婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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ライレルの馬祭り Ⅰ

砂糖の塊

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「……持ってまいりました」

静々と青い小瓶を差し出してきたのは、給仕係の者だった。何か粗相があってはいけないと思っているのだろう。指先を震わせながらミレーユにその小瓶を渡した後、その者は最低限の礼をするとそそくさと其の場から姿を消してしまった。

ミレーユは小瓶の蓋を開けて、1つ。花の花弁の形をした砂糖の塊を摘んだ。

真っ白いその塊は、白の廃された空間ではよく映えて、皆の視線をより一層集めたが、誰もミレーユの次の行動を予測することが出来なかった。

次の瞬間、ミレーユの摘んだ砂糖の塊がぽとりと呆気なく地面に転がる。

誰かが「あ」と言葉を発することもなく、静寂がその場に落ちた。

「……」

ミレーユは特に意に介することもなく、もう1つの砂糖を摘んで湯気のたつ茶に溶かす。

「今、私はどちらに見える?」
「は?」
「白いお砂糖を紅茶に入れて溶かした私はどちらの派閥に属しているように見えるのかしら」

ミレーユの言葉には、特に何も感情が込められてはいなかった。それが余計に彼女の冷静さを物語って、その場にいる人々は重い沈黙を破ることが出来ず、ただユラがどう答えるのかを伺った。

その間にも、ミレーユは優雅に茶を嗜んでいる。

ユラは、最初こそその質問に戸惑ったようだったが、何か思いついたのか、はたまたあまりにもくだらない質問で呆れてしまったのか、下品にならない程度に鼻で笑って、やれやれと首を振る。

「ミレーユ様、まさか先程の件は、砂糖を紅茶に溶かす程度のことだと仰せになりたいのですか?」
「あら、あなたは違うと思うの?」
「もちろん違いますわ。砂糖を紅茶に溶かすことは自然な行為ですけれど、食器を割るのは自然な行為ではありません」

理路整然としたユラの言葉に周囲はざわめいた。

──……驚いたな。もしかしたら今回は侯爵令嬢が、ミレーユ様を言い負かしてしまうかもしれんぞ。

──……ミレーユ様の仰っしゃりたいことは分かるがな。ちと飛躍しすぎではないか。確かに黒か白かなどくだらないかもしれないが、砂糖を紅茶に溶かすことほど些末なことでもあるまいて。

──……侯爵令嬢もああ見えて意外に賢いのかもしれんな。

──……ミレーユ様もお気の毒ね。今回は分が悪すぎたのよ。出しゃばらなければこんな衆目の中で恥を晒すこともなかったでしょうに。

感心の声。憤りの声。嘲笑する声。様々な声が場を満たす。

ユラに対しての見方を変えた者達の声を聞くと彼女は自信を得られたようで、優越感に浸るような顔をしてツンとまた顎を上向けた。

けれど、当のミレーユは一向にそれらの声を介さずにただ黙々と紅茶を嗜んでいる。
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