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2『天使と悪魔』
2 第一章第三話「カイの感情」
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そして迎えたカイとデイナの決闘当日、レイデンフォート王国はお祭り騒ぎであった。
二人の決闘は先日カイとイデアの結婚式を行った第一闘技場で行うこととなり、それに伴って多くの観客が二人の決闘を見ることとなったのだ。
中にはどちらが勝つかという賭け事も行われており、もちろんダントツでデイナの方にかなりの人数が賭けている。
それには二つの理由があった。
それは、カイの実力を国民が知らないという点が一つ。
カイ達がフィールス王国へと旅だった後、ゼノからカイ達の本当の目的が国民に告げられた。国交を結びに行ったと思っていた人々もフィールス王国の事情を聞いて、カイ達を応援した。そして無事、カイ達がフィールス王国を救ったという情報が国民に入ったのだが、その国民のほとんどが一緒についていったダリルやエイラ、ミーアのお陰だろうと判断していた。カイはただついていっただけではないか、という疑問も出ているくらいで、カイの戦闘力はそれぐらい下に見られているのである。
しかし、国民達もフィールス王国に伝わるセインというものを使えばカイも強くなることを知っている。イデアのセインによってもしかしたらカイが勝つかもしれないと思った人もいた。
だが、その人々の予想はカイ本人によってことごとく打ち砕かれた。
決闘の前日、カイはある宣言をしていたのである。
その宣言が、もう一つの理由であった。
………………………………………………………………………………
それはカイがイデアと湖から帰った後の出来事だった。
カイ:
「おれ、デイナとの決闘はセイン使わないから」
カイはイデアを連れてミーアとエイラの前でこう告げた。そこはミーアの部屋である。
その発言にミーアとエイラは口を開けて唖然とし、さらにイデアすらも目を見開いて驚いていた。
そして数秒遅れてミーア達が反応する。
ミーア:
「はぁっ!?」
エイラ:
「正気ですか!?」
カイ:
「うん、正気だけど。悪いけどあれな、これはもう決めたことだから、変えるつもりはない!」
そうカイが言い切る。だが、ミーア達はまだ言葉を重ねた。
ミーア:
「絶対に負けるよ! 勝ち目ないよ! 瞬殺だよ!?」
エイラ:
「その通りです! 本当に一瞬ですよ!」
カイ:
「予想通りの反応だけどたたみかけ過ぎだよ!」
カイは予想通りの反応に苦笑した。
事実、セインを使わずにデイナへ挑むというのは無謀なのである。
カイがセインを使わないとなると、カイに残されているのは剣術のみである。以前ヴァリウスの持っていたカイの魔力がカイに混じって魔力を使えたこともあるが、あの魔力は消費して以来回復することはなかった。つまり本当に剣術のみなのである。さらに、以前セインを持った状態でデイナと戦闘しボロボロにやられている。にも関わらずセイン無しでデイナに挑むなど自殺行為であった。
すると、その時カイの手をイデアが強く握った。
カイ:
「ん、イデア、どうした?」
カイがイデアへ視線を向ける。するとイデアは悲しみに泣きそうな表情を浮かべていた。
イデア:
「……わたし、怪我はしないでねって言ったよ?」
カイ:
「イ、 イデア……」
イデアが目尻に涙を溜めながらカイへ視線を送る。
これもある意味カイの予想通りで、そして何よりも難解な問題であった。
カイ:
「あー、極力って言っただろ? なるべく怪我はしな―――」
イデア:
「どうして自分から怪我する風にするの?」
だんだんイデアが涙と共に怒りを露わにしていく。
イデア:
「どうしてわたしのセインを使わないの!?」
やがては、あのイデアがカイに叫んでいた。
こんなことは今まで無かったため、ミーアやエイラもイデアの剣幕に驚いている。
カイ:
「あー……」
流石のカイもこれには困った。実際カイもどうイデアを説得しようか悩んでいたのだが、解決策を見出せないまま話してしまったのである。
イデアが涙を手で何度も拭いながらカイを睨みつける。カイは何故だかイデアの目を直視出来ずにいた。
そんなカイへエイラが助け舟を出す。
エイラ:
