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聖女選定
厳かなる聖女選定式
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深淵を思わせる鐘の音が、国中で高らかに鳴った。聖女選定の合図の鐘だ。
国中が沸き立つ中で、静かなのは王都中心に位置する大神殿、その中だけである。
鐘の音の余韻が消えると、儀式は厳かに始まった。真っ新な服を身に纏ったエルゲンに、会場中から感嘆の溜息が漏れる。彼は女神像の前で丁寧に礼を取ると、聖女選定の儀を執り行うことを宣言した。
各地にある神殿の数だけ、巫女がいる。
巫女はゆうに100を超え、誰も彼もが美しい巫女装束を身に着けていた。彼女らは1人1人、エルゲンに長々と口上を述べていく。皆一様に頭からベールを被っていた。しかし口上が終わると、ベールを外し、エルゲンとその背後にある女神の像へと一礼する。
最初の内は良かったが、なにせ1人1人の口上が長いので、30人の巫女が挨拶をした頃には、神殿内の空気は、すっかり緩み始めていた。
大神殿に集められた貴族達は、巫女達の様子を眺めながら、長い時間に飽いてひそひそと噂話をし始める。下世話な世間話が好きな貴族達の中には巫女の中で誰が一番美しいのか批評をし始める者までいる。最前列で、様子を見守るセレーネの耳にも彼らの話し声は聞こえていた。
──……今、礼をしている彼女が一番美しいのではないか。ルーエル村の小さな神殿から来たそうだが……。それにしても美しいな。巫女であるのが惜しまれる。
──……俺は一番最初にご挨拶していた方がいい。巫女と言いながら、あの豊満な身体はなかなかのものだ。
下世話な話を楽しそうにする男性に対して。
──……素敵、やっぱりエルゲン様がこの国で一番素敵でいらっしゃるわ
──……ええ、セレーネ様が羨ましいかぎりだわ。あんな素敵な方が旦那様だなんて、毎日がそれはそれは楽しいんでしょうねえ
──……エルゲン様はもうご結婚なさっているし、他に素敵な神官様はいらっしゃらないかしら
──……ねえ!あそこにいらっしゃる方、素敵でいらっしゃらない?ほら、あの、白に金色の装身具をお持ちになっている……
──……あら、本当。帰る前にお名前だけでも聞いて行きましょうか
と、女性達は素敵な神官探しに勤しむ始末だ。
(でも、それも仕方のないことね。かれこれ半日は過ぎるもの……私も疲れてきてしまったわ)
なにせ50年に一度の大儀式なのだ。長丁場もある程度覚悟してきたが、これはきつい。景色が変わるならまだ耐えられるが、目の前で行われる儀式の眺めはそう滅多に変わるものではない。100年見たって飽きないエルゲンの顔を眺めているのは全く苦ではないが、巫女達が彼に挨拶する光景が半日も繰り返されるのは、大きな木の周りを馬車でぐるぐると回り、永遠と続く同じ風景を眺めることほどつまらない。
つまらないと思っても、途中で退席するわけにもいかないので、セレーネはあくびを噛み殺しながら、同じ光景を見続けた。
窓から差し込む日の色が柔くなってきて、会場中の空気が本格的に緩んできた頃。
1人の巫女が壇上にあがった。
「……っ」
瞬間、何故か空気がピリリと緊張感を孕らみ、だれて背中を丸めて寝入っていた者も不思議と眠気を覚まして、すっと姿勢を正しているようだった。
国中が沸き立つ中で、静かなのは王都中心に位置する大神殿、その中だけである。
鐘の音の余韻が消えると、儀式は厳かに始まった。真っ新な服を身に纏ったエルゲンに、会場中から感嘆の溜息が漏れる。彼は女神像の前で丁寧に礼を取ると、聖女選定の儀を執り行うことを宣言した。
各地にある神殿の数だけ、巫女がいる。
巫女はゆうに100を超え、誰も彼もが美しい巫女装束を身に着けていた。彼女らは1人1人、エルゲンに長々と口上を述べていく。皆一様に頭からベールを被っていた。しかし口上が終わると、ベールを外し、エルゲンとその背後にある女神の像へと一礼する。
最初の内は良かったが、なにせ1人1人の口上が長いので、30人の巫女が挨拶をした頃には、神殿内の空気は、すっかり緩み始めていた。
大神殿に集められた貴族達は、巫女達の様子を眺めながら、長い時間に飽いてひそひそと噂話をし始める。下世話な世間話が好きな貴族達の中には巫女の中で誰が一番美しいのか批評をし始める者までいる。最前列で、様子を見守るセレーネの耳にも彼らの話し声は聞こえていた。
──……今、礼をしている彼女が一番美しいのではないか。ルーエル村の小さな神殿から来たそうだが……。それにしても美しいな。巫女であるのが惜しまれる。
──……俺は一番最初にご挨拶していた方がいい。巫女と言いながら、あの豊満な身体はなかなかのものだ。
下世話な話を楽しそうにする男性に対して。
──……素敵、やっぱりエルゲン様がこの国で一番素敵でいらっしゃるわ
──……ええ、セレーネ様が羨ましいかぎりだわ。あんな素敵な方が旦那様だなんて、毎日がそれはそれは楽しいんでしょうねえ
──……エルゲン様はもうご結婚なさっているし、他に素敵な神官様はいらっしゃらないかしら
──……ねえ!あそこにいらっしゃる方、素敵でいらっしゃらない?ほら、あの、白に金色の装身具をお持ちになっている……
──……あら、本当。帰る前にお名前だけでも聞いて行きましょうか
と、女性達は素敵な神官探しに勤しむ始末だ。
(でも、それも仕方のないことね。かれこれ半日は過ぎるもの……私も疲れてきてしまったわ)
なにせ50年に一度の大儀式なのだ。長丁場もある程度覚悟してきたが、これはきつい。景色が変わるならまだ耐えられるが、目の前で行われる儀式の眺めはそう滅多に変わるものではない。100年見たって飽きないエルゲンの顔を眺めているのは全く苦ではないが、巫女達が彼に挨拶する光景が半日も繰り返されるのは、大きな木の周りを馬車でぐるぐると回り、永遠と続く同じ風景を眺めることほどつまらない。
つまらないと思っても、途中で退席するわけにもいかないので、セレーネはあくびを噛み殺しながら、同じ光景を見続けた。
窓から差し込む日の色が柔くなってきて、会場中の空気が本格的に緩んできた頃。
1人の巫女が壇上にあがった。
「……っ」
瞬間、何故か空気がピリリと緊張感を孕らみ、だれて背中を丸めて寝入っていた者も不思議と眠気を覚まして、すっと姿勢を正しているようだった。
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