78 / 91
猫の額にある物を鼠が窺う
78
しおりを挟む
夕焼け色の薄雲が風に流されていく。真っ赤な太陽は山の後ろに頭を隠し、暗い空を連れてくる。
宮殿からも光が失せていき、人々は暗闇に包まれ始めていくのであった。
政務室で文机に向かっていた文生も木簡が読みづらくなったのに気づき、後ろに控えていた男に松明を持ってこさせる。そのわずかな時間だけ筆を置いて、目頭を揉んで休息を取る。そして松明が灯されると、再び筆を取る。が。
「失礼致します」
不意に男の声が聞こえ、文生は出入口を見やる。しかしそこには誰もいない。
文生はため息を吐くと、再び木簡に目を向けて、そのまま話し始める。
「何か収穫はあったか」
「はい。王の御推測通り、一部の卿たちが流出させている模様です」
「そうか。主犯は見つけられそうか?」
「それはもうしばらく時間が掛かりそうです」
「分かった。だが対応が遅くなると被害が広がる。出来るだけ早く調べよ」
「はッ!」
その言葉を最後に、政務室の壁際から一つの影が消える。
文生はもう一度大きく息を吐き出すと、松明係の男に声を掛ける。
「報告があるならば事前に言ってもらおうか。君保。来客がないとは限らんのだからな」
「申し訳ございません」
「まあ良い。思ったより情報を掴むのが早かったからな。今回は不問に付すと浩源にも伝えておくが良い」
「承知致しました」
君保は足を引きずるようにしながら軽く膝を折る。
それを文生が見ることはない。手を動かしながら文生は小さく零す。
「しかし、ここ一年でこれ程にまでのさばるとはな。あの後……仁顺も後を追って死んだ途端、こんなことをしでかされるとは、我もまだまだ舐められたものだ」
「……」
「だが浩源が間諜としてここまで働いてくれるとはな……殺すのには惜しい男とは思っていたが、期待以上だ」
「その言葉、浩源も喜ぶと思います」
「お主にも期待しておるぞ? 浩源をよく補佐するが良い」
「勿体なき御言葉でございます。精一杯務めさせて頂きます」
「うむ」
それを最後に文生が口を開くことはなかった。
宮殿からも光が失せていき、人々は暗闇に包まれ始めていくのであった。
政務室で文机に向かっていた文生も木簡が読みづらくなったのに気づき、後ろに控えていた男に松明を持ってこさせる。そのわずかな時間だけ筆を置いて、目頭を揉んで休息を取る。そして松明が灯されると、再び筆を取る。が。
「失礼致します」
不意に男の声が聞こえ、文生は出入口を見やる。しかしそこには誰もいない。
文生はため息を吐くと、再び木簡に目を向けて、そのまま話し始める。
「何か収穫はあったか」
「はい。王の御推測通り、一部の卿たちが流出させている模様です」
「そうか。主犯は見つけられそうか?」
「それはもうしばらく時間が掛かりそうです」
「分かった。だが対応が遅くなると被害が広がる。出来るだけ早く調べよ」
「はッ!」
その言葉を最後に、政務室の壁際から一つの影が消える。
文生はもう一度大きく息を吐き出すと、松明係の男に声を掛ける。
「報告があるならば事前に言ってもらおうか。君保。来客がないとは限らんのだからな」
「申し訳ございません」
「まあ良い。思ったより情報を掴むのが早かったからな。今回は不問に付すと浩源にも伝えておくが良い」
「承知致しました」
君保は足を引きずるようにしながら軽く膝を折る。
それを文生が見ることはない。手を動かしながら文生は小さく零す。
「しかし、ここ一年でこれ程にまでのさばるとはな。あの後……仁顺も後を追って死んだ途端、こんなことをしでかされるとは、我もまだまだ舐められたものだ」
「……」
「だが浩源が間諜としてここまで働いてくれるとはな……殺すのには惜しい男とは思っていたが、期待以上だ」
「その言葉、浩源も喜ぶと思います」
「お主にも期待しておるぞ? 浩源をよく補佐するが良い」
「勿体なき御言葉でございます。精一杯務めさせて頂きます」
「うむ」
それを最後に文生が口を開くことはなかった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
10
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる