大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう

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旦那様の想い人

残酷な恋

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「う~ん……やっぱり、お腹痛いっていうのが一番なのかしら」

エルゲンの気をひく方法なんてたぶんいっぱいある。怪我をしてみたり、病気を装ってみたり、太ってみたり、痩せてみたり。お金を使って人に攫わせることだって出来る。

だが、実際に怪我なんてするのは痛いので絶対に嫌だ。それに太って見せるのは簡単だが、アマンダ曰く「太るのは簡単だが、痩せるのは難しい」らしいので、太ることも難しい。だからといって痩せることが難しいのなら、それも出来ない。一番簡単なのはお金の力を使って、人に攫わせることだが。これは危険だ。もし演技だとばれたらそれこそエルゲンに嫌われて終わるだろう。

「うん、何だかんだ色々考えても結果は同じね。仮病を使ってみましょう」

(お腹が痛いくらいなら、熱がなくても怪しまれない……わよね。ごめんなさい、エルゲン)

エリシャは心の中で謝りながら「お腹が痛い」演技をすることにした。

エルゲンの気をひくためにこんな演技をしようとする自分が滑稽なようにも思えたけれど。こんなことをしてでもエルゲンの気をひきたいと思う。

(私……いつのまにか、こんなにエルゲンのことが好きになっていたのね)

皇子に婚約破棄されて、エルゲンから求婚を受けて。あの時、エルゲンの求婚を受けたのはただ単に、自分を捨てた婚約者と自らを侮り追い詰めようとしてきたエンリケ、それから両親と妹に当てつけたかっただけだ。それはエルゲンにだって伝えてある。

『あなたの求婚を受け入れたのは、あの場にいる皆に当てつけたかったからよ。あなたを好きだからじゃない』
『ええ、存じていますよ』

あの時、エルゲンは変わらずにっこりと微笑んだ。

セレーネがこの時、彼に対して思ったことは『穏やかで誰にでも微笑むつまらない人』だった。何を言われても笑い返す人。でもそれは、誰の意見に対しても賛同するわけではなかった。エルゲンはその微笑みの中に表情がある。それが分かった時、セレーネは何だかとても嬉しかった。嬉しく感じた時にはもうすでにエルゲンのことを好きになっていたんだろう。彼の大きな秘密に触れてしまったような気がして、あれほど感動を覚えたことはなかったと思う。

「好きよ……エルゲン」

セレーネは何もない虚空へ向けて囁いた。もちろんエルゲンに届くはずのない言葉。それでも、言いたくなった。想いが溢れて止まらない。

どうしようもなく好きになってしまった人。こんな風に自覚して……こんな時により深くエルゲンのことを想ってしまうなんて。

恋は、なんて残酷なんだろう。
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