兄様に対し、お恥ずかしいことに、と前置きしてからルカ君が答えた。
「僕の母は人間なんです」
「父親が父様の友人で母親が人間っつーことは、ハーフか」
「はい……。あの、やっぱりハーフはお嫌いですか?」
ピンクの瞳を潤ませながら尋ねるルカ君に、「いや別に?」とだけ言ってジュダ兄様はこっちに来る。
(もうお話はいいのかな? まだルカ君は話し足りないみたいだけど……)
自分で話を振っておいて、興味がないとさっさと話を切り上げてしまうところはジュダ兄様の悪い癖だと以前セイン兄様がグチっていたことを思い出す。今だって、セイン兄様はジュダ兄様のことを呆れ顔で見ている。
「アーシュ、今日の吸血練習は俺とだろ? このまま一緒に部屋に戻ろうぜ! もう話は終わったから退室してもいいですよね、父様」
「ああ、ルカ君にはこの家のことについて色々説明しなければならないことがあるからな。その方が助かる。しかしジュダ、張り切るのはいいが無茶をさせてはいけないよ。頑張ってきなさい、アーシュ」
「あ……はいっ」
頑張ってね、と額にキスをくれるお母様に同じようにキスを返して、僕はジュダ兄様と一緒に部屋を出た。
目は青。窓の外には月と星。
何一つ変わらない日々が過ぎていく。
食事の後、いつもなら部屋に戻って休憩してからお兄様たちの部屋に向かうんだけど、今日はその前にお父様から重大発表があるという。
一体何のお話だろう? もしかして、お兄様たちと同じ部屋にしてもらえるんじゃ? それともニンゲンのパーティーに行ってもいいよとお許しが出るのかも。
(そうだとしたら……なんて素敵なんだろう)
何かが変わるんじゃないかという期待に胸が膨らむ。
我慢できずに早めに部屋を出たら、なんと呼ばれた時間の一時間も前に、応接間に着いてしまった。
「いつでも落ち着いていられるように、時間前行動を心がけましょうね」というのがお母様の口癖だとはいえ、いくらなんでも早すぎる。
どうせまだ誰もきてないだろうと思いつつ、そっとドアを開けてみるとーー
意外なことに先客がいた。
大きなピンクの瞳に長い銀のまつ毛、白磁のように透き通った白い肌、そして髪の毛は高位の吸血鬼の家系に多い銀髪。お人形みたいに整った顔の少年が、ソファに座ってミルクティーを飲みながら窓の外を眺めている。
(えーと、誰だろう……容姿からしていかにも吸血鬼のご子息ってかんじだし、お父様のご友人の子ども、とかかな? 同じ年くらいだし話しかけてみたいけど……)
家族以外とはほとんど喋ったことがないから、何を話せばいいかわからない。社交界に出て知らない人と話す時はとりあえず相手を褒めろと習ったし、「綺麗な銀髪だね」って褒めてみようか。
ところが、ぐだぐだ悩みすぎたせいか、声をかけるより前に彼が僕の存在に気づいてしまった。
少年は美しい顔をこちらに向けて、不機嫌な声で言い放つ。
「何? 薄汚い人間風情がジロジロ見てこないでよ」
「え……?」
(薄汚いニンゲンって僕のこと?)
可愛らしいピンクの唇から飛び出たしんらつな言葉に唖然とする。
見かけによらずちょっと、いや、かなり失礼な子かもしれない。ニンゲンと間違えるだけならともかく、初対面の相手に薄汚いだなんて。
「僕は……」
ニンゲンじゃないよと否定しようとしたその時。すぐ後ろでバンッと勢いよくドアが開くと同時に、お母様の甲高い声が響いた。
「まぁ、アーシュちゃん!? どうしてあなたがここにいるの? お約束の時間まで、まだ一時間もあるはずでしょう?」
長いふわふわウェーブの銀髪を弾ませてお母様が小走りで近づいてきた。いつもおっとりお淑やかなお母様がこんなふうに青い顔をして慌てているなんて只事じゃない。
(もしかして早く来ちゃダメだったのかも。そういえば、早すぎるのもマナー違反だと教わったっけ)
「お母様……僕、待ちきれなくて……ごめんなさい」
ぺこりと下げた頭に、長い髪が触れる。気づけば心配そうなお母様のお顔がすぐ側にあった。
「どこも噛まれてないわね!?」
「えっと。か、かまれて……? ないです」
吸血鬼の僕が噛むならともかく、噛まれるって何? しかも、何度も「噛まれてないです」と繰り返しているのに、なぜかしつこく僕の首筋や手首をチェックし続けるお母様に、困惑を隠せない。
その後ろでは、続いて入ってきたお父様やお兄様も異変がないか確かめるように厳しい目つきで僕の体を観察している。
「あの……お母様、お父様、お兄様……?」
訳のわからない家族の反応に戸惑っていると、美少年が立ち上がり、弁解するように言った。
「僕は何もしてません。ですよね? アーシュさん」
彼がこの状況とどう関わりがあるのかわからないけど、ここは頷くしかない気がして、僕は疑問だらけのままこくんと頷いた。
しばらくすると、お父様は僕の頭をポフポフと撫で、大きく息を吐いた。
「ふぅ、どうやらそのようだな。匂いもついていないし、接触した形跡はない。疑って悪かったね、ルカ君。色々と説明……紹介する前に二人が出会ってしまったことに少しばかり焦ってしまったんだよ。ごほん、では気を取り直して紹介しよう。この子は今日からここに住むことになったルカ=ブライデン君だ。彼の父は私の古い友人でな。仕事で遠方に行くからその間だけ、息子のルカ君を預かることになった。仲よくしてやってくれ。ルカ君、こっちは長男のリエル、次男のジュダ、三男のセインと末っ子のアーシュだ」
よろしくお願いします、と微笑んだルカ君は小悪魔のように愛らしい。綺麗に弧を描いた唇の隙間からは鋭い牙が覗いている。
(なんて立派な牙!!)
でも注目すべきはそこではなかったようで、僕以外の兄弟はみな揃ってルカ君の目を凝視している。
「へえ、ピンクの瞳か。見たことねえ色だな」
不躾に顔を近づけ瞳を覗き込むジュダ兄様に対し、お恥ずかしいことに、と前置きしてからルカ君が答えた。
「僕の母は人間なんです」
「父親が父様の友人で母親が人間っつーことは、ハーフか」
「はい……。あの、やっぱりハーフはお嫌いですか?」
ピンクの瞳を潤ませながら尋ねるルカ君に、「いや別に?」とだけ言ってジュダ兄様はこっちに来る。
(もうお話はいいのかな? まだルカ君は話し足りないみたいだけど……)
自分で話を振っておいて、興味がないとさっさと話を切り上げてしまうところはジュダ兄様の悪い癖だと以前セイン兄様がグチっていたことを思い出す。今だって、セイン兄様はジュダ兄様のことを呆れ顔で見ている。
「アーシュ、今日の吸血練習は俺とだろ? このまま一緒に部屋に戻ろうぜ! もう話は終わったから退室してもいいですよね、父様」
「ああ、ルカ君にはこの家のことについて色々説明しなければならないことがあるからな。その方が助かる。しかしジュダ、張り切るのはいいが無茶をさせてはいけないよ。頑張ってきなさい、アーシュ」
「あ……はいっ」
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