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1『セイン』

1 第四章第三十三話「黒の中の赤」

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 シオルンは瞑っていた目をおそるおそる開けた。あれほどの数の矢が殺到したにもかかわらずシオルン自体はまるで傷を受けておらず痛みは全くなかった。
シオルン:
「(エイラさんのシールドが守ってくれたのでしょうか……)」
 そう思って目を開いたシオルン。その目にはあまりに耐え難い光景が映り込んできた。
シオルン:
「……エリス、さん?」
 シオルンの目の前にはエリスが立っていた。背中に夥しい数の矢を受けながら。何本かは背中から貫通して胸や腹から飛び出しており、エリスの周囲には血の池が今もなお形成されていた。
シオルン:
「っ、エリスさん!」
 慌ててシオルンがエリスへと駆け寄っていく。もうエイラの張ったシールドは壊れていた。シールドは先程の攻撃を受けきった時点で壊れたのだ。もし、エリスが身を挺して防いだ矢が一本でも少なければシオルンに突き刺さっていた事だろう。
シオルン:
「エリスさん! エリスさん!!」
 シオルンが何度もその名を呼ぶが返事はない。エリスは経ったまま一切の活動を停止していた。
カーレグ:
「不思議なものだ」
 カーレグが倒されたダークネスの山の上からそう呟く。その呟きはシオルンまで届いていた。
カーレグ:
「命を懸けてまで他者の命を守るとは。全くもって理解出来ん」
 その言葉にシオルンが目に涙を溜めながら強く睨んで叫んだ。
シオルン:
「あなたは! どうしてそう簡単に人の命を奪えるんですか!」
カーレグ:
「馬鹿な質問をするな。己の命が大事だからだ。俺の下に築かれている死体の山だっておまえ達に殺されたんだ。おまえ達だって死なないためにこいつらを殺したのだろう。殺しなど、所詮生き残るために他者を切り捨てるものだ」
 そう言ってカーレグはシオルンへと弓を引いた。
カーレグ:
「さて、せっかく生かされたおまえの命もこの通りすぐさま尽きるわけだ。そいつの行動はほんの数秒だけおまえの命を延ばしただけだ。そこに一体何の意味がある」
シオルン:
「っ、意味なら、あります!」
 シオルンの叫びにカーレグが少し興味を示す。
カーレグ:
「ほう、なんだ? 言ってみろ」
 シオルンは唇を強く噛みしめ、そして心から全力叫んでみせた。
シオルン:
「エリスさんの行動はわたしの心に確かに刻まれました! もしあの時わたしが死んでしまっていれば、わたしはエリスさんに身を挺して守られたことすらわからずに死んでしまっていました!」
 カーレグがため息をつく。
カーレグ:
「何を言うかと思えば、ただの戯れ言か」
 そしてカーレグがシオルンへと矢を放つ。今回は黒い穴も展開せず、真っ直ぐにシオルンへと放った。
 シオルンは死を運んでくる矢に恐怖を覚えながらも、必死にその恐怖を押し殺して叫んだ。
シオルン:
「エリスは! わたしにとって最高の夫です!」
 そして矢がシオルンへと迫る。シオルンは死を予感して直前で目を閉じた。そしてその直後だった。目を閉じたシオルンはまぶたの暗闇の奥に黄色い閃光が走るのを見た。
 やがて、シオルンはゆっくりと眼を開けた。一向に痛みが、死が訪れることが無かったのだ。
 そしてその視界の先には、愛する者の手が矢を掴み取っていた。
エリス:
「嬉しい……………こと、言って、くれるね………」
 掴んだ矢を折って、エリスはシオルンへと微笑んだ。そして直後にエリスが地面に崩れる。
シオルン:
「エリスっ……!」
 慌ててシオルンが受け止め、ゆっくりと地面に寝かせた。所謂膝枕状態でだ。
 エリスは苦笑した。
エリス:
「ハハッ、こんなところで、膝枕か……」
