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女神の祝福
矛盾
しおりを挟むセレーネが誘拐されたことは、重大な問題になった。
神官長エルゲンが溺愛するという麗しき奥方──セレーネを、皇子ロイが誘拐した。
皇帝夫妻は、この事実を重く受け止め、エルゲンの怒りが鎮まる結果となるよう、事を収める役目を彼に一任した。
彼の持つ力はとても大きい。
もしエルゲンが、この国を見限って、他国へ行ってしまえばこの国は、実質女神の加護を失うことになる。
女神信仰が根強いこの国で、それだけはあってはならないことだった。
エルゲンは自らの力の大きさをよく知っている。そのため、政治に関わる一切の事柄に関して口出しすることはなかったが、今回ばかりは最愛の妻を誘拐され、危うく恥辱されそうになったため、皇帝から与えられた役割を当然の如く受け入れることにした。
本来なら、ロイは極刑である。
しかし、慈悲深きエルゲンは、ロイの若さも考慮して王都から遠い教会で、彼を更生させることとした。もちろん、皇族の位は剥奪し、今後一切の権力を握ることが出来ないようにする条件で。
そしてロイに協力した者も、捕らえられた。その中にはもちろんミリーナもいた。ミリーナの両親─つまり、公爵家はミリーナがロイと結託していることを知らなかったため衝撃を受け、なんとかミリーナを助けるようにセレーネに嘆願してきたが、もちろんセレーネはその嘆願を無視した。
当たり前である。誰が、自分を誘拐した人間を助けようなどと思うものか。
ミリーナを含めた公爵家は、領地の半分を没収の上、降格。そして、王宮への出仕停止が言い渡された。ミリーナは貴族の身分を奪われた上で、王都郊外にある小さな教会に預けられることとなった。もちろん厳重な監視付きで。
これらの采配は「さすが、慈悲深き神官長殿のご采配だ!」と、国民に言わしめだが、セレーネは知っている。エルゲンがこの采配をするのにとても辛い思いをしていたことを。
セレーネが誘拐されて、2日後の夜のことだった。
「……セレーネ、相談にのって頂けますか?」
と、エルゲンは切り出して、セレーネに自らの心を晒した。
「あなたを誘拐した人々に対して、耐え難い怒りを感じています。本当は極刑に処してしまいたいと願うほどに」
明かされたエルゲンの心に、セレーネは大きく目を見開いた。
いつも、穏やかで、慈悲深い彼が発するとは思えない言葉だったから、聞き間違えたのかと疑ってしまった。
しかし、目の前のエルゲンは思い詰めた顔をしている。
セレーネはそこで気づいた。
彼の願いと性格が大いに矛盾していることが、彼をこのような顔にさせる最たる理由であることを。
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