大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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女神の祝福

少女として

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「レーヌ様」

呼びかけると、華奢なレーヌの肩は大袈裟なほどビクリと動いた。セレーネのことが怖いのか。それとも、あまりの嫌悪に身震いしたのか。判別はつかなかったが、それでもセレーネは一歩を踏み出し口を開いた。

しかし、セレーネが何かを言う前に、先にレーヌが口を開ける。

「……ごめん、なさい……ごめんなさい」  

その白い頬から涙が流れる。

「私は………、なんてことを」

彼女のまっさらな額には、神々しく輝く百合の紋章はなく、彼女を飾る装飾品もない。

そのせいだろうか。

セレーネの目には、彼女がただの少女のように映った。聖女という大いなる立場にあって、レーヌを聖女としてしか見ていなかったセレーネは、レーヌ自身もまた自分と同じように心の不安定な少女であることを痛感した。

「……レーヌ様。私にはあなた様のお気持ちがよく分かりますの」

セレーネはその場にしゃがみ込み、レーヌと視線の高さを同じくした。

「……え?」
「こんなことを言われたらさぞ嫌な気持ちになられるかもしれませんけれど、きっと私もあなたと同じ立場にいたら、あなたと同じことをしたでしょうね」
「……」

押し黙るレーヌを見て、セレーネは彼女もまた、今やっと自分のことをただの少女として見たのではないかと予感した。

「一時期私は、あなたとエルゲンの恋心を自覚させて結ばれてもらおうと画策しました。エルゲンは私を助けてくれた恩人でもあるので、今度は私がエルゲンの力になろうと思ったからです」

レーヌはその瞳を瞬かせながら、自嘲気味に眉を下げる。

「私の画策したことで、あなたをここまで追い詰めてしまったことに変わりはありません。私の方こそ謝るべきなのだと思うのです。……本当にごめんなさい」
「……そんな……あなたに謝られてしまったら……私」

レーヌは力なく頭を垂れた。重い静寂が牢内に落ちて、エルゲンの腰飾りが僅かに揺れる音だけが響いていた。

ふいに、エルゲンが一歩を踏み出す。

「レーヌ。あなたは聖女という立場にあって、その心根は不安定な少女のままでおられる」
「……」
「あなたが彼らに情報を渡したことはほんの出来心だったのでしょう。しかし、その出来心には僅かながらも邪悪な感情が混じっていた。女神より聖女の証が取り払われたことがなによりの証拠となるでしょう」

レーヌは否定しなかった。否定する力もないだけかもしれない。あるいは真実そうなのかもしれない。

「このままでは、あなたは国を追われることになる。聖女の資格を失う理由を持つ者に対して、この国は寛容ではありません」
「……はい、承知……しております」

はらりと、透明な涙がレーヌの頬を伝っていく。

「……ですが、私は聖女の資格を失ったからと言って……あなたがずっと愚かであり続けるような人ではないと信じております」

エルゲンの言葉にレーヌはハッと視線を上げた。エルゲンとレーヌは幼い頃、同じ教会で共に過ごした仲だ。幼い頃にあったレーヌの心根を、自分は今でも信じたいと思っている。そんな意思が伝わったのか、レーヌはぶるりとまた身体を震わせて嗚咽を漏らした。

「あなたは、原因不明の病で倒れ……私から女神に聖女の証を取り除くようお願いしたことに致します。そしてあなたは療養のために、国境にある教会へ行く……ということに致します」

国境の教会であれば、女神信仰がそこまで強くない。それ故の判断だろうか。セレーネが疑問に思っていると、まるでその疑問に答えるかのように、エルゲンは穏やかに告げた。

「そこに、我々が元いた教会でお世話になっていたマリシア様がおられます」
「……!マリシア様が」
「はい。彼女には既に事情を伝えてあります。きっと良きようにしてくださるでしょう」

エルゲンとレーヌが、そのマリシアという人に全幅の信頼を寄せていることが、2人の様子を見ていてよく分かった。

「……寛大な……処置に、心から感謝致します」

レーヌはそう言って深く頭を下げた。
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