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第1部
フェーズ2-7
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結局、涼から家に電話がかかってきたのは、夜になってからだった。母のパートが終わった時間を見計らって私も何度か電話をかけたのだけど、母には繋がらなかった。こんな日に限って家に携帯電話を忘れていたらしい。
電話で母が意気揚々と説明をしている。私はリビングでその様子に耳を傾けていた。内容はすでに私が母から聞いた話と同じだ。
「花と一緒に帰ってきたら、家の前にその記者さんがいたんですよ。名刺を渡されて、『神河先生をご存知ですか』と訊かれたんです。『ご存知も何も、娘の婚約者です』と答えたら、『娘さんに口裏合わせを頼まれたのでは』って。失礼しちゃいますよねえ。カチンとしながら『実際にうちに挨拶にいらっしゃいましたけど』って言ったら、ちょっと焦ってましたよ。それはいつのことかとか、その日の様子を訊かれましたけど、こちらとしては忘れもしないおめでたい日のことですからね。先生がうちにいらした時間も、あの日の先生の素敵なスーツ姿も、先生の真摯なお言葉も、ぜーんぶ憶えてますから、何から何までスラスラ答えてやりました」
いろいろ訊かれたんだな。スキャンダルが発覚してマスコミに追われる芸能人の気持ちが少しだけわかる気がする。
「あ、もちろん先生のお言葉をそのままは教えてませんよ? プライベートな部分を記事にされたくないですもの。そのへんは適当に端折りましたからご心配なく。『信頼できるお医者様だし、いい男だし、家族みんな大喜びなんですよ』ってお伝えしたら、さらに焦ってましたねえ」
「タジタジって感じだったよねー。やっと本当だってこと理解したんじゃん?」
私の横にいた花も口を挟む。
「婚約指輪のことも話したら、さらに顔色が変わっちゃって。先生にもお見せしたかったですよ、あの顔」
「そうそう。ちょっとウケた」
うーん、私もちょっと見てみたかったかもしれない。
「『受注生産だからまだできあがってないけど、娘がまだ高校生だからって誠意を表すためにすごいの買ってくれたみたいですよ』って自慢してやりました」
はったりではなくて、婚約指輪は写真を撮られるよりも前に本当に発注済だ。届くのは一カ月後くらいの予定で、今はまだ手元にない。
「『高校生で結婚なんてどうなんでしょうねー』なんて嫌味ったらしく言うもんだから、『だから婚約なんじゃないですか。籍を入れるのはまだまだ先ですよ』って教えて差し上げました。知らなかったのかしらね」
「苦しまぎれに言っただけでしょ。棒読みだったし」
時折、花が補足を入れてくれるから私もイメージしやすい。
「スーパーで買った食材を持ってたものですから、まだ用があるのかしらと思って、強めに『それで、先生が何か?』とうかがったら、『いえ、そういうことであれば特に』と小さくなって帰っていきましたよ。お祝いの言葉くらいあってもいいのに。ねえ? 先生もそう思いません?」
隣で花もうんうんと頷く。
「いえいえ、突撃インタビューを受けてるみたいで楽しかったですよ。それより今度またご飯食べにいらしてくださいね。お待ちしてますから。はい……はい……ではまた」
笑いながら挨拶をして、母が受話器を置いた。
「切っちゃったの?」
様子をうかがっていた私は、リビングのソファから身を乗り出した。
「だってお母さんにかかってきたんだから。あなたからかけ直したら。でもまだ病院にいるみたいだから、あとのほうがいいかもね」
仕事の合間を見てかけてきてくれたんだろう。仕方ない。あとでかけよう。家に押しかけてきた記者を母たちが退治する前、病院の院長室では何があったのか気になる。
「お母さんも花も、ありがとう。ごめんね、面倒かけて」
「私もちょっとおもしろかったし。未成年インコーのスキャンダルを狙ってきたんだろうけど、いい気分だよ。実際は、親も認めてて婚約中だっての。先生を悪者にしようとするなんて、マジ腹立つ」
ボリュームを戻したテレビを見ながら花が憤慨している。
「それでこの前、不つり合いだとか未成年だとか気にしてたのね」
「え、そんなこと気にしてんの? 大丈夫でしょ。そんな高い指輪買ってくれたんだから。ね、いくらだったの? 教えてよ」
「教えない」
それとこれとは話が別だ。
「けち。でも、すっきりしたよねー。返り討ちにしてやったんだよ。私、ちょっと調べたんだけど、こういうのって親が認めた真剣交際なら誰も文句は言えないんでしょ? 週刊誌が出てくる幕じゃないよね。完全に勘違いしてて超ダサい」
