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2人
本音
しおりを挟む「……ガブリエル?」
「違う」と言い切った彼の態度に驚きながら名を呼ぶと、彼は長い睫毛を瞬かせ、青い湖面のような瞳に真摯な光を滲ませた。
「私は、騒がしいのは好まない」
はっきりとしたその物言いに、ロメリアは思わず笑いそうになった。
彼は確かに騒がしいのは好きではない。
だから、いつもいつも彼の傍で、餌を欲しがる雛鳥のように騒いでいた自分のことだって、好きになるはずはないのだ。
そんなことは知っている。わざわざ言う必要はない。それなのにガブリエルは律儀に宣言する。
「知っているわよ」
ロメリアが不機嫌に相槌を打つと、ガブリエルは静かに首を振った。
「最後まで聞いて欲しい」
ガブリエルにはロメリアの考えていることが分かったようだった。だが、その考えは違うのだと彼は言外に否定する。
「王都へ行ってからはずっと……静かな場所で、君の声を思い出していた」
彼はそのように言ったが、自身の言葉に納得出来なかったのか、またしばらく考え込んで、もう一度同じようなことを言う。
だが、その意味は先程の言葉とは全く意味が異なっていた。
「君の声を思い出したくて、静かな場所へ足を運んだ」
「……」
ガブリエルの伝えたいことが全て分かったわけではないが、ロメリアには彼の言いたいことが分かったような気がした。
騒がしいのは嫌いなのに、騒がしいロメリアの声を思い出したくて静かな場所へ行く……。
大いなる矛盾を孕んだ行動は、とても不可解なようだが、帰結する結論は至って単純なもの。
「……っ」
ブローチの入った箱を開ける前に感じた、不愉快な感覚がまたしても、ロメリアの身体を痺れさせた。
まるで聞いてはいけないと言うように。
けれど、ロメリアは決して耳を塞いだりはしなかった。
怖い、と感じる。
けれど、ガブリエルがまるで乞うような視線を投げてくるのに、聞くことを拒絶するなどロメリアには到底出来ることではなかった。
強大な運命の力を恐れているのに、変な話かもしれない。それでも、普段感情を露わにせず、無関心を貫く彼の言葉を聞いてみたいと思った。
「──……君に会えないのは、もう嫌だ」
言い切ったガブリエルに、ロメリアは言葉もなくただ俯く。
彼から、これほど明らかな感情を向けられたことはなかった。
嬉しくて堪らないと思う。
「愛している」「好き」「慕っている」
そんな言葉はいらなかった。
ただ、幼い頃。
ロメリアに会っても、何の感慨も抱かず、むしろうんざりしていた彼が「会えないのは、嫌だ」と言った。その言葉を聞いただけで、ロメリアは胸がいっぱいで、息が苦しくなった。
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