婚約者が愛していたのは、私ではなく私のメイドだったみたいです。

古堂すいう

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不穏

手紙

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ミレーユが引き籠り始めて、15日を超えた頃。王城から手紙が届いた。何と国王陛下直々の呼び出しである。さすがの公爵も国王陛下直々の呼び出しとあっては、屋敷へとどまってもいられない。

しかし。

「国王陛下は、何故かミレーユまでお呼びになっている……。しかし、あんな状態の子を外に出すのは心が痛むな」

ミセラ公爵は悩みに悩んだ結果、国王陛下に手紙を送った。「現在、我が娘は療養中ですので、私達夫妻のみで伺うわけには参りませんでしょうか」と。しかし国王陛下からの答えは「公爵令嬢に用があるから」だった。いよいよ困ってしまった公爵は、部屋に閉じこもるミレーユを何とか説得するしか道はないと決めて、ミレーユの部屋を訪ねた。

「入らせてもらうよ」

公爵は愛娘が寝台から起き、窓辺でじっと人形のように朝の庭園を眺めている姿に胸をズキズキと痛めた。やっぱり、引き返そうか。と思いもしたが、さすがに国王陛下の言葉を無視するわけにもいかない。

「お父様……」

か細い声。ミセラ公爵はその声を聞いただけで、堪らない気持ちになってミレーユの傍に立ち、その淡く輝く金の髪を丁寧に撫でた。

「やあ、ミレーユ。良い朝だね」

ミレーユはコクリと小さく頷くだけだった。ミレーユはここ最近、小さく頷くだけで、鈴を転がすようなその声音を聞かせてはくれない。「何があったのか」「どうしてそんなに落ち込んでいるのか」問いかけても、答えてはくれないのだ。体調が悪いのかと医者を呼び寄せたりもしたが「特に問題はない」と答えがかえって来る。発砲塞がりだった。

「……ミレーユ、お父様のお話を聞いてくれるかい」

ミレーユは素直にコクリと頷いた。

「王城から手紙が届いた。国王陛下からのね」

ミレーユは目を見開き、不安そうに眉を顰めた。その表情を見て『国王陛下がミレーユに会いたいと仰っている』と本当のことを言うことは気がひけた。だからミセラは、曖昧に笑って「気負う必要はないよ」と安心させるための言葉を紡いだ。

「王宮へ来いとの仰せだ。……ミレーユ、お前が今、部屋から出たくないことは分かっているけれど。今回だけはどうか、お父様達と一緒に王宮へ行ってはくれないかい」

優しく、困惑した風に微笑むミセラに、ミレーユは(どうして国王陛下が?)と疑問に思った。正直言って、王宮になんてもう二度と行きたくないのだが……。いつもは堂々として、ミレーユに無理をさせるようなことは決して言わないあのミセラが、今日はほんの少し緊張を滲ませた表情で、ミレーユの答えを待っていた。

(……お父様)

この国で一番の賢臣、そして公爵である父ではあるけれど、国王陛下の言葉に従わなければ、その地位が危ないことは、ミレーユにだって分かっていた。それでもここでミレーユが「嫌」と言えば、父は考えてくれるだろう。

だが、父の地位を危うくしてまで我儘を突き通すのは、あまりにも非常なのではないかと考えて、ミレーユは一切声を出さずに頷いた。
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