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竜崎慎の事件メモ その3
しおりを挟むいつだったろう。藍の鞄から俺の土産、ピラミッドのキーホルダーが消えたのは。それまでは誇らしげに揺れていたのを、俺は目に入るたびについニヤニヤしていたんだ。
――――けど、わりとすぐ姿を消してしまった。俺は藍に問い詰めることもできなくて。
所詮、かの地での土産物屋の品だ。自慢じゃないけどめっちゃ安かった。そんなのを小学生じゃあるまいし、大学生の男子がいつまでも付けてるわけがない。
だから、少々しょげたけど、部屋のどこかに置いてあるのだろうと自分を慰めてたんだ。
それがっ!
「誰かが、藍を犯人に仕立てようとしたってことだな」
まさか、そんなことに使われていたとか。藍はこのキーホルダーを塩谷教授の部屋に落としたのだそうだ。こればっかりは仕方ない。しかしよりによって、脅迫の道具に使われようとは!
「それで、なにか要求してきたのか?」
今回藍は、脅迫メールを受け取ってすぐ、俺に連絡してくれた。このキーホルダーがあの殺人現場に落ちていたというメールだ。
つまり、俺たちが死体を発見する前に、現場を訪れた人がいるってわけ(そいつが犯人じゃなければの話だが、普通に考えれば違うだろう)。
「ううん。まだなにも。やっぱりゼミの関係者かな」
藍が犯人だと考えた脅迫者は、警察には黙ってキーホルダーを拾い、脅迫してきた。その要求はまだわからないが……。
そして、元々このキーホルダーをわざわざ落としていったのは犯人なのか? あの、『6時を忘れるな』メールをしたやつと同一人物か。
うーん、なんだかしっくりこないな。
俺の見立て、あくまで素人の見立てだが、塩谷教授が殺されたのは5時から5時半の間と思ってる。
だから、あのメールは内容から言っても塩谷教授が打ったわけではない。その人物は藍が6時にやってくると勘違いしていた。
――――でも、そうだとしても、殺害時間が早すぎる。少なくとも5時半以降に犯行を及んだほうが良かったのにな。そこのところは考えてなかったのか?
藍が一人で来てたら、すぐに警察に連絡できなかった可能性はある。でもなあ、さすがに藍も20歳過ぎの大人だ。
それに素直な性格だから、驚いて腰を抜かしたところで、すぐに110番すると思うけどな。だとすれば、かなり正確な死亡推定時刻が計れる。
犯人はなぜか焦っていた。だから、藍に遅れてほしくなかったんだ。なにかアクシデントがあって、予定より早く事を成してしまったのか。それとも……。
「やっぱりゼミの関係者かな」
心細そうに藍が言う。
「ゼミの関係者だけじゃなく、教授の関係者や大学事務局の人も含れば、結構な人数になる。だが状況を考えれば……」
「あっ……」
俺の言葉が終る前に、藍のスマホに振動が。どうやらメールが届いたようだ。
「どうした。脅迫者からのメールか!?」
殺気立つ俺。しかし藍は途端に挙動不審になって、スマホを背後に隠した。
「これは違う!」
おっと、何してるんだ。あからさまに違わないだろうが。仕草は可愛いが、見せないとは腑に落ちん。
「怪しいな。それ、違わないだろ」
右手をグイッと差し出すと、さすがに誤魔化せないと思ったのか、今度は素直にスマホを渡してきた。一体、なにを要求してきたのか。大体それで、相手の社会的地位や経済環境が推察される……。
「なっ! なんだこれは……」
俺は自分の目を疑った。どういう要求だ、これ! 学生の藍に、大金を要求するとは思わなかったが、こんなものを欲しがるとはどういう料簡だ!
「許さん……こいつ、警察に任せようかと思ったが、絶っっ対俺が捕まえてぶん殴ってやる!」
脅迫者は藍の〇〇〇の写真や〇かしい写真を送れと言ってきた! おまえが恥ずかしいわ! 藍のそんな写真、誰にも見せれるものか!
さっきまで冷静に事件を読み取ろうとしていた俺だが、このメールで全てが吹っ飛んだ。もう教授を殺したヤツなんて誰でもいい。まずはこの勘違いのクズ野郎を見つけて晒してやる!
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