大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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神殿

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以前と同じように、セレーネは子供達とめいいっぱいに遊んだ。庭を駆け回り、少ない隠れ場所へ潜み、子供達に見つからないようにする。相変わらず着ている服は、土や泥、草で汚れてしまったけれど、セレーネは構わずに子供達と遊び続けた。

日が空の頂点を少し過ぎた頃、子供達は疲れた様子で草原に寝転んだ。一体どうしたのかとラミィに問いかけると、彼女は眠そうに目をこすりながら「お昼寝の時間なの」と教えてくれた。

子供達は神官達に即されて、一度建物の中に入る。ラミィと複数の子供達は「おねえさん、起きてもまだここにいてくれる?」と問いかけてくるので、セレーネはほんの僅か考えたが、結局「ええ、いるわ」と頷いた。子供達はほっと一安心したように胸を撫でおろし、建物の中へ入って行った。小さな背中をカーティスと眺めていると、たおやかな声音が声をかけてくる。

「カーティス様、セレーネ様」

声をかけてきたのは、レーヌだった。彼女は春の朗らかさを称えて微笑んでいる。

「子供達がお目覚めになるまで、お茶でもいかがですか」
「……いいのですか?」
「ええ、もちろんです」

頷くレーヌに、カーティスはほんの少し困った風に、額に掻いた汗をハンカチで拭った。

「今日はもう帰ると致します。また、明後日参りますので」
「あら、今日はお早いのですね」
「ええ、少し用事がありますのでな」
「そうですか……。どうか、気をつけてお帰りになってくださいませね」

カーティスは「それでは」と僅かに頭をさげて、セレーネへ視線を向けるとにっこりと微笑んだ。きっと、今からハンカチを買いにいくかもしれない。身に着けているものからも分かるが、カーティスの選ぶものは品があり、温かみのあるデザインのものが多い。きっとレーヌの気に入るハンカチを見つけることが出来るだろう。丸まった背中を凝視しながら見送っていると「さあ、休憩室に行きましょうか」とレーヌに即された。

(……き、緊張する)

レーヌのあとを追いかけるように、神殿の廻廊を歩く。休憩室は神殿の奥。とても小さな部屋だ。一言で言えば殺風景の極み。簡単な椅子が4つ。テーブルは1つ。縦に長い窓にはカーテンの一つも掛けられていない。

1つの椅子に腰かけると「茶の準備を整えて参りますね」と言って、レーヌはそのまま休憩室を出て行った。

パタンと静かに扉が閉まる。

(……もしかして、子供達が起きるまで……レーヌ様とお喋りすることになるのかしら。いえ、ありえないわね。レーヌ様はお忙しそうだし)

レーヌは聖女としてとても忙しいとエルゲンが以前に言っていた。

だからきっと、茶を持ってきてくれた後はすぐにでも仕事に戻るだろうと考えていたのだが、レーヌは茶を用意してくれた後も何故か休憩室から立ち去る気配を見せなかった。
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