「まあまあ、あちらさんもそれがお仕事だからね」
「お母さん、聖人すぎる!」
興奮冷めやらぬ様子で、二人はしばらく盛り上がっていた。
電話で母が意気揚々と説明をしている。私はリビングでその様子に耳を傾けていた。内容はすでに私が母から聞いた話と同じだ。
「花と一緒に帰ってきたら、家の前にその記者さんがいたんですよ。名刺を渡されて、『神河先生をご存知ですか』と訊かれたんです。『ご存知も何も、娘の婚約者です』と答えたら、『娘さんに口裏合わせを頼まれたのでは』って。失礼しちゃいますよねえ。カチンとしながら『実際にうちに挨拶にいらっしゃいましたけど』って言ったら、ちょっと焦ってましたよ。それはいつのことかとか、その日の様子を訊かれましたけど、こちらとしては忘れもしないおめでたい日のことですからね。先生がうちにいらした時間も、あの日の先生の素敵なスーツ姿も、先生の真摯なお言葉も、ぜーんぶ憶えてますから、何から何までスラスラ答えてやりました」
いろいろ訊かれたんだな。スキャンダルが発覚してマスコミに追われる芸能人の気持ちが少しだけわかる気がする。
「あ、もちろん先生のお言葉をそのままは教えてませんよ? プライベートな部分を記事にされたくないですもの。そのへんは適当に端折りましたからご心配なく。『信頼できるお医者様だし、いい男だし、家族みんな大喜びなんですよ』ってお伝えしたら、さらに焦ってましたねえ」
「タジタジって感じだったよねー。やっと本当だってこと理解したんじゃん?」
私の横にいた花も口を挟む。
「婚約指輪のことも話したら、さらに顔色が変わっちゃって。先生にもお見せしたかったですよ、あの顔」
「そうそう。ちょっとウケた」
うーん、私もちょっと見てみたかったかもしれない。
「『受注生産だからまだできあがってないけど、娘がまだ高校生だからって誠意を表すためにすごいの買ってくれたみたいですよ』って自慢してやりました」
はったりではなくて、婚約指輪は写真を撮られるよりも前に本当に発注済だ。届くのは一カ月後くらいの予定で、今はまだ手元にない。
「『高校生で結婚なんてどうなんでしょうねー』なんて嫌味ったらしく言うもんだから、『だから婚約なんじゃないですか。籍を入れるのはまだまだ先ですよ』って教えて差し上げました。知らなかったのかしらね」
「苦しまぎれに言っただけでしょ。棒読みだったし」
時折、花が補足を入れてくれるから私もイメージしやすい。
「スーパーで買った食材を持ってたものですから、まだ用があるのかしらと思って、強めに『それで、先生が何か?』とうかがったら、『いえ、そういうことであれば特に』と小さくなって帰っていきましたよ。お祝いの言葉くらいあってもいいのに。ねえ? 先生もそう思いません?」
隣で花もうんうんと頷く。
「いえいえ、突撃インタビューを受けてるみたいで楽しかったですよ。それより今度またご飯食べにいらしてくださいね。お待ちしてますから。はい……はい……ではまた」
笑いながら挨拶をして、母が受話器を置いた。
「切っちゃったの?」
様子をうかがっていた私は、リビングのソファから身を乗り出した。
「だってお母さんにかかってきたんだから。あなたからかけ直したら。でもまだ病院にいるみたいだから、あとのほうがいいかもね」
仕事の合間を見てかけてきてくれたんだろう。仕方ない。あとでかけよう。家に押しかけてきた記者を母たちが退治する前、病院の院長室では何があったのか気になる。
「お母さんも花も、ありがとう。ごめんね、面倒かけて」
「私もちょっとおもしろかったし。未成年インコーのスキャンダルを狙ってきたんだろうけど、いい気分だよ。実際は、親も認めてて婚約中だっての。先生を悪者にしようとするなんて、マジ腹立つ」
ボリュームを戻したテレビを見ながら花が憤慨している。
「それでこの前、不つり合いだとか未成年だとか気にしてたのね」
「え、そんなこと気にしてんの? 大丈夫でしょ。そんな高い指輪買ってくれたんだから。ね、いくらだったの? 教えてよ」
「教えない」
それとこれとは話が別だ。
「けち。でも、すっきりしたよねー。返り討ちにしてやったんだよ。私、ちょっと調べたんだけど、こういうのって親が認めた真剣交際なら誰も文句は言えないんでしょ? 週刊誌が出てくる幕じゃないよね。完全に勘違いしてて超ダサい」
「まあまあ、あちらさんもそれがお仕事だからね」
「お母さん、聖人すぎる!」
興奮冷めやらぬ様子で、二人はしばらく盛り上がっていた。
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