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聖女選定
選ばれし聖女
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神殿内の空気が変わった。
1人の巫女はこれまでの巫女と同じように長々と口上を述べる。それにエルゲンが一言、二言を返すと、巫女は小さく頷いて、もったいぶるような仕草で、ベールを取った。
おお、と会場中からどよめきが起こる。
それもそのはず。その巫女の容貌はこれまで見てきた誰の容貌よりも美しく洗練されていた。いや、美しいなんてものではない、神神しく眩しいと賞賛すべきだろう。絶世の美女と呼ぶにも烏滸がましい。銀の髪に、蕩けるような蜂蜜色の瞳が、窓から差し込む日に透けて、魅惑的に輝いた。
誰もが直感した。この方が聖女となる方だと。それほどまでに彼女の纏う空気は他の巫女と一線を画していた。
熱を帯びる周囲の反応をよそに、壇上の巫女は静かに一礼して、花が綻ぶようにエルゲンに微笑みを向ける。エルゲンはいつものようにほほ笑み返した。
(なによ、エルゲンの馬鹿。微笑む必要なんてないじゃないの)
そう思っても、エルゲンは元々誰にでも優しい微笑みを向ける人だと分かっているので仕方のないことだとも思う。それに彼は誰にでも微笑むが、誰にでも甘く優しいという訳ではない。何かあれば厳しい言葉を使うこともあるし、難しい顔をする時だってあることを、セレーネは知っている。
壇上から最後の巫女が降りると、エルゲンは淑やかな動作で、背後に立つ女神像の前に跪いた。
彼の一挙手一投足に見惚れ、祈る姿のあまりの神々しさに、セレーネはゴクリと固唾を呑み込む。
彼が祈りを捧げている間は、誰も何も話さなかった。まるで彼の清浄なる祈りが、自らの声によって汚されることを恐れるかのように。
エルゲンは小さく唇を動かして、女神に何かを問うているようだった。一刻、一刻と時が過ぎる。すっとエルゲンが祈りのために組んでいた手を降ろすと、白い女神像の目が花開き一瞬で萎むように光って、それきり何か動くような素振りを見せなかった。
エルゲンはゆっくりと立ち上がった。
壇上の真ん中に立ち、降りて……そして、やはりあの巫女の手を取った。
──……やはりあの巫女様が聖女か
誰かがぽつりと呟く。
エルゲンと選ばれた巫女は、一言二言を交わしているようだった。何を話しているのか、美しい男女の他愛もない様子に、会場中がまたざわざわと揺れ、やがて声のざわめきは、喝采へと変わった。
──……聖女様、万歳!聖女様、万歳!
祝福の声を浴びる中で「聖女」として選ばれた巫女は頬を赤らめ、初々しい様子でその声に答えるべく手をあげた。その様はセレーネが見惚れてしまうほどに愛らしく、美しく。近寄りがたく思われるほどに尊いようだった。
そんな彼女の手に、エルゲンが口づけを落とそうとする。
絶対に見ない。そう思っていたけれど、2人の仲睦まじげな様子にセレーネは目が離せなくなってしまった。
「……っ」
エルゲンが、聖女の額に口づける。すると、彼女の額に金色の百合の紋章が浮かび上がった。
セレーネの苦悶の呻きは、周囲の喝采にかき消された。思っていた通り、心の中には重く暗い感情が根を張り、芽吹く。
(やっぱり、来なければよかった……)
拳をぎゅっと握りしめる。後悔をしても遅いとは分かっていても、それでも時を戻せるのなら戻したいと、セレーネはそう思った。
1人の巫女はこれまでの巫女と同じように長々と口上を述べる。それにエルゲンが一言、二言を返すと、巫女は小さく頷いて、もったいぶるような仕草で、ベールを取った。
おお、と会場中からどよめきが起こる。
それもそのはず。その巫女の容貌はこれまで見てきた誰の容貌よりも美しく洗練されていた。いや、美しいなんてものではない、神神しく眩しいと賞賛すべきだろう。絶世の美女と呼ぶにも烏滸がましい。銀の髪に、蕩けるような蜂蜜色の瞳が、窓から差し込む日に透けて、魅惑的に輝いた。
誰もが直感した。この方が聖女となる方だと。それほどまでに彼女の纏う空気は他の巫女と一線を画していた。
熱を帯びる周囲の反応をよそに、壇上の巫女は静かに一礼して、花が綻ぶようにエルゲンに微笑みを向ける。エルゲンはいつものようにほほ笑み返した。
(なによ、エルゲンの馬鹿。微笑む必要なんてないじゃないの)
そう思っても、エルゲンは元々誰にでも優しい微笑みを向ける人だと分かっているので仕方のないことだとも思う。それに彼は誰にでも微笑むが、誰にでも甘く優しいという訳ではない。何かあれば厳しい言葉を使うこともあるし、難しい顔をする時だってあることを、セレーネは知っている。
壇上から最後の巫女が降りると、エルゲンは淑やかな動作で、背後に立つ女神像の前に跪いた。
彼の一挙手一投足に見惚れ、祈る姿のあまりの神々しさに、セレーネはゴクリと固唾を呑み込む。
彼が祈りを捧げている間は、誰も何も話さなかった。まるで彼の清浄なる祈りが、自らの声によって汚されることを恐れるかのように。
エルゲンは小さく唇を動かして、女神に何かを問うているようだった。一刻、一刻と時が過ぎる。すっとエルゲンが祈りのために組んでいた手を降ろすと、白い女神像の目が花開き一瞬で萎むように光って、それきり何か動くような素振りを見せなかった。
エルゲンはゆっくりと立ち上がった。
壇上の真ん中に立ち、降りて……そして、やはりあの巫女の手を取った。
──……やはりあの巫女様が聖女か
誰かがぽつりと呟く。
エルゲンと選ばれた巫女は、一言二言を交わしているようだった。何を話しているのか、美しい男女の他愛もない様子に、会場中がまたざわざわと揺れ、やがて声のざわめきは、喝采へと変わった。
──……聖女様、万歳!聖女様、万歳!
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そんな彼女の手に、エルゲンが口づけを落とそうとする。
絶対に見ない。そう思っていたけれど、2人の仲睦まじげな様子にセレーネは目が離せなくなってしまった。
「……っ」
エルゲンが、聖女の額に口づける。すると、彼女の額に金色の百合の紋章が浮かび上がった。
セレーネの苦悶の呻きは、周囲の喝采にかき消された。思っていた通り、心の中には重く暗い感情が根を張り、芽吹く。
(やっぱり、来なければよかった……)
拳をぎゅっと握りしめる。後悔をしても遅いとは分かっていても、それでも時を戻せるのなら戻したいと、セレーネはそう思った。
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