愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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挿話 (ガブリエルside)

出会い⑤ (挿話……ガブリエルside)

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「あっはははは!随分と振り回されているな、ガブリエル。……いやあ、婚約者殿と仲がいいようでなによりなにより」

大口を開けて笑うセディスを、ガブリエルは睨み上げる。他人事だから笑えるのだ。毎日、毎日、興味のないドレスやら宝飾品やらの話をされて「かわいいか、かわいくないか」「似合うか、似合わないか」と、同じような問答を繰り返す。

この無駄な時間をどうにかしたい。

自分にはやらなければならないことが、たくさんあるのだ。

父のような立派な騎士になりたい。

ガブリエルにはその思いが強くあった。いつもはふざけているように見える父だけれど、剣を握れば彼はガブリエルの父親でもなく、面白いこと好きで笑い上戸なセディスでもなくなる。その瞬間、彼は国を支える一柱となり「騎士団長」としての凛とした輝きを放つのだ。

ガブリエルはひっそりとだが、そんな父を心から尊敬していた。

(だから……こんなことをしている場合ではない)

ガブリエルはぎゅっと固く拳を握った。明日に会ったら「大切な用事が無い限り呼ばないで欲しい」と言おう。そう心に決めたのだが、はたと思い直す。

(彼女は、自分の可愛さを私に分かって欲しいと言っていた……それなら一言『可愛い』と言ってやれば、それで終わるのか?)

しかしどうしてか、その言葉が彼女を前にすると出てこなくなる。それが何故なのかガブリエルには分からなかった。彼女の容姿は彼女が言う通り平凡の域を超えている。とガブリエルだって思っている。それを伝えてしまえば、彼女は満足するだろう。

そんな簡単なことに気づかなかった……なんてことはない。気づいていた。けれど、ガブリエルは今の今まで伝えようとは思わなかった。

伝えようと思わなかったその理由を考える。だが、ガブリエルは元来自分にも他人にも強い関心を持たない部類の人間だ。故に自分の考えと向き合うことは不得意で、その理由を導き出すに至ることは結局のところ出来そうになかった。

(こんな不毛な日々から解放されたいと心から願っているはずなのに。なぜか終わらせようとする言葉が口から出てこない……)

「……明日は、断る」

自分の考えもまとまらないままに、短くそう言ってのけたガブリエルを、セディスは苦笑気味に見つめる。

「無理に断らなくていいんだぞ」

その言葉の意味が分からず、ガブリエルは首を傾げる。

「無理ではないです」
「そうか?なら、伝えるといい。出来るのなら」

挑発的なセディスの言葉に、ガブリエルは僅かに意地になり「出来るに決まっている」と吐き捨てるように心の中で呟いた。
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