どうしたって、君と初恋。

散りぬるを

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後悔

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 夏世をはじめ遊園地の女性スタッフとも目を合わせられないまま、今度は鏡のある部屋へ誘導される。簡単なヘアセットをしてもらい、ロッカーに私服を預け、夏世に背中を押されるままに外へ出た。
 どうして夏世は平気なんだろう。長い悪魔のツノも、黒いヴェールも恥ずかしくないんだろうか。
 顔を伏せて歩いていると、大石君の興奮した声が響いた。

「うおー、すげー!! 意外と本格的なんだな! 夏世、このツノやばいな。ははっ、可愛いじゃん」
「でしょ? この衣装に一目惚れしちゃったの。この黒いレースなんか、すごく可愛いでしょう」

 夏世の弾んだ声につられて視線を上げ、夏世と大石君のやりとりを眺める。夏世は頬をすこしだけ赤らめて、恋する乙女みたいな顔で嬉しそうに笑っていた。
 大石君も目を細めて、優しい眼差しで夏世を見ていた。言葉には出していないのに、お互いに好きだと伝え合っているみたい。
 わたしと螢一君も、昔はあんなふうに誰かの目に映っていたのかな。
 
「海央」
「は、はい!」

 パッと顔を伏せて、直立不動の体勢をとる。身体中が熱くなって、まるで呼吸の仕方を忘れたみたいに息を止めてしまう。
 螢一君の表情を確認するのが怖い。

「顔、上げて」
「むり、です」
「ははっ。無理か。じゃあ、アトラクション待ちのときの百面相写真は消さずに一生持っておこうかな」
「困る! 消して!」

 わかりやすい罠に甘んじて引っかかる。羞恥心を消すならいましかないと思った。
 螢一君は目を見張って、固まった。視線が頭の先から足の先まで流れて、左に行き、落ちる。そして、片手で口元を覆って瞼をすこしだけ伏せた。

「想像以上に天使だね」
「螢一君が照れないでよ。一番恥ずかしいのはこっち」
「うん、ごめん。はぁ……ちょっと待ってね。俺、大丈夫かな」
「え?」

 螢一君は理性がどうとか、ブツブツと呟き顔をしかめて唸っていた。
 なんのことかはさっぱりわからないけれど、とりあえずは引かれなくてよかった。
 夏世に誘われて、パネル前で四人揃って記念写真を撮る。写真の映えスポットを巡りながら、ゆっくり、ゆっくりと緊張と羞恥心が解けていくのを感じた。
 そして二十分が経った頃、唐突に夏世が言った。

「じゃ、ここからは別行動で!」
「なっ、はあ?!」

 わたしは思わず夏世の腕を掴んで、螢一君たちから距離を置いた。
 いきなり元カレとふたりきりにされても困る。

「聞いてないよ。さっき言ってたことはなんだったの」
「なんのことだっけ」
「わたしも仮装しないと浮くからって」
「見られることにもう慣れたから、別行動でも大丈夫かなって」

 ケロッとしれっと、そんなことを言う友人を恨みがましく思う。

「海央、畑瀬君に謝りたかったんじゃないの。自然消滅したこと、ずっと後悔してたじゃん」
「それは」

 胸の奥底に刺さったままの古い棘。見ないように、触れないようにしてきた。
 わたしはいつだって臆病で、その棘に触れるのが怖かった。
 螢一君のことが大好きだったのに――大切にできなかった。お互い部活ですれ違って、三年になって部活を引退した後は受験勉強に追われて、あっという間に卒業式を迎えた。
 喧嘩のひとつもなくて、お互いがどう思っているかも理解し合えないまま、「また連絡するね」と口約束だけを残してそれぞれの道に進んだ。
 そのことがずっと、心残りだった。
 それ以降、恋人ができても浮気をしているような気分になって、付き合ってくれた相手のことも大切にできなかった。

「ちゃんと謝って、過去のことに決着つけたらどう?」
「そう、だね。うん」
「あと、大石とふたりきりにしてほしいし」
「そっちが本命でしょう」

 夏世はケラケラと笑って、わたしの背中をぽんと叩いた。

「そんじゃ、解散しますか。いい感じの雰囲気になったら、連絡なしで帰ってオッケーと言うことで」
「いい感じの雰囲気になるのは、そちらさんだけです」
「それは、どうかな」

 夏世は大石君の元へとまっすぐに駆けて行った。
 それはどうかな、なんて。あり得ないよ。だって、わたしたちが元の関係に戻れるなら、空白の十年はなんだったの。
 螢一君は柔らかな髪をなびかせてゆっくりと歩いて来る。

「話はまとまった?」
「うん。ふたりきりにさせてあげてもいい?」
「もちろん。水を差すような真似はしないよ」
「ありがとう」
「どうして海央がお礼を言うの。あぁ、天使だからか」
「さっきからそういうことばっかり。悪魔になっておけば、ここまでからかわれずに済んだかな」

 螢一君は、ふふっと鼻から抜けるような笑いをこぼした。
 アトラクションを巡っている間、確かに仮装するか悩んでいたけど、その一方で螢一君のことも見ていた。周りをよく見ているところ、気配り上手なところ。螢一君が人に優しくしている姿を見るたびに、ああ、こういうところを好きになったんだと思い出していた。今もむかしも、変わらず同じところに胸がときめいて――好きだなと思ってしまった。
 だからこそ、確認しておかなくちゃいけないことがある。
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