「イデア様、きっとカイ様にも何か考えがあるんだと思いますよ。ね?」
カイ:
「あ、ああ、考えって程じゃないけど」
ミーア:
「いやー、お兄ちゃんのことだから万が一その状態でデイ兄に勝ったらカッコ良くね?みたいな事考えてるんじゃない?」
カイ:
「待て待て、おれが何も考えずにそんな無謀なことすると思うか?」
全員:
「……」
カイの問いに、その場にいた全員が無反応だった。
カイ:
「あれ!? 少なくとも助け舟を出してくれたエイラは否定してくれよ!」
エイラ:
「いえ、一概に否定できないなと……」
カイ:
「おまえらのおれの印象ってなに!?」
ミーア:
「かっこつけ?」
エイラ:
「おバカプリンス」
イデア:
「……無鉄砲」
ミーア、エイラ、そしてイデアの順番にカイを罵っていく。
カイ:
「(イデアもそう思ってたのかよ……)」
イデアの罵りが一番心に響いたカイであった。
エイラ:
「いいから答えてください。どうしてそんなことを思いついたんですか?」
エイラが催促する。
その催促を受けて、カイは少しずつ言葉を選び、心を整理しながら話し出した。
カイ:
「んーとな、今回のデイナはいつものデイナじゃないっていうのは皆分かるだろ?」
ミーア:
「まぁ、あの様子を見ればね」
カイ:
「えっと、で、イデアを賭けた戦いの時はさ、絶対に負けられないからそりゃセインだって使うけどさ、今回は別に負けたって何かを失うわけじゃないだろ?」
エイラ:
「確かに負けたからどうこうというのは今回ありませんが……」
カイ:
「だろ? なら別にセイン使わなくても良くないか?」
イデア:
「よくない!」
すぐさまカイの意見をイデアが否定する。その反応速度にカイは苦笑していた。
カイ:
「……そういやイデアって我を貫くタイプだよな。ダリルが国民に嘘ついた時も問答無用で訂正してたし」
イデア:
「今はそんなこと話してない!」
イデアは完全に御立腹だった。
イデア:
「わたしは、カイに怪我をしてほしくないの!」
カイ:
「それは分かってるけどさ、別に死ぬわけじゃないし……」
ミーア:
「でも、お兄ちゃんを恨んでそうなデイ兄ならあり得そうじゃない?」
だが、そのミーアの意見はエイラが否定した。
エイラ:
「いえ、今回に限ってそれはないでしょう」
先程会ったデイナの様子から、エイラはそう判断していた。
そうしてカイとイデアが見つめ合う。実際イデアは睨んでおり、カイは何度か視線を逸らしているが。
平行線に見えたため、そこでエイラは新しく質問することにした。
エイラ:
「確かに今回は負けてもいい決闘です。ですが、それとセインがどう繋がるのでしょうか。セインを使った上で負ける可能性だって十分にあり得るはずですし、イデア様のセインはカイ様の力だと言っても過言ではないはずです」
カイ:
「まぁ、そりゃそうかもしれないけど……」
エイラ:
「カイ様、あなたはこの戦いでセインを使いたくない理由でもあるのですか?」
エイラがそう尋ねた瞬間、イデアの目から再び涙が溢れだした。セインを使いたくない、という部分に思わず我慢できなかったのである。
イデアの涙を見た瞬間、慌ててカイはそれを否定した。
カイ:
「ち、違う! 別にセインを使いたくないとかじゃなくて! ……そりゃ、イデアのセインはおれの力と言ってもいいかもしれないけどさ、でも、やっぱりおれの力だって言い切るのは過言だと思うんだ。あれはイデアの力でもあるわけで、おれ一人の力じゃないからさ。セインはおれとイデア、二人の力だと思うんだよ」
そう弁解しながらカイがイデアの涙を拭ってやる。
そしてイデアの瞳をじっと見ながら、カイは頑張って心を言葉にしてみた。
カイ:
「……あのさ、今までデイナやライナスと戦った時ってずっと何かしがらみがあったじゃん。普通の決闘とかじゃなくてさ、こう何かを賭けてたりとか。デイナの時はイデア、ライナスの時はもっといろんな物だった。だから負けられなかったんだよ」
イデアが真っ直ぐにカイの目を見る。
カイ:
「でもさ、今回は何のしがらみもないんだよ。負けたっていいんだ。やっとお互いが素で向き合えるんだよ。つまりさ……」
そして、カイが照れくさそうに頬を掻きつつ、笑顔で答える。
カイ:
「やっと純粋な気持ちで兄弟喧嘩が出来る気がするんだ」
その瞬間、カイの感情がイデアへと流れ込んだ。照れくさいけれど嬉しい、そんな感情が。
