上 下
50 / 309
2『天使と悪魔』

2 第一章第三話「カイの感情」

しおりを挟む
 そして迎えたカイとデイナの決闘当日、レイデンフォート王国はお祭り騒ぎであった。
 二人の決闘は先日カイとイデアの結婚式を行った第一闘技場で行うこととなり、それに伴って多くの観客が二人の決闘を見ることとなったのだ。
 中にはどちらが勝つかという賭け事も行われており、もちろんダントツでデイナの方にかなりの人数が賭けている。
 それには二つの理由があった。
 それは、カイの実力を国民が知らないという点が一つ。
 カイ達がフィールス王国へと旅だった後、ゼノからカイ達の本当の目的が国民に告げられた。国交を結びに行ったと思っていた人々もフィールス王国の事情を聞いて、カイ達を応援した。そして無事、カイ達がフィールス王国を救ったという情報が国民に入ったのだが、その国民のほとんどが一緒についていったダリルやエイラ、ミーアのお陰だろうと判断していた。カイはただついていっただけではないか、という疑問も出ているくらいで、カイの戦闘力はそれぐらい下に見られているのである。
 しかし、国民達もフィールス王国に伝わるセインというものを使えばカイも強くなることを知っている。イデアのセインによってもしかしたらカイが勝つかもしれないと思った人もいた。
 だが、その人々の予想はカイ本人によってことごとく打ち砕かれた。
 決闘の前日、カイはある宣言をしていたのである。
 その宣言が、もう一つの理由であった。
………………………………………………………………………………
それはカイがイデアと湖から帰った後の出来事だった。
カイ:
「おれ、デイナとの決闘はセイン使わないから」
 カイはイデアを連れてミーアとエイラの前でこう告げた。そこはミーアの部屋である。
 その発言にミーアとエイラは口を開けて唖然とし、さらにイデアすらも目を見開いて驚いていた。
 そして数秒遅れてミーア達が反応する。
ミーア:
「はぁっ!?」
エイラ:
「正気ですか!?」
カイ:
「うん、正気だけど。悪いけどあれな、これはもう決めたことだから、変えるつもりはない!」
 そうカイが言い切る。だが、ミーア達はまだ言葉を重ねた。
ミーア:
「絶対に負けるよ! 勝ち目ないよ! 瞬殺だよ!?」
エイラ:
「その通りです! 本当に一瞬ですよ!」
カイ:
「予想通りの反応だけどたたみかけ過ぎだよ!」
 カイは予想通りの反応に苦笑した。
 事実、セインを使わずにデイナへ挑むというのは無謀なのである。
カイがセインを使わないとなると、カイに残されているのは剣術のみである。以前ヴァリウスの持っていたカイの魔力がカイに混じって魔力を使えたこともあるが、あの魔力は消費して以来回復することはなかった。つまり本当に剣術のみなのである。さらに、以前セインを持った状態でデイナと戦闘しボロボロにやられている。にも関わらずセイン無しでデイナに挑むなど自殺行為であった。
 すると、その時カイの手をイデアが強く握った。
カイ:
「ん、イデア、どうした?」
 カイがイデアへ視線を向ける。するとイデアは悲しみに泣きそうな表情を浮かべていた。
イデア:
「……わたし、怪我はしないでねって言ったよ?」
カイ:
「イ、 イデア……」
 イデアが目尻に涙を溜めながらカイへ視線を送る。
 これもある意味カイの予想通りで、そして何よりも難解な問題であった。
カイ:
「あー、極力って言っただろ? なるべく怪我はしな―――」
イデア:
「どうして自分から怪我する風にするの?」
 だんだんイデアが涙と共に怒りを露わにしていく。
イデア:
「どうしてわたしのセインを使わないの!?」
 やがては、あのイデアがカイに叫んでいた。
 こんなことは今まで無かったため、ミーアやエイラもイデアの剣幕に驚いている。
カイ:
「あー……」
 流石のカイもこれには困った。実際カイもどうイデアを説得しようか悩んでいたのだが、解決策を見出せないまま話してしまったのである。
 イデアが涙を手で何度も拭いながらカイを睨みつける。カイは何故だかイデアの目を直視出来ずにいた。
 そんなカイへエイラが助け舟を出す。
エイラ:
「イデア様、きっとカイ様にも何か考えがあるんだと思いますよ。ね?」
カイ:
「あ、ああ、考えって程じゃないけど」
ミーア:
「いやー、お兄ちゃんのことだから万が一その状態でデイ兄に勝ったらカッコ良くね?みたいな事考えてるんじゃない?」
カイ:
「待て待て、おれが何も考えずにそんな無謀なことすると思うか?」
全員:
「……」
 カイの問いに、その場にいた全員が無反応だった。
カイ:
「あれ!? 少なくとも助け舟を出してくれたエイラは否定してくれよ!」
エイラ:
「いえ、一概に否定できないなと……」
カイ:
「おまえらのおれの印象ってなに!?」
ミーア:
「かっこつけ?」
エイラ:
「おバカプリンス」
イデア:
「……無鉄砲」
 ミーア、エイラ、そしてイデアの順番にカイを罵っていく。
カイ:
「(イデアもそう思ってたのかよ……)」
 イデアの罵りが一番心に響いたカイであった。
エイラ:
「いいから答えてください。どうしてそんなことを思いついたんですか?」
 エイラが催促する。
 その催促を受けて、カイは少しずつ言葉を選び、心を整理しながら話し出した。
カイ:
「んーとな、今回のデイナはいつものデイナじゃないっていうのは皆分かるだろ?」
ミーア:
「まぁ、あの様子を見ればね」
カイ:
「えっと、で、イデアを賭けた戦いの時はさ、絶対に負けられないからそりゃセインだって使うけどさ、今回は別に負けたって何かを失うわけじゃないだろ?」
エイラ:
「確かに負けたからどうこうというのは今回ありませんが……」
カイ:
「だろ? なら別にセイン使わなくても良くないか?」
イデア:
「よくない!」
 すぐさまカイの意見をイデアが否定する。その反応速度にカイは苦笑していた。
カイ:
「……そういやイデアって我を貫くタイプだよな。ダリルが国民に嘘ついた時も問答無用で訂正してたし」
イデア:
「今はそんなこと話してない!」
 イデアは完全に御立腹だった。
イデア:
「わたしは、カイに怪我をしてほしくないの!」
カイ:
「それは分かってるけどさ、別に死ぬわけじゃないし……」
ミーア:
「でも、お兄ちゃんを恨んでそうなデイ兄ならあり得そうじゃない?」
 だが、そのミーアの意見はエイラが否定した。
エイラ:
「いえ、今回に限ってそれはないでしょう」
 先程会ったデイナの様子から、エイラはそう判断していた。
 そうしてカイとイデアが見つめ合う。実際イデアは睨んでおり、カイは何度か視線を逸らしているが。
 平行線に見えたため、そこでエイラは新しく質問することにした。
エイラ:
「確かに今回は負けてもいい決闘です。ですが、それとセインがどう繋がるのでしょうか。セインを使った上で負ける可能性だって十分にあり得るはずですし、イデア様のセインはカイ様の力だと言っても過言ではないはずです」
カイ:
「まぁ、そりゃそうかもしれないけど……」
エイラ:
「カイ様、あなたはこの戦いでセインを使いたくない理由でもあるのですか?」
 エイラがそう尋ねた瞬間、イデアの目から再び涙が溢れだした。セインを使いたくない、という部分に思わず我慢できなかったのである。
 イデアの涙を見た瞬間、慌ててカイはそれを否定した。
カイ:
「ち、違う! 別にセインを使いたくないとかじゃなくて! ……そりゃ、イデアのセインはおれの力と言ってもいいかもしれないけどさ、でも、やっぱりおれの力だって言い切るのは過言だと思うんだ。あれはイデアの力でもあるわけで、おれ一人の力じゃないからさ。セインはおれとイデア、二人の力だと思うんだよ」
 そう弁解しながらカイがイデアの涙を拭ってやる。
 そしてイデアの瞳をじっと見ながら、カイは頑張って心を言葉にしてみた。
カイ:
「……あのさ、今までデイナやライナスと戦った時ってずっと何かしがらみがあったじゃん。普通の決闘とかじゃなくてさ、こう何かを賭けてたりとか。デイナの時はイデア、ライナスの時はもっといろんな物だった。だから負けられなかったんだよ」
 イデアが真っ直ぐにカイの目を見る。
カイ:
「でもさ、今回は何のしがらみもないんだよ。負けたっていいんだ。やっとお互いが素で向き合えるんだよ。つまりさ……」
 そして、カイが照れくさそうに頬を掻きつつ、笑顔で答える。
カイ:
「やっと純粋な気持ちで兄弟喧嘩が出来る気がするんだ」
 その瞬間、カイの感情がイデアへと流れ込んだ。照れくさいけれど嬉しい、そんな感情が。
 その感情を知ってしまった以上、イデアは何も言えなかった。
