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相模の国へ、初女仕入れの旅 山奥の巻(七十九話)

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 オラの女衒初仕事は、相模の国での女仕入れだて。土佐兄からは、三人仕入れて来い、迷ったら五人だと言われたんや。漁村でおぼこ上がりを一人、宿場で飯盛り女を一人と話し付けたんで、あと一人だわな。あの、迷ったら五人とは、どう言う意味なんかのう。
 あれは、もしやオラを試したんでねえか、四人、五人ではだめなんやないけ。土佐兄はこうも行った。「こいで、おまんの行く末がわかるき」とな。わかったわい、土佐兄なりの謎かけや、三人のみを仕入れろってこつや。女衒に迷いは禁物というこつや。女ん売り買いは、まさに真剣勝負。よし、あと一人で江戸へ引き上げるわ。
 宿場の泊まっとる旅籠にタマを残し、あん飯盛り女にはしばし待てと言うてある。こいから、山奥で女一人仕入れてこよう。どこがええろかや。そんや、駿河との国境に金時山がある。金太郎伝説ん地や、凄か女いるかもだて。小田原宿からは、北に向かい足柄峠まで行き、後は山道やな。日帰りで行って来て、明日には江戸に戻るかいな。あと、一人や。

 旅籠で朝飯をすませ、箱根ん山を左に、酒匂川沿いをてくてく北へとな。途中、大雄山最乗寺に詣で、杉並木の見事さに見入ったのう。昼前に峠に着き、かまぼこの入った力うどんを食べ、金時山へと登りや。あん金太郎伝説の地や、女金太郎みてえの出て来んかいな。でも力持ちは、きのう仕入れた飯盛り女がいるわい。でか女や。ここは山奥だすけ猿女か、猪女かいや。でものう、そう、ヤマメんような美人がええ。
 ……あれ、あの沢んとこで、アネサが尻端折って魚取りやっとる、ええ尻しとる。

 オラ 「アネサ、こん沢で魚たんと獲れるかいや?」
 アネサ「ああ、そんだよ。ハヤ、ヤマメ、イワナいるぞえ」
 オラ 「そいで、そん違いはなんじゃ?」
 アネサ「そうやのう、ハヤは不味かども、よう獲れて売れる。ヤマメは品があって、見た目も綺麗で川の女神様や。イワナは気が荒く蛇まで食う、味もヤマメよか落ちるてな」
 オラ 「そうすっと、ヤマメがええのう。あの、アネサも綺麗でねえか」
 アネサ「何言うてな、山ん女だ。米作って、魚、野菜売って、ここで土んなる」
 オラ 「ええ女がもったいねえのう、まだ、独り身かえ?」
 アネサ「んだよ。山奥じゃでな、若い衆も少ねえんだよ。ええ男いねえかいや、魚が男に見える時もあんだよ」
 オラ 「なあ、江戸へ行って見たくねえけ?」
 アネサ「アテのあんちゃんが跡継いどる、だめ言えばだめだ。早いとこ、どっか嫁に行かねばなんねけんどな」
 オラ 「と言うと、行って見てえ気はあるんかいや、オラが世話すんど」
 アネサ「何の仕事じゃて? 女一人で江戸で何やんのや?」
 オラ 「明るいうちは、言いにくい生業や。オラは闇の稼業やっとる」
 アネサ「だども悪か人に見えんな、でも人買いかや? 図星やろ」
 オラ 「ああ、そんだ、良く言うと、置屋への女の斡旋や。オラは江戸から相模へ女仕入れに来たんや、兄貴分に言われてのう。でもって、初仕事やから銭の絡まんこと、女ん口説き落としやっとる」
 アネサ「そやろて、女ん買い付けなんか、よう出来んやろて」
 オラ 「そんや、兄貴からは値付けでのうて、女の仕分けやれ言われておるんや」
 アネサ「仕分けって、何の?」
 オラ 「いやいや、ええ女には、よう言えん。よそ当たる、邪魔したな」
 アネサ「待ってえな。ここは山ん奥の沢や。誰も来やせん。アテ、体熱か……
魚獲っとると、魚が男に見えてくる言うたやろ、女だって……」
 オラ 「ああ、こう言うこつやな、男が桃にかぶり付くんと似とるな。そりゃ男は、女ん体にしゃぶり付きてえ、桃と一緒じゃて」
 アネサ「もっと山ん奥さ行こう。アテん男日照りは半端でねえ。実は好き者や。兄さんのイワナ欲しか。腹一杯にしてくれな。アテの仕分け、イワナで確かめてんか、えかったら江戸へ連れてっておくれ。あんちゃんには何とでも言う。江戸行く決めた。任せるよって」
 オラ 「あのう、ええんけ? 明日には小田原宿を立つ。仕入れた娘っ子、飯盛り女と一緒にやで、どうすんのや?」
 アネサ「じゃこうすんど、あんちゃん説得して、荷物背負って向かう。明日のお昼過ぎには小田原宿に着く。待っててくらんしょ」
 オラ 「そいはええけんど、まだ、オラのイワナが……」
 アネサ「ああ、そいやった、アテんのはヤマメや。仲良く極楽さ泳ごうな。ヤマメは美味しいんやで、たんと味わってのう……」




 次ん日、あん女はやって来た。
 オラくれえの齢の、サヨゆう美人や。山奥での仏壇返し、あえぎ声はこだまとなって響いたわ。
 ヤマメん味や良し、上の下や。高く売れる、値付けは土佐兄の仕事や。
 何だかんだ、こいで、女三人仕入れたわ。後は引き渡す。
 娘っ子、飯盛り女、ヤマメ女や、みんなええ。さあ、江戸へな……
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