その感情を知ってしまった以上、イデアは何も言えなかった。
だから、
イデア:
「……分かった」
カイ:
「っ、イデア……!」
そう返すしかイデアにはなかった。
ミーア:
「え、何が分かったの!?」
ミーアは分からずにあたふたしているが、エイラはカイを微笑んで見つめていた。エイラもカイの感情を理解したのである。
エイラ:
「……まったく、兄弟そろって感情表現が苦手ですか」
カイ:
「な、何の話だよ」
エイラ:
「いいえ、別になんでもありません」
ミーア:
「ねぇ、わたしにも教えてよ!」
未だに分かっていないミーアがイデアとエイラに懇願する。
エイラ:
「いいですよ、ねぇ、カイ様?」
カイ:
「っ、あ、あああっと! 用事思い出した!」
そう言ってカイは急いで立ち上がると、そそくさと扉へ向かった。
そして、
カイ:
「イデア、ありがとうな」
イデア:
「……うん」
そうやり取りしてから、カイはミーアの部屋から出て行った。
ミーアはわけもわからずいなくなったカイの方を見ていた。
ミーア:
「ほんと、どういうこと? 何で急にお兄ちゃんいなくなったの!?」
エイラ:
「照れくさいんですよ。自分の心情を言葉にされるのが。だから席を外したんです。」
そうしてエイラはイデアへと視線を向けた。
エイラ:
「イデア様、よく我慢なさりましたね」
イデア:
「……カイが、すごく嬉しそうでしたから」
涙を拭ってそう答えるイデアを、エイラは思わず抱きしめてしまった。
エイラ:
「男性っていうのは面倒くさい生き物ですからね。女性は男性に振り回されてしまうものです」
イデアは、エイラの温かさに思わず抱きしめ返してしまったのだった。
ミーア:
「ねぇ、結局お兄ちゃんはどうしてセインを使わないの?」
すっかり後にされていた質問を再度ミーアがすると、ようやくエイラが答えた。
エイラ:
「簡単ですよ。カイ様は御自身の力だけでデイナ様に挑みたいんです。先程カイ様が言っておられましたが、セインはカイ様の力でもあるのと同時にイデア様の力でもありますからね。ですからセインには頼りたくないのでしょう」
エイラはイデアのさらさらとした純白の髪を撫でながら言葉を続けた。
エイラ:
「カイ様は嬉しいんです。今まで仲の悪かった兄と純粋に向き合えるのが。やっと兄弟らしく向き合えるのが。デイナ様も今回のカイ様への決闘の覚悟は本物でした。それがカイ様は嬉しかったのです。だから御自身の力だけでデイナ様に挑みたがってるんです。そしてきっと認めさせたいんですよ。おまえの弟はこんなに凄いんだぞって」
ミーア:
「んー……」
ミーアは、よく分かったような分かんないような曖昧な反応をして、最後に頷いてみせた。
ミーア:
「男って面倒くさいね」
エイラ:
「そういうものなんですよ」
エイラが少し遠い目をしながらそう答える。
すると、エイラに抱きついていたイデアだったが、ふと顔を上に向けてエイラに尋ねた。
イデア:
「エイラさんってカイのことを随分分かっているみたいですが、カイとは何年来の付き合いなのですか?」
エイラ:
「そうですね……。カイ様とはもうかれこれ十二年ですかね」
そう言いながらエイラは今までのカイのことを振り返り、そして笑みを浮かべた。
エイラ:
「(十二年ですか……。カイ様は随分立派になりましたね。それでいて昔のゼノにだいぶ似てきました。馬鹿さ加減はカイ様の方が少し上でしょうか。ゼノもそれなりに頭ぶっ飛んでましたからね)」
昔を懐かしむエイラに、イデアは声をかけた。
イデア:
「わたし、もっとカイのことを知りたいです。ですのでエイラさん、昔のカイのことを教えてください!」
エイラ:
「いいですよ 」
エイラが優しくイデアへと微笑む。
すると、そんなエイラを見てミーアが一言、
エイラ:
「エイラ、まるでお母さんみたいだね」
その一言がいらなかった。
エイラ:
「ミーア様? それは歳がそれぐらいって話ですか?」
ミーア:
「ち、違うよ! 雰囲気の話で! 誰も歳の話なんてして―――」
エイラ:
「ミーア様も後でじっくりお話ししましょうね」
ミーア:
「そんなぁー!」
その後、イデア達は昔のカイの話やら、ミーアの嫌いな怖い話などで盛り上がったという。
二人の決闘は先日カイとイデアの結婚式を行った第一闘技場で行うこととなり、それに伴って多くの観客が二人の決闘を見ることとなったのだ。
