101 / 113
File No. 95 事件の背景
しおりを挟むこの事件の発端は、塩谷教授から始まった。
長い春休みが終り、入学式が終ってすぐの4月。メールで送るのは危険と考えたのか、教授は入間の研究室に直接やってきた。
「面白い写真があってね」
すぐ隣では、ゼミ生たちが自分の研究に没頭している平日の夕方だ。吉川准教授はその時不在。塩谷は彼女が不在の時を狙っていたようだった。
「なんだね。君がここに来るなんて珍しいな」
入間と塩谷は今年の秋に行われる学部長選挙で、共に有力候補と言われる現副部長だ。長年ライバルと呼ばれ互いに意識している。
年齢は入間が少し上だし、実績も勝っていたが、ここ2年ほどで塩谷の論文のいくつかが高く評価されだし、見劣りしなくなっていた。
「ま、暇暇に見ておいてくれよ」
塩谷はスナップを利かせるように白い封筒を入間の大きなデスクに投げた。磨き上げている天板の上を、封筒はすうっと滑り、入間の胸先で止まった。
「もちろんデータは私が持っている」
にやりと口角をあげ、塩谷は背を向けた。相変わらず無駄に若作りしたシャツにジャケットが鼻に突く。
――――ふん。変態が。おまえの論文、誰が書いてるのか皆知ってるぞ。
糊付けされている封を、ペーパーナイフを使ってシュッと切る。数枚の写真を取り出し、入間は息を呑んだ。吉川准教授との熱烈なショット。
夜の車中でのキスや吉川のアパートの前で肩を寄せる姿等など。言い訳できないような写真が天板の上で入間を睨んでいた。
「ヤツは学部長になるために土屋さんを大学に呼び寄せたんだ。優秀な彼女に研究や論文を代行させ、それなりに成功してた。
だが、それでも私は負けてなかった。塩谷は最後の手段に出たんだろう。本当に下衆な野郎だ」
取調室で、入間は塩谷に対しての嫌悪は隠そうともしなかった。殺したことも後悔してないような口ぶりだ。
「私も対抗しようとヤツの悪行を暴こうとしたんだが……塩谷に標的にされた学生は口を割らないし、土屋さんもガードが固くて」
写真の件は、すぐに吉川にも伝えた。
「入間教授との不倫は、私にとってビジネスでしたから。奥様と揉めるとか絶対嫌でした」
入間が学部長になれば、自分が学部初めての30代教授になるのも夢じゃない。そのためにずっと愛人をやってきたのだと吉川は臆面もなく言い放つ。
「結婚なんて全然考えていない。第一、恋人は別にいます」
だそうだ。完全に打算的な関係だったようで、今回の殺人事件は彼女の思惑も大きかったのが窺われた。
「別にそそのかしたわけではないですよ? でも、土屋先生が認められるのは癪に障るし……。教授とのことが奥様にバレるのも、学部長選にマイナスになるのも全部許せなかった」
塩谷からは、学部長選の立候補を取りやめるように言われたが、それすら入間に選択権はなかった。
吉川もそうだが、妻が許可するはずがない。理由を問い詰められ、どんな目に合うのか想像するのも恐ろしかった。
「それに、奴の言いなりになったところで、本当にデータが削除されるかわからん。結局、私には選択肢がなかったんだ」
あの日、入間は塩谷から5時に部屋に来るように言われた。立候補取り下げの書類と引き換えに、USBを渡すと。
ゼミ生や土屋には5時までに帰るように伝えてあるとの話だった。まさかその後に、塩谷が『お気に入り』を呼んでいたとは、思いも寄らなかった。
1
あなたにおすすめの小説
【完結済】俺のモノだと言わない彼氏
竹柏凪紗
BL
「俺と付き合ってみねぇ?…まぁ、俺、彼氏いるけど」彼女に罵倒されフラれるのを寮部屋が隣のイケメン&遊び人・水島大和に目撃されてしまう。それだけでもショックなのに壁ドン状態で付き合ってみないかと迫られてしまった東山和馬。「ははは。いいねぇ。お前と付き合ったら、教室中の女子に刺されそう」と軽く受け流した。…つもりだったのに、翌日からグイグイと迫られるうえ束縛まではじまってしまい──?!
■青春BLに限定した「第1回青春×BL小説カップ」最終21位まで残ることができ感謝しかありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございました。
不器用に惹かれる
タッター
BL
月影暖季は人見知りだ。そのせいで高校に入って二年続けて友達作りに失敗した。
といってもまだ二年生になって一ヶ月しか経っていないが、悲観が止まらない。
それは一年まともに誰とも喋らなかったせいで人見知りが悪化したから。また、一年の時に起こったある出来事がダメ押しとなって見事にこじらせたから。
怖い。それでも友達が欲しい……。
どうするどうすると焦っていれば、なぜか苦手な男が声をかけてくるようになった。
文武両道にいつも微笑みを浮かべていて、物腰も声色も優しい見た目も爽やかイケメンな王子様みたいな男、夜宮。クラスは別だ。
一年生の頃、同じクラスだった時にはほとんど喋らず、あの日以降は一言も喋ったことがなかったのにどうして急に二年になってお昼を誘ってくるようになったのか。
それだけじゃない。月影君月影君と月影攻撃が止まない。
にこにことした笑顔になんとか愛想笑いを返し続けるも、どこか夜宮の様子がおかしいことに気づいていく。
そうして夜宮を知れば知るほどーー
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について
kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって……
※ムーンライトノベルズでも投稿しています
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
【完結】君を上手に振る方法
社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」
「………はいっ?」
ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。
スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。
お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが――
「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」
偽物の恋人から始まった不思議な関係。
デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。
この関係って、一体なに?
「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」
年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。
✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧
✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる