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恋人期間
羨望
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──なんだ、このバカップルは!?
目の前で「言い争う」2人を前にして、令嬢達は恨めしいやら、羨ましいやら。それぞれが頭の中で自らの婚約者を思い浮べると同時に、溜息を吐いた。
皆、ミレーユを馬鹿にしていたが、婚約者や妻がいながらにして愛人を囲う男なぞ、そう珍しくはない。ミレーユの場合は、彼女自身が公爵令嬢であり、相手が侯爵家の次男であったから、婚約破棄が簡単に成せたのだ。
普通ならそうはいかない。
人が考える以上に「婚約破棄」とは重いものだ。契約書一枚を白紙に戻す以上にそれは労力を伴う。政治的思惑。家同士の相互利益。それはそれは重たいものがそこには含まれている。
「ただの浮気」程度で、無に帰すことの出来るものではない。
しかし、そうは言っても。やはり仲睦まじきことは羨ましい。最初は、ミレーユの不幸を皆で喜んでやろうと意気込んでいた令嬢達だったが、婚約破棄をして不幸どころか、むしろよりよい恋人(?)を得て、甘やかされているミレーユを見ていると、羨ましい気持ちが募る。
「……皆さん、もう行きましょう。馬鹿馬鹿しい」
まず正気を取り戻し、痴話喧嘩する2人を追い越し1人で大階段を登り始めたのは、シェルディだった。取り巻きの令嬢達もハッして、次々に「馬鹿馬鹿しい」だの「今の内だけよ」と妬み嫉みを連ねるが、その中に羨望が含まれていることに、皆が皆気づいていた。
「ちょっと、聞いているの?」
「ああ、聞いているよ」
ミレーユは変わらず怒っている。彼女の目には本当に興味のある人間しか映らないらしい。清々しいほど、彼女は自分本位だが、何事にも卑屈にならないのは美点であるとも言える。
「早く抱き上げて頂戴」
ぷんすかと怒れる彼女の髪の両脇には大きなリボン。それは、元々幼い顔立ちのミレーユの顔をさらに幼く見せるが、珍しくシックで大人らしいドレスを身に纏っているためか、妙に大人らしくも見える。そのちぐはくさが、実は男の本能を擽るものであると、彼女は知っているのだろうか。とエドモンドは内心で苦笑を零した。
「じゃあ、こうしよう。途中までは抱き上げてあげるから。途中からは頑張ろうな。俺の腕を掴んでもいいから」
「……」
「ん?」
「私が重くなったからそんなこと言うのね」
不貞腐れて頬を膨らませるミレーユにエドモンドは不覚にも「ぶはっ」と噴き出してしまった。
「なによ、なんで笑うの!」
「あー、待て、待て!そんなに怒るな怒るな。大丈夫、あなたは全く重くない」
「笑いながら言わないで頂戴!説得力が全然ないわ!」
段々と床を蹴る兎のように不機嫌をさらに深めたミレーユは、エドモンドの腕を取ることなく大階段をのぼっていく。
しかしながら、圧倒的に体力のない彼女は、勢いよく登り過ぎてしまったせいもあって早々にうんざりしてしまい、未だに階段をのぼろうとしないエドモンドを見下ろして「もう半分までのぼったもの……」とその場に座り込んでしまった。
そんな彼女をみて、エドモンドは堪らずまた笑い、自らも階段をのぼり座り込んだ彼女を手慣れた動作で抱き上げる。
目の前で「言い争う」2人を前にして、令嬢達は恨めしいやら、羨ましいやら。それぞれが頭の中で自らの婚約者を思い浮べると同時に、溜息を吐いた。
皆、ミレーユを馬鹿にしていたが、婚約者や妻がいながらにして愛人を囲う男なぞ、そう珍しくはない。ミレーユの場合は、彼女自身が公爵令嬢であり、相手が侯爵家の次男であったから、婚約破棄が簡単に成せたのだ。
普通ならそうはいかない。
人が考える以上に「婚約破棄」とは重いものだ。契約書一枚を白紙に戻す以上にそれは労力を伴う。政治的思惑。家同士の相互利益。それはそれは重たいものがそこには含まれている。
「ただの浮気」程度で、無に帰すことの出来るものではない。
しかし、そうは言っても。やはり仲睦まじきことは羨ましい。最初は、ミレーユの不幸を皆で喜んでやろうと意気込んでいた令嬢達だったが、婚約破棄をして不幸どころか、むしろよりよい恋人(?)を得て、甘やかされているミレーユを見ていると、羨ましい気持ちが募る。
「……皆さん、もう行きましょう。馬鹿馬鹿しい」
まず正気を取り戻し、痴話喧嘩する2人を追い越し1人で大階段を登り始めたのは、シェルディだった。取り巻きの令嬢達もハッして、次々に「馬鹿馬鹿しい」だの「今の内だけよ」と妬み嫉みを連ねるが、その中に羨望が含まれていることに、皆が皆気づいていた。
「ちょっと、聞いているの?」
「ああ、聞いているよ」
ミレーユは変わらず怒っている。彼女の目には本当に興味のある人間しか映らないらしい。清々しいほど、彼女は自分本位だが、何事にも卑屈にならないのは美点であるとも言える。
「早く抱き上げて頂戴」
ぷんすかと怒れる彼女の髪の両脇には大きなリボン。それは、元々幼い顔立ちのミレーユの顔をさらに幼く見せるが、珍しくシックで大人らしいドレスを身に纏っているためか、妙に大人らしくも見える。そのちぐはくさが、実は男の本能を擽るものであると、彼女は知っているのだろうか。とエドモンドは内心で苦笑を零した。
「じゃあ、こうしよう。途中までは抱き上げてあげるから。途中からは頑張ろうな。俺の腕を掴んでもいいから」
「……」
「ん?」
「私が重くなったからそんなこと言うのね」
不貞腐れて頬を膨らませるミレーユにエドモンドは不覚にも「ぶはっ」と噴き出してしまった。
「なによ、なんで笑うの!」
「あー、待て、待て!そんなに怒るな怒るな。大丈夫、あなたは全く重くない」
「笑いながら言わないで頂戴!説得力が全然ないわ!」
段々と床を蹴る兎のように不機嫌をさらに深めたミレーユは、エドモンドの腕を取ることなく大階段をのぼっていく。
しかしながら、圧倒的に体力のない彼女は、勢いよく登り過ぎてしまったせいもあって早々にうんざりしてしまい、未だに階段をのぼろうとしないエドモンドを見下ろして「もう半分までのぼったもの……」とその場に座り込んでしまった。
そんな彼女をみて、エドモンドは堪らずまた笑い、自らも階段をのぼり座り込んだ彼女を手慣れた動作で抱き上げる。
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