中にはどちらが勝つかという賭け事も行われており、もちろんダントツでデイナの方にかなりの人数が賭けている。
それには二つの理由があった。
それは、カイの実力を国民が知らないという点が一つ。
カイ達がフィールス王国へと旅だった後、ゼノからカイ達の本当の目的が国民に告げられた。国交を結びに行ったと思っていた人々もフィールス王国の事情を聞いて、カイ達を応援した。そして無事、カイ達がフィールス王国を救ったという情報が国民に入ったのだが、その国民のほとんどが一緒についていったダリルやエイラ、ミーアのお陰だろうと判断していた。カイはただついていっただけではないか、という疑問も出ているくらいで、カイの戦闘力はそれぐらい下に見られているのである。
しかし、国民達もフィールス王国に伝わるセインというものを使えばカイも強くなることを知っている。イデアのセインによってもしかしたらカイが勝つかもしれないと思った人もいた。
だが、その人々の予想はカイ本人によってことごとく打ち砕かれた。
決闘の前日、カイはある宣言をしていたのである。
その宣言が、もう一つの理由であった。
………………………………………………………………………………
それはカイがイデアと湖から帰った後の出来事だった。
カイ:
「おれ、デイナとの決闘はセイン使わないから」
カイはイデアを連れてミーアとエイラの前でこう告げた。そこはミーアの部屋である。
その発言にミーアとエイラは口を開けて唖然とし、さらにイデアすらも目を見開いて驚いていた。
そして数秒遅れてミーア達が反応する。
ミーア:
「はぁっ!?」
エイラ:
「正気ですか!?」
カイ:
「うん、正気だけど。悪いけどあれな、これはもう決めたことだから、変えるつもりはない!」
そうカイが言い切る。だが、ミーア達はまだ言葉を重ねた。
ミーア:
「絶対に負けるよ! 勝ち目ないよ! 瞬殺だよ!?」
エイラ:
「その通りです! 本当に一瞬ですよ!」
カイ:
「予想通りの反応だけどたたみかけ過ぎだよ!」
カイは予想通りの反応に苦笑した。
事実、セインを使わずにデイナへ挑むというのは無謀なのである。
カイがセインを使わないとなると、カイに残されているのは剣術のみである。以前ヴァリウスの持っていたカイの魔力がカイに混じって魔力を使えたこともあるが、あの魔力は消費して以来回復することはなかった。つまり本当に剣術のみなのである。さらに、以前セインを持った状態でデイナと戦闘しボロボロにやられている。にも関わらずセイン無しでデイナに挑むなど自殺行為であった。
すると、その時カイの手をイデアが強く握った。
カイ:
「ん、イデア、どうした?」
カイがイデアへ視線を向ける。するとイデアは悲しみに泣きそうな表情を浮かべていた。
イデア:
「……わたし、怪我はしないでねって言ったよ?」
カイ:
「イ、 イデア……」
イデアが目尻に涙を溜めながらカイへ視線を送る。
これもある意味カイの予想通りで、そして何よりも難解な問題であった。
カイ:
「あー、極力って言っただろ? なるべく怪我はしな―――」
イデア:
「どうして自分から怪我する風にするの?」
だんだんイデアが涙と共に怒りを露わにしていく。
イデア:
「どうしてわたしのセインを使わないの!?」
やがては、あのイデアがカイに叫んでいた。
こんなことは今まで無かったため、ミーアやエイラもイデアの剣幕に驚いている。
カイ:
「あー……」
流石のカイもこれには困った。実際カイもどうイデアを説得しようか悩んでいたのだが、解決策を見出せないまま話してしまったのである。
イデアが涙を手で何度も拭いながらカイを睨みつける。カイは何故だかイデアの目を直視出来ずにいた。
そんなカイへエイラが助け舟を出す。
エイラ:
「イデア様、きっとカイ様にも何か考えがあるんだと思いますよ。ね?」
カイ:
「あ、ああ、考えって程じゃないけど」
ミーア:
「いやー、お兄ちゃんのことだから万が一その状態でデイ兄に勝ったらカッコ良くね?みたいな事考えてるんじゃない?」
カイ:
「待て待て、おれが何も考えずにそんな無謀なことすると思うか?」
全員:
「……」
カイの問いに、その場にいた全員が無反応だった。
カイ:
「あれ!? 少なくとも助け舟を出してくれたエイラは否定してくれよ!」
エイラ:
