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恋人期間
素直になれない
しおりを挟む「きゃ!」
「うんうん、お嬢さんは軽いよ。羽のようにとは、まさにこのことだ」
「……本当に?重くない?」
「重くないよ」
階段をのぼりおえたエドモンドは、針細工を机上に置くように、そっとミレーユを地面におろした。
星空色のドレスの裾がふぅわりと広がって、エドモンドの靴の踵を覆い隠す。
「うん、明るいところで見るとより輝きを増すな。夜空のお星さまみたいだ」
まじまじと見つめてくるエドモンドに、ミレーユは何とも言えない表情をする。照れているような、怒っているような。そんな微妙な表情だ。
「……?どうした?」
「あ……」
ミレーユはエドモンドにちらと視線を流す。
(私も何か……言いたい、のだけど)
ミレーユは褒められることばかりに慣れて、他人を褒めることに対しての経験値があまりなかった。だから、垢抜けて麗しいエドモンドに対して、どのような称賛を送ればいいのかさっぱり分からない。
彼に対して、あまり素直になったこともないので、より難しい。
(……今日のあなたは格好いいわね。……格好いい?ちょっと違うわ。ハンサム?ううん、ハンサムだけど……顔だけじゃなくて、着ている服もすごく素敵……。ってまとめるとどういう言葉になるのかしら)
考えて、考えた末に、ミレーユが出した結果は……。
「あなたも……私の横に並んでも問題ないわ」
ずーん。
と、言った途端にミレーユは肩を落とした。
どうしてこういう言い方しか出来ないのか。
ちゃんと分かっているのだ。こういう時、素直な言葉が出てくる女がモテるのだと。
ミレーユの容姿は誰がどう見ても「大陸一愛らしい」と称賛されるものだが、彼女は今までアラン以外の人間と恋愛関係に発展することはなかった。
ミレーユが公爵家唯一の令嬢で、高嶺の花であったことが1番大きな要因だが。
実はそれだけではない。
彼女の我儘で傲慢な性格を受け止めるだけの器のある人間がいなかったのだ。
だからといって、アランにその器があったのかと言われればそうではない。
アランは権力への執着から、耐えていただけであって、決してミレーユを受け入れていたわけではないのだ。ただ、彼は気難しい性格でありながら、恋愛経験のないミレーユの初心な心につけ込むのが上手かった。つまり、ただずる賢く、ミレーユの気に触れないように立ち回っていただけなのである。
そんな人間としか恋愛──しかも、まともではない──をしていないため、ミレーユは自分から積極的な態度がとれない。
そんなミレーユの言葉にエドモンドは「ははは」と笑いながら、ポンポンとミレーユの頭を撫でた。
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