 だから、
イデア:
「……分かった」
カイ:
「っ、イデア……!」
 そう返すしかイデアにはなかった。
ミーア:
「え、何が分かったの!?」
 ミーアは分からずにあたふたしているが、エイラはカイを微笑んで見つめていた。エイラもカイの感情を理解したのである。
エイラ:
「……まったく、兄弟そろって感情表現が苦手ですか」
カイ:
「な、何の話だよ」
エイラ:
「いいえ、別になんでもありません」
ミーア:
「ねぇ、わたしにも教えてよ!」
 未だに分かっていないミーアがイデアとエイラに懇願する。
エイラ:
「いいですよ、ねぇ、カイ様?」
カイ:
「っ、あ、あああっと! 用事思い出した!」
 そう言ってカイは急いで立ち上がると、そそくさと扉へ向かった。
 そして、
カイ:
「イデア、ありがとうな」
イデア:
「……うん」
 そうやり取りしてから、カイはミーアの部屋から出て行った。
 ミーアはわけもわからずいなくなったカイの方を見ていた。
ミーア:
「ほんと、どういうこと? 何で急にお兄ちゃんいなくなったの!?」
エイラ:
「照れくさいんですよ。自分の心情を言葉にされるのが。だから席を外したんです。」
 そうしてエイラはイデアへと視線を向けた。
エイラ:
「イデア様、よく我慢なさりましたね」
イデア:
「……カイが、すごく嬉しそうでしたから」
 涙を拭ってそう答えるイデアを、エイラは思わず抱きしめてしまった。
エイラ:
「男性っていうのは面倒くさい生き物ですからね。女性は男性に振り回されてしまうものです」
 イデアは、エイラの温かさに思わず抱きしめ返してしまったのだった。
ミーア:
「ねぇ、結局お兄ちゃんはどうしてセインを使わないの?」
 すっかり後にされていた質問を再度ミーアがすると、ようやくエイラが答えた。
エイラ:
「簡単ですよ。カイ様は御自身の力だけでデイナ様に挑みたいんです。先程カイ様が言っておられましたが、セインはカイ様の力でもあるのと同時にイデア様の力でもありますからね。ですからセインには頼りたくないのでしょう」
 エイラはイデアのさらさらとした純白の髪を撫でながら言葉を続けた。
エイラ:
「カイ様は嬉しいんです。今まで仲の悪かった兄と純粋に向き合えるのが。やっと兄弟らしく向き合えるのが。デイナ様も今回のカイ様への決闘の覚悟は本物でした。それがカイ様は嬉しかったのです。だから御自身の力だけでデイナ様に挑みたがってるんです。そしてきっと認めさせたいんですよ。おまえの弟はこんなに凄いんだぞって」
ミーア:
「んー……」
 ミーアは、よく分かったような分かんないような曖昧な反応をして、最後に頷いてみせた。
ミーア:
「男って面倒くさいね」
エイラ:
「そういうものなんですよ」
 エイラが少し遠い目をしながらそう答える。
 すると、エイラに抱きついていたイデアだったが、ふと顔を上に向けてエイラに尋ねた。
イデア:
「エイラさんってカイのことを随分分かっているみたいですが、カイとは何年来の付き合いなのですか?」
エイラ:
「そうですね……。カイ様とはもうかれこれ十二年ですかね」
 そう言いながらエイラは今までのカイのことを振り返り、そして笑みを浮かべた。
エイラ:
「(十二年ですか……。カイ様は随分立派になりましたね。それでいて昔のゼノにだいぶ似てきました。馬鹿さ加減はカイ様の方が少し上でしょうか。ゼノもそれなりに頭ぶっ飛んでましたからね)」
 昔を懐かしむエイラに、イデアは声をかけた。
イデア:
「わたし、もっとカイのことを知りたいです。ですのでエイラさん、昔のカイのことを教えてください!」
エイラ:
「いいですよ 」
 エイラが優しくイデアへと微笑む。
 すると、そんなエイラを見てミーアが一言、
エイラ:
「エイラ、まるでお母さんみたいだね」
 その一言がいらなかった。
エイラ:
「ミーア様? それは歳がそれぐらいって話ですか?」
ミーア:
「ち、違うよ! 雰囲気の話で! 誰も歳の話なんてして―――」
エイラ:
「ミーア様も後でじっくりお話ししましょうね」
ミーア:
「そんなぁー!」
 その後、イデア達は昔のカイの話やら、ミーアの嫌いな怖い話などで盛り上がったという。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...