 横たわりながら、それでもまだ生きているエリスをカーレグは不思議そうに見ていた。
カーレグ:
「まさか死んでいなかったとはな。だが、その身体でよく動けたものだ」
エリス:
「雷で、無理やり動かしてやったんだよ……カハッ!」
 話し終えた直後にエリスが吐血する。
シオルン:
「エリス、喋らず安静にしていてくださいっ!」
エリス:
「へへっ、シオルンが俺のこと呼び捨てだ」
シオルン:
「いいから!」
 嬉しそうに笑った後、エリスがシオルンの言う通りにする。
 カーレグはまだ不思議そうな、むしろ呆れたような表情を浮かべていた。
カーレグ:
「敵の前で安静とはな。どうやら頭の方も限界のようだな」
 そう言ってカーレグが矢を番える。今度はエリス達の周囲に黒い穴を複数展開した。その数は今までの比ではない。
カーレグ:
「やはり無駄だったな。結局おまえ達はここで、俺に殺されて終わりだ」
 カーレグを一瞥して、エリスはシオルンの頬へ手を添えた。
エリス:
「悪いな、こんなところに、連れてきちまったせいで……。俺と、会わなきゃきっと―――」
 そのエリスの言葉をシオルンが笑顔で遮る。
シオルン:
「いいえ、後悔なんてちっともしてませんよ。一度だって覚えたこともありません。自分の意志ですし、それに私は、エリスと出会えて良かったと今も思っています!」
エリス:
「……おれとの結婚もか?」
シオルン:
「愚問です!」
 シオルンが腰に両手を当てて胸を張って答えた。それを見てエリスも顔面蒼白ながらも笑顔を浮かべた。
エリス:
「愚問か、そうか……」
 その言葉を噛み締めるようにエリスは目を閉じる。
 そんな二人をカーレグがゴミを見る目で見下していた。
カーレグ:
「死ね」
 そして放たれる矢は最初の黒い穴に入って全ての穴から飛び出していく。
 エリスとシオルンはその矢に目もくれず、ただただ目の前の愛しい相手のみを見つめていた。
エリス:
「シオルン、愛しているよ」
シオルン:
「私もです、愛しています」
 そして、二人の唇は重なり、直後に凄まじい本数の矢が二人を覆いつくした。
カーレグ:
「ふん、愛など下らん。邪魔なだけだ」
 そう吐き捨ててカーレグはこの場を去ろうとする。
 その時だった。雷鳴がその場一帯に轟いたのである。
カーレグ:
「なんだっ!?」
 慌ててカーレグが視線を彷徨わせると、その視線は一点で止まった。
カーレグ:
「馬鹿なっ!?」
 カーレグの視線の先、そこにはシオルンを抱きかかえてエリスが立っていたのだ。
エリス:
「ふー、どうやらどうにかなったみたいだな」
 そう語るエリスの恰好は普段と変わっていた。普段からラフな格好をしているエリスだったが、その服の上にボタンのない黄色いオーバーコートを着ており、下半身全体には黄色い甲冑を纏っていた。さらに二振りだったセインは大きな一本の槍となり右腕と一体化していた。
 すなわちその姿はベルセインである。
 その姿に驚きながらカーレグが叫ぶ。
カーレグ:
「あの時、おまえ達は確かに生きる事を諦めていたはずだ! なのに、何故まだ抗って生きている!?」
 その問いにエリスは頬を掻きながら答えた。
エリス:
「確かにあの時はもう駄目だと思ってたけどな。でも、キスしたらやっぱり諦められなかった。キスってあんなに気持ちいいものだったんだな。おかげでってわけじゃないけど、俺はまだこの先ずっと生きてシオルンとキスしたいって思えた。諦められなくなったんだよ」
カーレグ:
「その程度の理由で―――」
エリス:
「俺にとっちゃ大切な理由だ」
 そう言ってエリスは抱きかかえられているシオルンへ声をかけた。
エリス:
「シオルン、このまま抱えた状態で戦うけど大丈夫か?」
 シオルンは笑顔で頷いた。
シオルン:
「はい、むしろこの方が安心します……」
 胸に顔を埋めるシオルンの頭を撫でようとするエリスだったが、右腕は槍と化し、左腕でシオルンを抱きかかえているため悶々としていた。
