永遠の伴侶(改定前)

白藤桜空

文字の大きさ
77 / 91
蛇の生殺しは人を噛む

77

しおりを挟む
 半月の昇る星空の下。星明りしかない草原の上を、老女が息せき切って走っている。
 彼女は大事そうに包袱パオフー*を抱えて、とある場所に向かっていく。と、黒塗りの馬車が忽然と現れ、同時に灯った松明の明かりが老女の姿を映し出す。
 老女は咄嗟に手をかざし、眩しさに目をつむる。すると馬車の戸が開き、中から白い手がまっすぐに伸びてくる。
静端ジングウェン。こっちよ」
「は、はい。今そちらに」
 静端はその小さな手を取って馬車に乗り込み、中にいた自分の主人に対面する。
美琳メイリン様。お久し振りでございます」
 その言葉に美琳は妖艶に微笑む。
「ええ。無事に会えて良かったわ。誰にもバレずに出てこられたかしら?」
「はい。痕跡は残しておりません」
「流石ね」
 満足気に頷いた美琳は、静端の手にしている包袱に目をやる。
「それで? 荷物はそれだけ?」
「あ……そうなのですが……」
 美琳の問いかけに静端は言い淀む。しかしすぐに包袱を広げ、その中から丁寧に畳まれた布を取り出す。
「こちら、文礼ウェンリィ様の遺髪になります。処刑される前にご本人からお預かり致しました」
 静端はうやうやしく差し出し、美琳は無表情で受け取る。
「……ここにこれがあるってことは成功したってことね」
「はい……立派な最後でございました」
「ふぅん」
 美琳は興味無さげに言うと、妖しい光を宿した目で静端を見つめる。
「で? 文生ウェンシェンは、どういう反応だった? あいつを殺されて、自分の息子を処刑して。落ち込んでいた?」
「それは……」
 その必死な様子に、静端は言葉に詰まる。それだけで美琳は察する。
「そう。何も言っていなかったのね」
 小さく呟いた美琳。だがすぐに晴れやかな顔になる。
「ふふ。あんな女ごときじゃ乱されないわよね。そうよね、あんな女一人いなくたって構わないものね」
 美琳はほくそ笑むと、窓の外に手を出す。それを合図に馬車が大きく傾いて動き始める。
 突然のことに静端は体勢が崩れる。と、すかさず美琳がそれを支える。
「大丈夫?」
 小首を傾げて聞くその姿は、最後に見た少年の姿を彷彿とさせた。
「……ッ美琳様は、文礼様が処刑されて何も思われなかったのですか? 密会する度に嬉しそうにお話してくださっていたじゃないですか……!」
「え? ああ、だって文生に似ていて可愛かったからね」
「ならば「でも」
 静端の言葉を遮ると、美琳は今までで一番清らかな笑みを浮かべる。
「文生じゃなければ意味がないじゃない?」
「ッ!」
 その純粋無垢な言葉に、静端は何も言えなくなる。美琳は更に言葉を重ねる。
「それに、他の女の血が混ざっている子なんて……」
 ぐしゃり、と美琳は手にしていた包み布を握る。そして静端に突き返す。
「これ、私はいらないわ。貴女の好きなようにして」
「……承知、致しました」
 そう言うと静端は懐に仕舞って、流れ始めた景色に目を向けるのであった。









 *包袱パオフー…風呂敷に近い物。衣服や道具などを包んで持ち運ぶ布。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

処理中です...