婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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動き出す事態

収束

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一か八か。

ミレーユはちらと、湯気立つティーカップへ視線を向け、改めてアランを見つめる。

アランの意識はまだその手に持っているナイフに集中しているように見えた。視線も、ミレーユに留められたまま。

彼の意識を背けるために、何か出来ることはないだろうか。

考えてはみるものの、アランは隙があるように振る舞っているが、全く隙がない。護衛につけられた者達が動けないのがその証拠だ。

「……ふふふ、僕には分かるよ、ミレーユ。君が何を考えているのか。……僕から、逃げようとしているんだね。そうだろう?」

にっこりと微笑みかけてくるアランは、ミレーユの考えなど全てお見通しのようだった。

「そこに入っている熱いお茶を僕にかけようとしたのかな?あぁ、なんて酷いんだろうね、君は」

アランは芝居がかった仕草でやれやれと細い指先3本を額に当てる。

しばらくその仕草を続けていると、やがて飽きたのか真顔のまま彼は首を傾げた。梟のように不自然な首の傾げ方だ。薄ら寒さを覚えて、ミレーユは無意識に自らの腕を撫で擦った。

「あぁ……もしかして分からないだけなのかな?熱い茶をかけられる人間の気持ちが。それだったら、早く言ってよ。僕が分からせてあげたのに」

その言葉を聞いた途端、ミレーユの背筋に怖気が走った。

分からせてあげるよ。何を?

決まっている。アランは、ミレーユにあの茶をかけようとしているのだ。

「きゃ!」

真顔のまま、アランはミレーユの手を引っ張った。手に持つナイフはそのままにして、ティーカップを左手で掴む。

ゆらゆらと揺れる独特の色合いの茶が見えると、ミレーユは逃げたい気持ちでいっぱいになったが、足は竦んで動けず、指先と足先は徐々に冷たくなっていくばかり。身体が凍っていくようだ。

「ふふ。そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ゆっくりかけてあげるからね」

アランの持つティーカップが傾いだ。

(……いや!)

ミレーユが、声にならない悲鳴を叫んだ。

その時。

「ぐっ……うぁ!!」

ナイフを持つアランの手から血しぶきが飛んだ。よく見るとその手には、小さな弓矢が刺さっている。

ティーカップが地面で割れる音が響いて、アランはあっという間に護衛達に取り押さえられた。一瞬の出来事に、ミレーユは唖然として口をぽっかりと開けて事の成り行きを見つめるしかない……。

「お嬢さん!!!無事か!?」

呆然と突っ立っていると、エドモンドが必死の形相で近づいてきた。

「……」

肩をがっしりと掴まれ問われるも、ミレーユは声が出せず、何も答えられなかった。

「……声が出せないのか?」

コクリと頷くと、エドモンドは苦渋に顔を歪める。

「医者を呼べ!」

命じられて、護衛達はすぐにその場を離れて行った。
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