大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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旦那様の想い人

屋敷を出て

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セレーネは、エルゲンを見送った後こっそりと支度を開始した。大神殿へ向かうために。もちろんその目的は「この人の妻は私ですから。私の夫の時間を取らないでください!」とレーヌに言いに行く……訳ではない。

ただ、2人が大神殿でどんな風に過ごしているのか見に行くだけ。2人がどんな風に過ごしているのかを確認したら、すぐに屋敷に戻るその予定だ。

だが、そうするには1つ難関がある。

この屋敷を誰にもバレずに出ていくことだ。メイドや執事には「部屋に籠りたいからしばらく1人にしてくれ」と言えば、彼らは部屋には近づかない。が、それで屋敷から出られるかと言われたらそうはならない。なにせセレーネの部屋は二階にあるので、飛び降りるなんてことをしたら、きっと足の捻挫だけでは済まないのだから。屋敷を突っ切って出ることは難しい。

(メイドに変装して、屋敷を出る?でも、メイド服って……どこから拝借したらいいのかしら)

メイドの服を拝借する場所が分からなければ、姿を変えることが出来ない。そもそもセレーネの金色の髪は、恰好を変えただけでは、どうにも隠しようもない。この国で金髪は珍しくも何ともないけれど、セレーネの金髪は特別だ。なにせその輝きは淡く、溶かした蜂蜜より幾分薄い色合いで、光の当たり具合によっては白くも見えてしまう。そんな珍しい髪色を持つのはセレーネだけだ。それなので、例え恰好をかえても意味はない。


(駄目だわ。誰かに相談しないと。でも、相談できる人なんて誰もいないし。ここは素直に買い物に行くと言って市井に出て、付き添いの視界から外れた方が良さそうだわ)

「よし!」

セレーネはバッと立ち上がって、「仕立て屋のデザイナーに会いに行くから、誰か付き添いをお願い」と頼んだ。事前に言われていない予定を伝えられて、執事は困惑していたが何とか付き添いの者を付けてくれた。

「ごめんなさいね。急に付き添いしてなんて言って」

これから心配をかけることになると思うと申し訳なくて、セレーネは馬車の中で長い間エルゲンに仕えているメイド─ラーナに謝った。

「いいえ、そんな。謝っていただくことはございませんよ」

穏やかに笑うラーナに、セレーネの気分はますます沈む。セレーネは自分がどんどん嫌な人間になっているような気がした。昨日だって嘘までついてエルゲンを引きとどめて、今はこうしてラーナに嘘をついて、大神殿に言ってエルゲンとレーヌの様子を伺うために馬車に乗っている。

セレーネは心の痛みに耐えかねて、自分の太腿を服の上からつねった。

「……っ」
「セレーネ様!一体、何をなさっておいでなのですか」
「ちょっと、その……足が痒いような気がしただけ」
「……左様でございますか」

ラーナは心配気にセレーネを見つめたが「本当になんでもない」と言うと、温かな笑顔を向けて頷いてくれた。
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