ラグジュアリーシンデレラ

日下奈緒

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第2話 連絡先

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「私の事よりも、青志の事の方が大事よ。」

「そういうの、嫌なんだ!」

「青志……」

私は傷ついた目をしている青志を、ぎゅっと抱きしめた。

「姉ちゃん。俺の犠牲になんて、ならないでよ。」

「大丈夫よ。私、これでも強いんだから。」

私は青志と向かい合った。

「でも、本当によかったの?名刺破いて。」

「ああ、いいの。その人、社長さんだから。私達とは住む世界が違うわよ。」


立ち上がって、何気なくキッチンに行った。

シチューを作るのに、野菜を切った。

そう。

井出さんはきっと、こんな庶民派の料理なんて、食べないわよ。

いつもあんなレストランで、高くて美味しい料理を食べているのよ。


「社長だって、いいと思うんだけどな。」

青志が何気に言った。

「姉ちゃん、美人だし。大学だっていいとこ通ってたんだし。イケると思うよ?社長夫人。」

「何言ってんのよ。相手が私を選ばないわよ。」

そうそう。

井出さんみたいな紳士が、私のような貧乏くさい女を選ぶ事はない。


そんなある日の事だった。

斉藤さんが、笑顔で私の側にやってきた。

「結野ちゃん、これあげる。」

「えっ?」

急に手の平に、紙を握らせられた。

「何ですか?これ。」

紙を開いてみると、電話番号が書かれていた。

「何だと思う?」

「さあ。」

「社長さんの、連絡先。」

「えっ!」

井出さんの!?

しかも、LINEのIDとかじゃなく、電話番号?

「結野ちゃんに教えるって言ったら、それは楽しみだって、言ってたよ。」

「そんな……」

井出さん、どんな気持ちで、この電話番号を書いたんだろう。

すると斉藤さんは、私の両腕を掴んできた。

「早速、電話してみたら?」

「でも……」

「私もずけずけと聞いてしまったからあれだけど、社長さんだってきっと、結野ちゃんだから教えたんだよ?」

「はあ……」

でも、電話を架ける勇気なんてない。

まさか、いきなり電話だなんて。

「今の時代、女から電話を架けたって、おかしくないじゃない。架けるんだよ。いいね。」

斉藤さんはそう言うと、仕事に戻って行った。


「はぁー……」

この前のお礼はしたいから、連絡しなきゃいけないんだけど。

そうだ。Sメールだったら、文字も送れたよね。

私は後で返事を書こうと、ポケットに紙を入れた。

そして窓のサッシを拭こうと、会議室のドアを叩いた。

「はい。」

中から返事がした。

「すみません、会議中でしたか?」

「いいえ。」

私は思い切って、ドアを開けてみた。

中には、この階のOLさん達が、会議の準備をしている。

「清掃に入りたいんですが、いいですか?」

「いいですよ。」

「ありがとうございます。」

私は一礼して、窓の方向に向かった。


ここのOLさん達、やっぱり高層ビルに働いているだけ、綺麗な人ばかりだ。

私も違う日はOLだけど、あんな高そうな服、着る事なんてできない。

おそらく、隣のショッピングモールとかで、洋服買ってるのかな。

羨ましいな。

そんな事を思いながら、窓のサッシを拭き続けた。

その時だ。

「ねえねえ、隣の会社の社長。見た?」

「もしかして、インテリジェンスの井出社長?」

「カッコいいよね。」

井出社長!

ここのOLさん達にも、人気があるんだ。

「聞いた?井出社長、ヒルズのレジデンスに住んでいるだって。」

「うっそー!」

ヒルズのレジデンス?

あのビルから見える、低層マンションの事?

「あそこって、億ションなんでしょ?」

「何?億ションって。」

「もう!一戸、一億するマンションの事よ。」

「ええっ?」


住んでいる場所が、一億するマンション?

井出さんが?

何故か、頭がクラクラしてきた。


「私達なんか、相手にされないわよ。」

「あーあ。密かに狙っていたんだけどな。井出社長。」

「きっとモデルとか女優とかじゃないと、相手にしないわよ。」

「そうね。」

窓のサッシを拭き終わって、私は「失礼しました。」と、会議室を去った。
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