 その悶々とした気持ちをカーレグへぶつけるべく、エリスはセインをカーレグへ突きつけた。
エリス:
「よく聞け! おまえは俺達の結婚生活最初の障害だ! 俺達はそれを乗り越えて愛を育むんだ! だから、おまえという障害を俺はぶっ壊す!」
 そしてエリスが全身に雷を纏う。シオルンはその雷に温もりを感じていた。
シオルン:
「(雷なのに、温かくて気持ちがいい……)」
 次の瞬間、カーレグの目の前にエリスが一瞬で移動した。その速度は今までとは比にならないほどだ。
カーレグ:
「くっ!」
 カーレグが弓を引くが、エリスがセインをカーレグへ突き出す方が断然速かった。
エリス:
「おらよっ!」
カーレグ:
「ちっ!」
 カーレグが後方上空へ跳躍して間一髪のところでエリスの後方へと距離を取って転移する。
エリスはすぐさま振り向いてセインを突き出しながら叫んだ。
エリス:
「《エレクトリックロード!》」
 セインから一直線にカーレグへと雷が走る。
 カーレグはそれを横に跳んで回避したが、次の瞬間目を疑った。
 避けた雷の中からエリスがカーレグへと飛び出してきたのだ。
カーレグ:
「なにっ!?」
エリス:
「《雷鳴!》」
 エリスのセインから雷のレーザーが飛び出す。カーレグはそのレーザーに飲み込まれ、壁を破壊しながら隣の部屋へと吹き飛んだ。
カーレグ:
「くっ……!」
 それでも体の形をまだ保っているカーレグはどうにかよろけながらも立ち上がる。
 そのカーレグの目の前にエリスが一瞬で移動してきた。
エリス:
「いいか、おまえはシオルンを狙った。それが敗因だ。素直に俺と戦ってたら……まぁ俺が勝ってたな。つまり最初からおまえに勝ち目は無かったってことだ。諦めるんだな」
 そしてエリスはかなりの量の雷をセインに纏わせ、一気にカーレグへと突き出した。
カーレグ:
「っ、まだだ!」
 カーレグはそのセインを前に両手を突き出し、かなり大きな黒い穴を開けた。それはエリスの周囲にも複数開けられている。
カーレグ:
「全て跳ね返して―――」
エリス:
「何言ってんだ、おまえはもう俺の目の前にいるぞ」
カーレグ:
「っ!?」
 エリスの言葉にカーレグは目を疑った。いつの間にか黒い穴よりも前に、つまりエリスの目の前にいたのだ。エリスが磁力を操作してそうさせたのだが、その移動は一瞬の出来事だった。
エリス:
「終わりだ……《雷絶槍!》」
 そしてエリスがカーレグをセインで突き刺した。直後に凄まじい電撃が辺りに飛び散っていく。その電撃はその部屋中では留まらず一階全体まで飛散していった。
窓ガラスが割れ、壁が壊れ、そして支柱が壊れる。一階はほとんどの壁が壊れ、まるで一つの大きな部屋だったかのように繋がった。
 セインに刺さっていたカーレグはというと、既に消し炭と化しており、ボロボロと崩れていた。
エリス:
「愛は下らなくねえよ。愛は力をくれるんだ」
 そう言った瞬間、エリスは突如膝から崩れ落ちた。無理もない、致命傷をだいぶ喰らっている。
 エリスはどうにかシオルンを立たせてから床に倒れ込んだ。
エリス:
「ちょっと、休憩……」
 そう言ってエリスが目を閉じる。ベルセインは解除され、セインがシオルンの中へと戻っていく。
シオルン:
「エリス!」
 シオルンが何度も名前を呼ぶが反応はない。今度こそエリスは気を失っていた。
 そして突如、シオルンを揺れが襲った。それもそのはず、一階は全壊したのだ。壁も支柱もいくつも壊れており、今はいくつかの残った支柱でどうにか保っているような状態である。だが、いずれ一階が倒壊するのは明白だった。
シオルン:
「このままじゃ、下敷きになっちゃう! 早くここから出ないと!」
 シオルンは気を失ったエリスをどうにか背中に背負うと、必死に足を動かして城の外へと向かった。
