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女神の祝福
処分
しおりを挟む「さあ、屋敷へ戻りましょうか」
ひとしきりセレーネが涙を流し終えると、エルゲンは穏やかな声でそう告げた。
「ぐすり」とまだ鼻を鳴らしながら、セレーネは「うん」と小さく頷く。
「あ、ねえ、待って。この人はどうするの?」
セレーネが指差したのは、もちろんロイ皇子だった。別に彼に同情しているわけではない。ただ、今後彼がどうなるのか。エルゲンなら分かるのではないかと思ったために、セレーネは問いかけたのである。
案の定エルゲンはにっこりと笑いながら淡々と教えてくれた。
「おそらく皇族の地位を剥奪され、教会に預けられることになるでしょう」
「教会に?」
「ええ。本来貴族子女の誘拐は重罪です。一生を牢獄で終えることになるのが通例ですが……皇族でなくなるとはいえ、一時期は皇位継承権を保持していた皇子が、大罪をおかして牢獄に入れられている。なんて外聞が悪すぎる上に外交上の印象も悪く、不利なことが起こりうるので、妥協案としてそのようになるでしょう」
「……そう」
「安心してくださいセレーネ。彼を預ける教会は私が決めますから。王都よりもっとも離れた教会へ送るつもりです。穏やかな気候の比較的過ごしやすい土地柄ですが、その教会に長年務める神官は、とても厳しい人です。きっと彼の性根を叩き直してくれるでしょう」
エルゲンが一瞥する。同じように一瞥すると、ロイは未だにヘロヘロとして床に伸びていた。本当に性根を叩き直せるのだろうか。
「あ、そういえば」
「どうかしましたか?」
「あのね。私を攫うように命じたのは確かにこの人だけど、実はミリーナが」
「ああ……分かっていますよ。セレーネ」
「え?」
「あなたの妹君であるミリーナ嬢もこの件に一枚噛んでいるのでしょう?」
「え、ええ……そうだけど。よく分かったわね」
と、関心しそうになったが、そういえばエルゲンは女神の力を借りると言っていた。
「女神様が教えてくれたのね?」
自信満々に問いかけるセレーネに、エルゲンはふと表情を曇らせて「いいえ」と答えた。彼は少し汚れた神官服の裾を払い、セレーネの瞳を覗くように見つめる。
「……あなたを攫った犯人が分かったのは女神の力ではありません。女神がお教えくださったのはあなたの居場所のみですよ。邪な感情に支配された者の心を浄化する力─……聖なる力を借りてはいますが、それ以上のことは何も」
「え……じゃあ、どうして」
エルゲンの表情は哀しみに包まれていた。遠くを見るような目で、何かを考えている。
「……少し、時間をください」
セレーネはなんと答えたら良いのか分からなかったが「どうして?」と再び問う気にもなれなかった。
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