「いえ、一概に否定できないなと……」
カイ:
「おまえらのおれの印象ってなに!?」
ミーア:
「かっこつけ?」
エイラ:
「おバカプリンス」
イデア:
「……無鉄砲」
ミーア、エイラ、そしてイデアの順番にカイを罵っていく。
カイ:
「(イデアもそう思ってたのかよ……)」
イデアの罵りが一番心に響いたカイであった。
エイラ:
「いいから答えてください。どうしてそんなことを思いついたんですか?」
エイラが催促する。
その催促を受けて、カイは少しずつ言葉を選び、心を整理しながら話し出した。
カイ:
「んーとな、今回のデイナはいつものデイナじゃないっていうのは皆分かるだろ?」
ミーア:
「まぁ、あの様子を見ればね」
カイ:
「えっと、で、イデアを賭けた戦いの時はさ、絶対に負けられないからそりゃセインだって使うけどさ、今回は別に負けたって何かを失うわけじゃないだろ?」
エイラ:
「確かに負けたからどうこうというのは今回ありませんが……」
カイ:
「だろ? なら別にセイン使わなくても良くないか?」
イデア:
「よくない!」
すぐさまカイの意見をイデアが否定する。その反応速度にカイは苦笑していた。
カイ:
「……そういやイデアって我を貫くタイプだよな。ダリルが国民に嘘ついた時も問答無用で訂正してたし」
イデア:
「今はそんなこと話してない!」
イデアは完全に御立腹だった。
イデア:
「わたしは、カイに怪我をしてほしくないの!」
カイ:
「それは分かってるけどさ、別に死ぬわけじゃないし……」
ミーア:
「でも、お兄ちゃんを恨んでそうなデイ兄ならあり得そうじゃない?」
だが、そのミーアの意見はエイラが否定した。
エイラ:
「いえ、今回に限ってそれはないでしょう」
先程会ったデイナの様子から、エイラはそう判断していた。
そうしてカイとイデアが見つめ合う。実際イデアは睨んでおり、カイは何度か視線を逸らしているが。
平行線に見えたため、そこでエイラは新しく質問することにした。
エイラ:
「確かに今回は負けてもいい決闘です。ですが、それとセインがどう繋がるのでしょうか。セインを使った上で負ける可能性だって十分にあり得るはずですし、イデア様のセインはカイ様の力だと言っても過言ではないはずです」
カイ:
「まぁ、そりゃそうかもしれないけど……」
エイラ:
「カイ様、あなたはこの戦いでセインを使いたくない理由でもあるのですか?」
エイラがそう尋ねた瞬間、イデアの目から再び涙が溢れだした。セインを使いたくない、という部分に思わず我慢できなかったのである。
イデアの涙を見た瞬間、慌ててカイはそれを否定した。
カイ:
「ち、違う! 別にセインを使いたくないとかじゃなくて! ……そりゃ、イデアのセインはおれの力と言ってもいいかもしれないけどさ、でも、やっぱりおれの力だって言い切るのは過言だと思うんだ。あれはイデアの力でもあるわけで、おれ一人の力じゃないからさ。セインはおれとイデア、二人の力だと思うんだよ」
そう弁解しながらカイがイデアの涙を拭ってやる。
そしてイデアの瞳をじっと見ながら、カイは頑張って心を言葉にしてみた。
カイ:
「……あのさ、今までデイナやライナスと戦った時ってずっと何かしがらみがあったじゃん。普通の決闘とかじゃなくてさ、こう何かを賭けてたりとか。デイナの時はイデア、ライナスの時はもっといろんな物だった。だから負けられなかったんだよ」
イデアが真っ直ぐにカイの目を見る。
カイ:
「でもさ、今回は何のしがらみもないんだよ。負けたっていいんだ。やっとお互いが素で向き合えるんだよ。つまりさ……」
そして、カイが照れくさそうに頬を掻きつつ、笑顔で答える。
カイ:
「やっと純粋な気持ちで兄弟喧嘩が出来る気がするんだ」
その瞬間、カイの感情がイデアへと流れ込んだ。照れくさいけれど嬉しい、そんな感情が。
その感情を知ってしまった以上、イデアは何も言えなかった。
だから、
イデア:
「……分かった」
カイ:
「っ、イデア……!」
そう返すしかイデアにはなかった。
ミーア:
「え、何が分かったの!?」
ミーアは分からずにあたふたしているが、エイラはカイを微笑んで見つめていた。エイラもカイの感情を理解したのである。
エイラ:
「……まったく、兄弟そろって感情表現が苦手ですか」
カイ:
「な、何の話だよ」
エイラ:
「いいえ、別になんでもありません」
