大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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神殿

心の奥

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「……あの?」

なかなか立ち去る気配を見せないレーヌの顔をセレーネは覗き込む。

麗らかな陽光に照らされたレーヌの表情は憂いを帯びて、手を伸ばしたくなるほどの儚さを称えている。

「あ、あの……セレーネ様。私も少し……お茶を頂くことに致します。前の席よろしいでしょうか」
「え、ええ……。もちろん」

レーヌはいそいそとまた茶の準備をすると、テーブルに1つティーカップを置き、椅子に腰掛けた。

(……何か、お話でもあるのかしら)

セレーネはレーヌがティーカップに口をつけるところを見届けながら、彼女が何か話し出すのを待った。自分から話しかけたくないわけではなく、ただ、セレーネはあまり同年代の同性と話したことがないので、つまるところ、人見知りを発揮しているのである。

「セレーネ様は、本当にお美しいですね」

いきなりそんなことを言われて、セレーネは驚愕して、ティーカップを置くときに大きな音を立ててしまった。「お美しい」なんて言葉、幼い頃から耳が腐るほど聞いてきた。が、レーヌのような美しい人に言われるとは思わず……。

「……あ、ありがとうございます」

礼を言うと、レーヌはふんわりと笑った。彼女に微笑まれると、春の日差しを全身に浴びるような心地の良い気持ちになる。

「レーヌ様の笑い方ってエルゲンに似ていますね」

ポツリと、セレーネが零すとレーヌは驚いたような、なにより嬉しそうに目を弓なりに細めた。

「巫女になる前は、神官長様と共に幼少期を過ごしましたから。移ってしまったのかもしれませんね」
「……レーヌ様はずっと前からエルゲンのことを知っておられるのですね」
「ええ、知っています。セレーネ様よりずっと前から」

食い気味に言われ、驚いてセレーネが目を丸くすると、レーヌはハッとした様子で口を噤んだ。自分でも訳がわからないといった様子で、レーヌは目をウロウロと彷徨わせている。


「……レーヌ、様?」
「あ、い……いえ、その、なんでもありません」

(なんでもないことはないと思うけど……)

レーヌがエルゲンに想いを寄せているのは、見ていて明らかだと思っていたのだが……。レーヌはもしやまだ自分の気持ちに気づいていないのだろうか。

(これは……私が気づかせてあげるべきなのかしら。それとも)

自分で気づくべきことなのだろうか。いや…しかし、そんな悠長なことを言っている場合だろうか。

セレーネはエルゲンのためになることをしたい。真心を込めて接してくれた彼に、ちゃんと真心を返したい。それなのに。だから2人の仲を取りもとうとしているのに。

レーヌまで恋心に気づいていないとすると、いつまで経っても2人は自分の気持ちに気づかないまま一生を終えてしまう。

つまり、エルゲンは自分の気持ちに気づかないまま、本当に好きな人と添い遂げられないまま……

(それは駄目………)

セレーネは意を決して、レーヌに微笑みかけた。

「……レーヌ様は本当にエルゲンのことを慕ってくださっているのですね」

レーヌはセレーネの言葉にビクリと肩を震わせた。
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