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動き出す事態

内密

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(……お前達……って)

周囲に誰かいる気配はない。

ついにアランは気でも触れてしまったのだろうか。

だとしたら、いつその手にしているナイフで切りつけられるか分からない。唐突に訪れた死の予感に、ミレーユの心臓は早鐘を打った。

「ねぇ、ミレーユ」

ザラリと、猫の舌で舐められたかのような……そんな感覚がミレーユの背筋に伝った。向けられた仄暗い瞳に、すでに光はない。

「僕の気が可笑しくなったと思うのかい」

全くその通りだったので、ミレーユは思わず頷いてしまった。

(しまった……。頷いちゃ駄目なのに)

元来、思ったこと、言いたいことをすぐに態度や口に出して生きてきた人間であるが故に、こんな時でさえ、いや動揺しているこんな時だからこそ、いつもの行ないが出てしまった。

額からダラダラと汗が流れる。

しかし、アランは特に怒った様子もなく、「違うんだよ」と冷笑した。

「君には護衛がついている」
「……?」

そりゃあ、公爵家の令嬢なのだから護衛の者を雇ってはいるが、さすがに家の中で行動を共にしたことなどない。

何を言っているんだ。と僅かに首を傾げるミレーユにアランは、口角を吊り上げた。

「君にはね。リダル王子とあのエドモンドが内密につけた護衛がいるんだよ」
「……?」
「君はね、叔母上……つまり側妃様から恨みを買っている。僕の父上を陥れたことも原因の1つだけど……君とあのエドモンドが結ばれたら、側妃様はすごく困るんだよ。君自身の手に次期公爵位の相続権があると言っても過言ではないからね。エドモンドはリダル王子と懇意にしている。もし彼が公爵位を手にしたらリダル王子の勢力はますます強くなる……だから、君を狙う」
「……」

色々と、言ってやりたいことはある。

まず、アランの父であるカダール侯爵は、自滅しただけであって、決してミレーユが陥れた訳ではないこと。

エドモンドが公爵位に魅力を感じていることをすでに知っていること。
 
だが、最も疑問であることは、エドモンドが護衛をつけていることを黙っていたことだ。

王宮で開かれたパーティーで帰り際に護衛をつけてくれた時のように、堂々と言ってくれれば良かったではないか。

不信感が頭を擡げ、ミレーユは口を開く。

だがミレーユが何かを言う前に、アランが先に口火を切った。


「エドモンドとリダル王子は、そんな側妃様達の動向を知って君に護衛をつけた。なんでか分かるかい?」

私を守るためと、簡潔に答えたかったが、ミレーユも馬鹿ではない。内密にされているからにはそれなりの理由があることをきちんと察している。
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