大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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神殿

百合

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「……ごめんなさい」

その謝罪は、黙っていてすまなかったというよりかは、気を遣わせてしまうことになってすまないという意味のものだった。カーティスは年の功でそれを察したのだろうか。再び朗らかに笑ってみせて「いやいや、こちらこそ」と僅かに頭を下げた。

「こちらこそ、気づかぬふりをしていればよかったですな。しかし……だましているようで申し訳なくなったものですから」
「……そう、ですか」

セレーネは唇を引き結び、カーティスの表情を伺ったが、彼はただ優しく微笑むだけで、セレーネを責めようとはしなかった。

「……あの、どうかこれからも気を遣わずに接してくださいますかしら」
「ええ、ええ、もちろん。あなたが望むのなら、そうしましょう」

カーティスは重たい瞼で目元に皺を刻み、微笑む。セレーネはほっと息をつき、はたと彼の言葉に1つ違和感を覚えて再度問いかける。

「エルゲンの瞳から分かると仰いましたけど……エルゲンはそんなに分かりやすかったかしら?」

質問した後で、セレーネはこの質問は愚門だったかもしれないと気づく。セレーネが怪我をしたと気づいた時、エルゲンはすかさず、セレーネを横抱きにした。見方によっては、これだけで2人の関係が親しい間柄であることは分かってしまうものなのかもしれない。しかしカーティスが返した答えはそうではなかった。

「いえ、なに。エルゲン様が内庭へ様子を見に来た時から気づいておりましたよ。なにせ、エルゲン様のあんなお顔を見るのは初めてでしたからな。愛しい人を見つめる瞳というものは、言葉よりなにより如実なものですな」

その時、エルゲンは本当に私のことを見ていましたの?と、喉から出かかった言葉を、セレーネは咄嗟に飲み込んだ。こんなことを聞いては空気を悪くしてしまう。セレーネはカーティスの言葉には曖昧に微笑むことしか出来なかった。やがて話題は元へ戻り、レーヌへの贈り物の件に戻る。結局、2人で考え出した結果、レースのハンカチではなく、美しい刺繍の施されたハンカチを贈ることになった。

「ハンカチは常に持ち歩くものですもの。きっと、お喜びになりますわ」
「そうですな。レーヌ様は百合の花がお好きなご様子。少し市井を出歩いて探してみましょう」

カーティスは頼もしく頷いた。その時、丁度レーヌが絵本を読み終わったのだろう。子供達が顔をあげる。その視界の端にカーティスと2人で話し込むセレーネを見つけると、子供達はぱあっと花咲くような笑みを浮かべて「おねえーさん!」と大声で手を振って来る。

「ほっほっほ、好かれましたなあ」

心底嬉しそうに笑うカーティスに、セレーネは照れ笑いをしながら、子供達へ手を振り返した。

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