ミーア:
「ねぇ、わたしにも教えてよ!」
未だに分かっていないミーアがイデアとエイラに懇願する。
エイラ:
「いいですよ、ねぇ、カイ様?」
カイ:
「っ、あ、あああっと! 用事思い出した!」
そう言ってカイは急いで立ち上がると、そそくさと扉へ向かった。
そして、
カイ:
「イデア、ありがとうな」
イデア:
「……うん」
そうやり取りしてから、カイはミーアの部屋から出て行った。
ミーアはわけもわからずいなくなったカイの方を見ていた。
ミーア:
「ほんと、どういうこと? 何で急にお兄ちゃんいなくなったの!?」
エイラ:
「照れくさいんですよ。自分の心情を言葉にされるのが。だから席を外したんです。」
そうしてエイラはイデアへと視線を向けた。
エイラ:
「イデア様、よく我慢なさりましたね」
イデア:
「……カイが、すごく嬉しそうでしたから」
涙を拭ってそう答えるイデアを、エイラは思わず抱きしめてしまった。
エイラ:
「男性っていうのは面倒くさい生き物ですからね。女性は男性に振り回されてしまうものです」
イデアは、エイラの温かさに思わず抱きしめ返してしまったのだった。
ミーア:
「ねぇ、結局お兄ちゃんはどうしてセインを使わないの?」
すっかり後にされていた質問を再度ミーアがすると、ようやくエイラが答えた。
エイラ:
「簡単ですよ。カイ様は御自身の力だけでデイナ様に挑みたいんです。先程カイ様が言っておられましたが、セインはカイ様の力でもあるのと同時にイデア様の力でもありますからね。ですからセインには頼りたくないのでしょう」
エイラはイデアのさらさらとした純白の髪を撫でながら言葉を続けた。
エイラ:
「カイ様は嬉しいんです。今まで仲の悪かった兄と純粋に向き合えるのが。やっと兄弟らしく向き合えるのが。デイナ様も今回のカイ様への決闘の覚悟は本物でした。それがカイ様は嬉しかったのです。だから御自身の力だけでデイナ様に挑みたがってるんです。そしてきっと認めさせたいんですよ。おまえの弟はこんなに凄いんだぞって」
ミーア:
「んー……」
ミーアは、よく分かったような分かんないような曖昧な反応をして、最後に頷いてみせた。
ミーア:
「男って面倒くさいね」
エイラ:
「そういうものなんですよ」
エイラが少し遠い目をしながらそう答える。
すると、エイラに抱きついていたイデアだったが、ふと顔を上に向けてエイラに尋ねた。
イデア:
「エイラさんってカイのことを随分分かっているみたいですが、カイとは何年来の付き合いなのですか?」
エイラ:
「そうですね……。カイ様とはもうかれこれ十二年ですかね」
そう言いながらエイラは今までのカイのことを振り返り、そして笑みを浮かべた。
エイラ:
「(十二年ですか……。カイ様は随分立派になりましたね。それでいて昔のゼノにだいぶ似てきました。馬鹿さ加減はカイ様の方が少し上でしょうか。ゼノもそれなりに頭ぶっ飛んでましたからね)」
昔を懐かしむエイラに、イデアは声をかけた。
イデア:
「わたし、もっとカイのことを知りたいです。ですのでエイラさん、昔のカイのことを教えてください!」
エイラ:
「いいですよ 」
エイラが優しくイデアへと微笑む。
すると、そんなエイラを見てミーアが一言、
エイラ:
「エイラ、まるでお母さんみたいだね」
その一言がいらなかった。
エイラ:
「ミーア様? それは歳がそれぐらいって話ですか?」
ミーア:
「ち、違うよ! 雰囲気の話で! 誰も歳の話なんてして―――」
エイラ:
「ミーア様も後でじっくりお話ししましょうね」
ミーア:
「そんなぁー!」
その後、イデア達は昔のカイの話やら、ミーアの嫌いな怖い話などで盛り上がったという。
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【著者プロフィール】アルファポリスより『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』を出版、オリコンライトノベル部門18位を記録。本作は2月に2巻刊行予定。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
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