愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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2人

懇願

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だが今は、少なくとも「顔を見たかった」と言葉をかけてくれるくらいには、気にかけてくれている。

それが嬉しいと思うけれど……逆にあまりに無情だとも思った。

冷たくされれば、きっとこれ以上好きになることもなかった。愛されない可能性しかないのなら……10年後、いや20年後くらいには彼を忘れられたのかもしれない。不毛な恋をしたものだと後悔の溜息を吐くだけで、済んだかもしれないのだ。

それなのに、慰めなのか、気遣ってくれているのか。あるいはそれが本音なのか。

どれにしろ、ガブリエルの優しさから生まれい出た言葉を今、この状況で聞くことになるとは……本当にこの世界は、ロメリアに優しくない。

「……私に気を遣わなくても、いいわよ」

ロメリアは掠れた声を出しながら、ガブリエルの胸板を押した。だが、見た目よりもはるかに屈強な身体はびくともしない。

「……っ」

もう一度強く押すが、それでもガブリエルはロメリアを膝からおろそうとはしなかった。

「離して頂戴」

ぽこん、と弱い力でガブリエルの腕を叩く。
それでもガブリエルは微動だにしなかった。

「……離して」
「次は……いつ会える」

平坦な声が僅かに震えたことに驚きながら、ロメリアは首をふる。

「……っ……知らないわ」
「なぜ」


端的に問われて、すぐに答えることは出来なかった。
何故なのか。
本当のことを答えても、きっとガブリエルには理解出来まい。

『あなたには、マリエンヌ様と結ばれて幸せになる結末が既に用意されている。数多くの困難はあれどその先にあるのは、至上の愛と、無常の喜び。それを捨ててまで私と婚約者であり続けようと決意できるほど、あなたは私のことが好きではないはずよ。……あなたに会うとそれを思い知らされるから』

そう答えた場合、ガブリエルはどんな反応をするだろう。

蔑みはしないものの「臥せっている間に妙な妄想癖がついたのか」くらいには思うかもしれない。

「なぜ、会えない」

いつまで経っても答えようとしないロメリアに、ガブリエルは再度静かに問いかける。

彼の湖面のような瞳が、答えるまでは離さないと告げるように細まるのを見て、ロメリアは困り果てた。

どうしたら、いいのだろう。

下手な嘘はすぐに見抜かれると分かっているからなおさら、ロメリアは困ってしまった。だが、いつまでも黙っているわけにはいかない。ガブリエルは頑固なところがあるから、動かないと決めたら、たぶんずっと動かない。

「……さっきも言ったじゃない。美しくないから見られたくないって」
「では、顔は隠したままでいい」
「……」

そう言われてしまえば、それまでであった。


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