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殺人現場に詩をそえて

【寛】一閃

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 翌朝、寛は刹那の日記を読んだ。なるほど、早乙女先輩と会ったのか。いかにも早乙女先輩らしい言葉だ。しかし――それは理想論ではないだろうか。早乙女先輩も身内を殺されたら、同じ考えにいたるのでは? 寛はそんなことを考えながら署に向かった。




 署に着くと先に滝沢がいた。新米だから早く着くべき、ということもないのに。珍しく読書をしている。


「滝沢さん、あなたは読書嫌いだと思っていましたが……」と寛。


「ええ。自分も圭先輩と同じで読書は苦手ですよ。でも、ホームズにはまっちゃって。ほら、この前ドラマやってたじゃないですか」


 虫眼鏡で地面を見るような仕草をする。


「それで『緋色の研究』を一気読みしちゃって。ほら、次は『四つの署名』ですよ」


 手にした本は二百ページはありそうだ。圭兄さんなら読まないだろうな、と寛は思った。もちろん、寛はとっくの昔に読んでいる。


「ホームズって推理力がすごいだけじゃなくて、博識で知的ですよね。憧れちゃいますよ! 『緋色の研究』に面白い文章があったんですけど。えーと、無色の糸が……どうとか。あれ、どんなんでしたっけ?」


「『人生と言う無色の糸の束には、殺人という緋色の糸が一本混じっている。ぼくらの仕事は、その糸の束を解きほぐし、緋色の糸を引き抜いて、端から端までを明るみに出すことなんだ』ですね」


「そうそう、それですよ、それ。まるで歩く図書館ですね!」滝沢は感心しているようだが、寛にとっては出来て当然だった。


「しかし殺人を赤い糸に見立てる、そんな考え方もあるんですね。赤い糸といえば、自分なら運命の赤い糸を連想しますけれど。同じ赤い糸でも例えが真逆ですね。一方は幸福、もう一方は悲劇。これが感性の違いってものですか」


 滝沢の意見を聞いて、寛は「なるほど」と思った。その発想はなかった。


「それにしても、マッドグリーンもなんで緑色なんか使うんでしょうね。ホームズが言っているみたいに、赤色にすれば血の色みたいで目立つのに。自分ならそうしますけど」


 確かに、滝沢の言う通りだ。緑といえば安全や安心という印象が強い。避難誘導灯や信号なんか典型的な例だ。緑と赤。色だけでイメージまで変わる。これは面白い発見だ。


 その時、寛はあることに気がついた。そして、マザー・グース事件の記録を読み漁ると、確信を持つ。今度こそ、マッドグリーンの正体を突き止めた! 本来なら寛自身が犯人を逮捕したいが、関係者を集めるには時間が足りない。


「滝沢さん、明日、事件の関係者を集めてくれますか? 圭兄さんがマッドグリーンを追い詰めますから」



 寛は帰宅すると自身の推理を日記に書き込んだ。寛の想いをそえて。
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