………………………………………………………………………………
 エイラは倒れていた。その目の前にはエイラを見下して下卑た笑みを浮かべるダンドオがいる。
ダンドオ:
「おいおい、もう終わりかー? もっと楽しませてくれよー、メイドだろ?」
 ダンドオが手に持つ杖、つまりセインをカンカンと地面につきながらエイラに話しかける。
エイラ:
「……メイドですからね、まだ楽しませて差し上げますよ」
 エイラはどうにか立ち上がると唱えた。
エイラ:
「《エターナルプロミネンス!》」
 青色の炎がダンドオへと放たれる。だが、ダンドオは余裕の表情のままで笑みを崩さない。そして、持っている杖の上部についている虹色に輝く宝石を青色の炎へと向けた。
 すると、青色の炎は吸い込まれるように宝石に吸収された。
ダンドオ:
「何度やったって無駄だー。返してやるー!」
 そしてダンドオが杖をエイラに向けると、エイラに向かって先程エイラの放った青色の炎が飛び出した。
エイラ:
「《トータスシールド!》」
 いくつもの小さな六角形が集まって巨大な六角形のシールドが出来上がる。
ダンドオ:
「無駄だぞー」
 しかし、ダンドオがシールドへ杖を向けると、やはりそのシールドは杖へと吸収され、青色の炎を防ぐものは無くなった。
エイラ:
「っ!」
 エイラが後ろに跳ぶ。直後、エイラの立っていた場所に青色の炎が炸裂した。だが、そこまでの火力では無かったらしく、少し焦げ跡を残してすぐに消えた。エイラは本気で魔法を放っていなかったのである。
ダンドオ:
「おいー、もっと本気で撃って来いよー!」
エイラ:
「確認のために撃ったものなのでご了承ください。すぐ本気で行きますので」
 そう言いながらもエイラは内心焦っていた。
エイラ:
「(あのセインは厄介ですね。こちらの魔法を全て吸収してそのまま返してくる……。てっきり放出している間は吸収できないと思っていたのですが、そういうわけでもないようですし。全く、相性最悪じゃないですか。私とミーア様以外なら余裕で勝てたのでは?)」
 そう思ったエイラだったが、その時牢の中にいた女の話を思い出した。
女性:
「今まで何人か忍び込んで助けに来てくれた人達がいたわ。でもね、全部そいつに返り討ちに遭うの!」
エイラ:
「(いいえ、違いますね。助けに来てくれるということはフィールスの方でしょうし、フィールスの方なら魔法は使えません。つまりあのセインはフィールスの方に対して真価を発揮しないはず。それなのに返り討ちに遭っている。ということは……)」
 エイラは予想を確信にするため、ダンドオへと尋ねた。
エイラ:
「あなたの本気とはそのセインではありませんね」
ダンドオ:
「お、よく気付いたなー!」
 ダンドオが嬉しそうに笑う。
ダンドオ:
「その通りー! 僕はこれでもフットワークが軽くて体術が自慢なんだー!」
 シャドウボクシングをダンドオがエイラへと見せつける。その拳の速度は確かに異常なほど速かった。
 それを見ながらエイラは再び思考を巡らす。
エイラ:
「(どおりでこの狭い通路の守りを任されているわけですね。他の者なら転移しづらいこの通路は不利ですから。でも、彼には体術がある。転移せずともということですか。……にしたって体術ですか……)」
 エイラはうーんと悩んでいた。その姿にダンドオはにやにやと笑う。
ダンドオ:
「何だよー、悩んでないでさー、もう魔法は効かないんだから体術でおいでよー! 僕が優しく相手してあげるからさー!」
 ダンドオの言葉をエイラは無視する。
エイラの悩みは、ダンドオの体術をどう攻略しようか、というものではないのだ。むしろ攻略する方法は既に考えついている。
エイラ:
「(こうなれはアレを……。ですが……)」
 問題はそれを本当に使用するかどうかだった。
 悩みに悩んだエイラだったが、やがてついに決断した。
エイラ:
「いいえ、本当に一瞬なら大丈夫でしょう」
