愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。

古堂すいう

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始まりの前

出会い

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「ロメリア、今日から婚約者になるガブリエル様だよ」

 そう言って、目の前につれてこられた婚約者は、とても綺麗な顔立ちをしていた。漆黒の髪と深海を思わせる澄んだ瞳。ロメリアはひどい既視感に襲われたけれど、それでも目の前に立つこの美しい人間が、自分と将来結婚してくれるのだと思うと感動して、それどころではなくなった。

「こんにちわ。ロメリア・キャンリベルですわ」

 ロメリアはこの日のために、たくさん練習してきた挨拶をした。レースがふんだんにあしらわれたドレスは、まだ幼い彼女の手足で繊細な挨拶をするには、あまりにも不便なドレスだったけれど、その挨拶は完璧だった。

(ふっふっふ!我ながら完璧な挨拶だわ。私のこの美しい美貌と、挨拶をみればどんな殿方だってコロっといっちゃうのよ)

 ロメリアは内心で高らかに笑った。ロメリアは幼い頃から蝶よ花よ、姫よ、女神の子よ、とそれはもうむせ返るような美辞麗句を浴びながら、両親の大きな愛情を受けて育った。

 事実、ロメリアはこの年ですでに誰よりも愛らしく美しかった。透けるような水色の髪に、愛らしい桃色の瞳。髪の後ろでとめた大きなリボン。人形のような容貌には、誰もがその視線を、惹きつけられる。

 ロメリアはその事実を子供ながらによく理解していた。それなので、今目の前にいるガブリエルも自分に夢中になることを信じて疑わなかった。しかし。

「ガブリエル・カイテスだ……よろしく」

ガブリエルは無表情のままただ慇懃に頭をさげた。

(まあ、なんて愛想のない人なの!)

ロメリアは薔薇色に染まった頬を膨らませる。

「なんで、ロメリアのこと綺麗って言わないの?」
「こ、こら、ロメリア。やめなさい」

 ロメリアの言葉に、父である公爵はひどく狼狽した。愛娘を甘やかす公爵でも、さすがにこの発言には肝を冷やした。しかしロメリアは、それを無視して目の前にいるガブリエルの反応を伺う。

 彼は訝しむような顔をして、少し首を傾げた後で「君より可愛い人を知っている」と冷ややかに答えた。

 その瞳は、何の感情も映していない。さも、事実を言ったまでだというようなその表情に、ロメリアは感情を逆なでされた。

「こら、ガブリエル。婚約者になるお嬢さんになんてことをいうんだ」

ガブリエルを叱ったのは、彼の父、騎士団長だった。

「……申し訳ありません」

ガブリエルは生真面目に謝った。まったく悪気なんてなさそうな彼にロメリアは苛立ちを募らせ、一歩進んで彼に言い募る。

「この世界に私より美しい人なんていないわ。私がこの世界で一番可愛いし、綺麗なんだもの!皆、そう言うわ!」
「違う」
「何が違うのよ!」
「違うから、違うと言った」
「じゃあ、あなたが美しいと思う人を言ってみたらどうなのよ!」
「……言う必要はない」

 興奮のさめないロメリアは、その場で地団駄を踏む。ガブリエルはそんなロメリアを見て眉間に皺を寄せた。

 そんな2人を見守っていた公爵と騎士団長は前途多難な2人の婚約を破棄すべきか、その場で悩んだが……。結局は国王から勧められた縁談でもあるから、そういうわけにもいかなかった。

こうして最悪の初対面を果たした2人は、そこから長い間、婚約者として過ごすことになる。
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