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番外編①
シモンの回想……分別
しおりを挟む「別にいい。僕もここには詳しいから。それよりなんでお前がここにいる」
「お仕事でね。今は休憩がてらに浜辺でも散歩しようかと。そうしたらあなたを見つけた」
「ふーん」
彼は興味なさげに、打ち寄せる波を見つめていた。これ以上、何か言うつもりはないらしい。
「あなたはそんなに無口だったかな」
「別に、今は喋りたくないだけ。分かるでしょ?僕は暑くて機嫌が悪いんだよ。これ以上、不快な思いをしたくなかったから、さっさとどっか行って」
ふいと、エリスは顔を背けた。数年前から彼はずっとこんな調子だ。本当に随分と長い反抗期だ、と内心で苦笑を零す。
「いやだ。行かない」
「はあ?」
額から流れる汗を拭い、エリスは足先を打ち寄せる波に浸す。
涼やかなさざ波と潮の香りが、2人の間に流れた。
「あなたのすることで俺が不快な思いをすることはないよ。断言しよう」
「……」
「だけど、冷たくされると少し……いや、かなり寂しい」
「……は?」
「あなたはここ数年の間、ずっと俺につれない。昔みたいに名前を呼びながら駆け寄ってきたり、髭をひっぱったりしてくれてもいいんだぞ?」
両腕を僅かに広げて見せると、エリスはぽかんと口を開き、眉を寄せた。
「僕、もう子供じゃないんだけど」
「それは知っている」
「知ってるなら、僕が分別つくようになったことくらい分かるだろ」
「そんな分別はいらない」
「いるとか、いらないとか、そういうことでもないだろ」
「いらない」
「……」
「俺とあなたにそんな分別はいらない」
言葉通り寂しそうにして見せると、エリスがふと顔を歪めた。
「……どうした」
苦しげで、何かに耐えるような表情。出会った日に見た泣き顔以来、彼がこんな表情をするところを見たことがない。心配になり、波間に足を置き近づいて、彼の白い頬を包み込む。
「気づかなかった。顔色が悪い」
「お前の髭面ほどじゃない」
「誤魔化すな。どこか痛いのか?まさか、何か踏んだのか?足を見せてみなさい。肩に手を置いて」
「お、おい。別に何も踏んでな──……」
「いいから、ほら」
波間に右の膝をつき、エリスの白い手を取って左肩に置かせる。
「膝、濡れてるぞ」
「そんなことは気にしなくていい。足をここに置いて」
立てた左膝の上に足を置くよう告げると、エリスは渋々といった体で足を差し出した。白い足。花色の爪先。足の裏。かかと。血の出ているとこはないか入念に確認する。特に傷ついているところは見受けられない。
「だから、別に何も踏んでないって言ったでしょ」
頭上から降って来る声に、肩を竦める。
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