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File No. 88 竜崎の懸念
しおりを挟む「土屋先生は、あのフォルダの中身はご存じなかったんですよね」
こちらの話が終ると、風見刑事が居ずまいを正しながら尋ねてきた。1番大きな嘘をただしたのだから、もうなんでも話せるでしょうという雰囲気だ。
「あのフォルダって、お気に入り学生フォルダのこと?」
塩谷教授が鍵付きフォルダで保存していたものだ。そこには藍がキャンパスで過ごす姿も数枚見つかっていた。
「鍵付きフォルダがあったのはもちろん知ってたし、中身も想像できたけど……開けたことはなかったわよ。さすがにパスワードは誕生日じゃなかったし」
一応試してはみたようだ。警察のサイバー課が調べ、3人(もしくは三つのデバイス)がアクセスしたことがわかっている。教授本人と能代のパソコン。そしてもう一つは未だに捜査中だ。
かなり複雑な経路を使いアクセスしたようで、なかなかたどり着けないでいた。
「それがなんで? あの中の学生たちは全員アリバイがあったって聞いたけど」
言うだけ言ったらスッキリしたのか、土屋はため口になり、まるで世間話をするように喋っている。風見刑事は鼻を掻き、苦笑いしながらその問いに答えた。
「中身は美青年だけでなくてね。あなたもよくご存じの教授と准教授の……かなり際どい画像もあったんですよ。塩谷教授からはなにも?」
「それって、入間教授と吉川先生のこと? まさか」
風見刑事が肯定するのを待たず、土屋はそう言ったきり絶句した。
好きな学生を撮るのは別にして、彼らの情事の画像など、相当苦労して張り付かないと撮れない代物だ。学部長選挙のためとはいえ、あの塩谷教授が実行するとは思えなかった。
「誰かに依頼したのかもしれませんね。塩谷教授はそれを使い、入間教授を脅迫した可能性があります」
風見ではなく、竜崎が土屋の沈黙に応えた。
「じゃあ……本当に入間教授が?」
「画像から言えるのは、動機があるってことだけですよ」
そうあっさり返され、土屋は不満そうに二人を見上げる。それには全く関心を払わず、風見刑事はその後もいくつか土屋に質問、確認を取った。
決してうっかりしていたわけではないが、気が付けば6時近かった。大学から藍のバイト先までは、歩くと10分以上かかる。
運よく友人から自転車を借りられたので、スマホにメッセージを入れてからキャンパスを疾走した。ところが、竜崎は正門を抜けるところで急ブレーキをかける。
「鏑木っ」
急いではいたが、後ろへとフルスピードで流れていく背景に見逃せない人物の姿があった。
「ああ、竜崎、どないしたん。えらい急いでるようやけど」
鏑木の情報のおかげで、今回の事件は大きく動いた。それに、風見や田代が鏑木になにかを聞きにいく可能性もある。それを伝えたかったのだ。
「いや、鏑木のネタのことで……」
竜崎は手早く説明した。ゆっくりお愛想している時間はない。
「あ、もしかしてこれから藍のとこ行くんか?」
話は終わったとばかりに竜崎が前を向いたところで、鏑木が話を続けた。
「ああ、バイト先にお迎えだよ」
「ふううん。なるほどな。今日は吉川先生にえらい絡まれてたけど、機嫌はよさそうやったから。そんなええことがあったんなら納得や」
「ええこと? ははっ。それなら良かった。じゃあな」
竜崎は右のペダルをグイッと押し、スピードを上げる。タイヤは軽快に回転し、あっという間に正門を抜け走り去った。
――――吉川先生に絡まれてた? なんだろう。余計なこと言ってなきゃいいけど。
しかし、竜崎の懸念は現実となってしまっていた。
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