愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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悪夢

小さな箱

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「……うー……っうぁ……!」

ロメリアは自分のうめき声で目を覚ました。どうやらまた、うたた寝をしてしまっていたらしい。

窓から差し込む日差しを浴びながら眠ると、その一時だけは不安が浄化されていくようで安らぐことが出来る。それに浅い眠りならまだ、悪夢を見ずにすむのだ。

ただ問題なのは、寝台で横になっているわけではなく、執務用の椅子に腰掛けながら眠っているために、体の方はちっとも休まらないことだった。

「……っいた」

ピキピキと音を立てる体の節々を叩きながら、ロメリアはゆっくりと立ち上がり、バルコニーへ出ようと歩き出すが、ふと映った鏡台の中の自分が目に入って、立ち止まる。

何度見ても、自分の姿は変わらない。

薔薇色に染まりふっくらとしていた頬は、今はただ青白く痩せこけてしまった。艶を帯びていた長く波打つ自慢の水色の髪は艶を無くし、打ち捨てられた海藻のように干からびている。あんなに美しく輝いていた桃色の瞳も、どんよりと暗く虚ろ。

寝衣からのぞく白い腕と足は、骨のように頼りなく細い。

あまりのことに目を背けたくなったが、これが自分の今の現状なのだ。

ロメリアは、鏡を食い入るように見つめながら、ボロボロと涙を零す。

こんなに涙を流しているのに、まだ干からびない身体が不思議だ。ロメリアは涙を流す自分のあまりに哀れな姿からどうしても目を離すことが出来なかった。

「……っ!」

ふいに、扉の向こうで人の足音がして、ロメリアは怯えるように寝台の中へ潜り込む。

両親以外の人間に今の姿を見られるのが嫌で、最近は世話役のメイド達に対しても、メイドの中でも唯一心を許しているリーネに対しても、寝台に潜り込んで会話をするようになった。

「お嬢様……ガブリエル様から、贈り物が届きました」

(また……お花……かしら)

寝込んでからずっと、2、3日おきに贈られる花。ガブリエル本人が選んでいるのか。

(馬鹿ね。そんなはずないわ……ガブリエルがお花なんか選ぶわけない)

きっと誰かに選ばせているのだろう。

なにせ届く花は全てロメリアが好むような可憐で愛らしい花ばかりだ。

(ガブリエルは、私の好みなんか知らないもの……)

そう思うから、きっと贈られる花は彼が選んだものではないと結論付けてはいるのだけれど……。それでも彼の名前で届く花が愛しくて、ロメリアは1つ1つの花が届けられるたびに細い腕で鉢植えを抱き抱えて、心の中で「ありがとう」とガブリエルに感謝していた。

「分かったわ……扉の前に置いていって頂戴」

しずかに返答すると「かしこまりました」という声と共に、わずかな物音がした後で、人の気配が遠ざかる。

ロメリアは寝台からおりて、おぼつかない足取りで扉の前まで歩き、そっと扉をあけた。

「……え?」

予想外なことだった。
扉の前に置いてあったのは、花の植えられた鉢ではない。

そこにあったのは、小さな箱。

品の良い紫色のその箱には、花の刺繍が施された若草色のりぼんが美しく巻かれている。

(……なに、かしら)

そっと手に持ってみると、意外にもその箱は重く、ずっしりとしていた。



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