ダンドオ:
「んー? やっとやる気になったかー?」
 ダンドオがエイラへ向けて拳を構える。
エイラ:
「はい、決心がつきました。始めましょうか」
 そう言うと、エイラは構えることなく目を瞑り、そしてそのまま動かなくなった。
 それをみてダンドオは一瞬驚いた表情をするが、すぐに下卑た笑みを浮かべた。
ダンドオ:
「何だよー、いたぶられる決心かー。なら、遠慮なくー!」
 そして、ダンドオが凄まじい速さで棒立ちのエイラへと迫り、そのままエイラの顔めがけて正拳突きを繰り出した。
 その正拳突きがエイラに当たる直前、エイラが目を見開いた。
 ダンドオはそのエイラの目を見て驚愕した。
 その目は……本来白くあるべき部分が黒く、そして瞳孔は赤く縦に細長かったのだ。
 エイラはその状態でニヤリと冷笑を浮かべる。その笑みは、まるで悪魔の微笑みだった。
 そしてその冷笑が、ダンドオの最期に見たものとなった。
 気づけばエイラはダンドオの背後に背を向けて立っており、ダンドオの心臓部にはいつの間に開けられたのか大きな穴が開いていた。
エイラ:
「反応が出来なければ、あなたのセインを意味ないですね」
 そしてダンドオの巨体がドシンと音を立てて倒れる。
 ダンドオの死を確認した後、エイラは牢屋へと近づいた。
エイラ:
「さて、彼は死んだことですし牢を壊しますね」
 そう言ってエイラが牢の格子をすべて破壊する。だが、中から女性達が出てくることはなかった。
女性:
「あ、あなた、何者なの!?」
 エイラにかけられた声には恐怖が宿っており震えていた。
すると、牢屋の中にいた老婆がエイラへと話しかけた。
老婆:
「お主、さっきの目は、まさか……!」
 老婆の他にも驚愕な目でエイラを見る者が何人もいた。まるで化け物を見るような目つきでだ。そのほとんどが三十代前後以上の女性だった。
 エイラの『正体』を理解した者達はすべからく絶望を目に宿していた。
 エイラは周りを見渡しながら唇に一本指を立てて微笑みかけた。その目は先程とは違っていつも通りのものとなっている。
エイラ:
「駄目ですよ、言ったら」
 そして、怯えている全員にエイラは微笑んで告げた。
エイラ:
「何者なのかと言われればそうですね。強いて言うのであれば、今はあなた達の味方でしょうか」
 そう言ってエイラは通路の最奥へと向かう。そこには扉があるのだ。
エイラ:
「予想ではこの先にこの国の王様と王妃様がいると思うんですが」
 牢から女性達はまだ出てこない。エイラが恐ろしいというのもあるのだが、解放されたとはいえまだ拷問などによって精神状態が不安定なのだ。
 エイラは一人細長い通路を歩き、そして最奥にある扉へと手をかけた。 
………………………………………………………………………………
 ゼノは天地谷でジェガロに頼まれた留守番をしていた。
 ゼノがいるのは天地谷の二つある山の内、カイ達が戦ったクレーターのある山とは反対の山頂だった。
 そこでゼノはあるものを見上げている。
ゼノ:
「懐かしいな、この門も」
 ゼノの目の前には巨大な両開きの扉が二つそびえ立っていた。何やら片方には太陽の、もう片方には月の紋様が描かれており、それを囲むように魔法の術式が書かれていた。
ゼノ:
「まぁ、この門を開ける馬鹿はあっちにもいないだろ」
 ゼノが苦笑しながらその扉を見つめていると、突如感じたことのある魔力をゼノは感知した。慌ててゼノはその方向へと視線を向ける。その方向はフィールス王国のある方だった。
ゼノ:
「……エイラ、使っちまったか」
 ゼノは厳しい表情で月が描かれた扉へと視線を戻した。
ゼノ:
「あっちに伝わってなきゃいいが……」
 一抹の不安を覚えながら、ゼノはその月の扉を見続けていた。
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