愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

文字の大きさ
64 / 79
2人

本音

しおりを挟む

「……ガブリエル?」

「違う」と言い切った彼の態度に驚きながら名を呼ぶと、彼は長い睫毛を瞬かせ、青い湖面のような瞳に真摯な光を滲ませた。

「私は、騒がしいのは好まない」

はっきりとしたその物言いに、ロメリアは思わず笑いそうになった。

彼は確かに騒がしいのは好きではない。
だから、いつもいつも彼の傍で、餌を欲しがる雛鳥のように騒いでいた自分のことだって、好きになるはずはないのだ。

そんなことは知っている。わざわざ言う必要はない。それなのにガブリエルは律儀に宣言する。

「知っているわよ」

ロメリアが不機嫌に相槌を打つと、ガブリエルは静かに首を振った。

「最後まで聞いて欲しい」

ガブリエルにはロメリアの考えていることが分かったようだった。だが、その考えは違うのだと彼は言外に否定する。

「王都へ行ってからはずっと……静かな場所で、君の声を思い出していた」

彼はそのように言ったが、自身の言葉に納得出来なかったのか、またしばらく考え込んで、もう一度同じようなことを言う。
だが、その意味は先程の言葉とは全く意味が異なっていた。

「君の声を思い出したくて、静かな場所へ足を運んだ」
「……」

ガブリエルの伝えたいことが全て分かったわけではないが、ロメリアには彼の言いたいことが分かったような気がした。
騒がしいのは嫌いなのに、騒がしいロメリアの声を思い出したくて静かな場所へ行く……。

 大いなる矛盾を孕んだ行動は、とても不可解なようだが、帰結する結論は至って単純なもの。

「……っ」

ブローチの入った箱を開ける前に感じた、不愉快な感覚がまたしても、ロメリアの身体を痺れさせた。
まるで聞いてはいけないと言うように。
 けれど、ロメリアは決して耳を塞いだりはしなかった。

怖い、と感じる。

けれど、ガブリエルがまるで乞うような視線を投げてくるのに、聞くことを拒絶するなどロメリアには到底出来ることではなかった。

強大な運命の力を恐れているのに、変な話かもしれない。それでも、普段感情を露わにせず、無関心を貫く彼の言葉を聞いてみたいと思った。

「──……君に会えないのは、もう嫌だ」

言い切ったガブリエルに、ロメリアは言葉もなくただ俯く。
彼から、これほど明らかな感情を向けられたことはなかった。
嬉しくて堪らないと思う。

「愛している」「好き」「慕っている」
そんな言葉はいらなかった。

ただ、幼い頃。
ロメリアに会っても、何の感慨も抱かず、むしろうんざりしていた彼が「会えないのは、嫌だ」と言った。その言葉を聞いただけで、ロメリアは胸がいっぱいで、息が苦しくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。 この度改編した(ストーリーは変わらず)をなろうさんに投稿しました。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

陛下を捨てた理由

甘糖むい
恋愛
美しく才能あふれる侯爵令嬢ジェニエルは、幼い頃から王子セオドールの婚約者として約束され、完璧な王妃教育を受けてきた。20歳で結婚した二人だったが、3年経っても子供に恵まれず、彼女には「問題がある」という噂が広がりはじめる始末。 そんな中、セオドールが「オリヴィア」という女性を王宮に連れてきたことで、夫婦の関係は一変し始める。 ※改定、追加や修正を予告なくする場合がございます。ご了承ください。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...