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第2章 三人の婚約者
その9 深窓のティアラ・ルーストハイム
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「図書室に入らせてもらうよ」
「え? あ、えっと、あの、もちろん構いませんけれど、あの、何か?」
図書室は、どこの邸でも、パーティーなどで解放される「準公室」の扱いだ。まして、オレは子どもの頃から何度も入っている場所だけに、遠慮無く入れるわけだ。
「あの、サトシ様?」
狼狽えたあまり、まさかの名前呼び。ま、普段はティアラと、そう呼んでいるんだろう。ちょっと微笑ましくなってしまう。
クスッとオレが笑ったせいで、ますますワケのわからなくなっているクロエは、狼狽えながら追ってきた。
『うん。このバルコニーは、ティアラの寝室と同じ側になるんだよね』
ガラス戸を開けてバルコニーに出てみると、うん。ティアラの部屋のベランダまで二十五メートルほどだ。
クッと、クロエに顔を寄せると、ポッと真っ赤になってる。うん。これ、一度やってみたかったんだよね。イケメンキャラだけに許される「近いです」状態で、小さなアゴを二本指で支えるように触れながら、ウインク。
うん、これ、ホントのオレがやったら、キモオッサンのセクハラだよな? 警察もんか? と思いつつ、それをおくびにも出さずに、キスでも迫るような距離で囁いた。
「ティアラの部屋の前で待ってて? ナイショだよ?」
「え?」
クリクリした目をパチパチさせているクロエをおいて振り向いた。もちろん、手には「ケーキの箱」だ。
「あの、サトシ様! 一体何を。あっ!」
肉体強化の超人化スキルがあっても、さすがに、ジャンプだけでは無理。風魔法を使って、途中の壁際二カ所に「空気の足場」を作り上げておく。
ピンポイントで真上に向かって空気の固まりを噴き上げれば、バネのような感触の足場となるってわけ。ちなみに、これは初級の風魔法を応用しただけ。魔力の強さではなく、コントロールの問題だ。強い魔力も、特別な魔法もヤバいけど、初級魔法を「繊細に」コントロールしただけなら、何の問題も無い。高位貴族は、強い魔力を持っているっていうのが基本設定だからね。
トン、トン、ポンッと。
手にした箱を少しも揺らさない。ティアラの部屋のバルコニーへと、予定通り、軽やかに到着っと。
振り返れば、クロエは、黒い瞳を白目にして、アワアワしてる。あんな所は、元世界の普通の女子高生と何にも変わらない感じだ。
そこに軽く手を振ってから、部屋の様子を窺ったんだ。だって、乙女の部屋を「覗く」形になる以上、万が一にも「ラッキースケベ」を起こせないからね。ま、マリアが許可している以上、婚約者であるオレが何かを「見ちゃって」も、問題はないって言えばないんだけどさ。
『え?』
すみません、イケナイもんを見ちゃいました。
だって、一応、机に向かっている気配を確認してから、覗いたんだよ? 机に突っ伏しているのかと思ったら、なんと、バクバクとクッキーを両手に持って食っていやがった。
深窓の令嬢キャラっていうか、クール系ツンデレ・ヒロインキャラだと思ってたのに、本当は、ドジ系・食いしんぼキャラだったのか?
いやぁ、食う、食う、食う、食う。
あれだけ食べて、なんであんなに細い身体なんだよってくらい、むさぼり食ってる。しかも、あの幸せそうな顔。うん。本当に、幸せそうだ。
『なんだよ、これ。ま、元気なら、かえって話は早いか』
しょせん、こんなもんだよ。年頃の男子なら、これで幻滅するところかもよ。けれども、オレの中の人は、しょせん、オッサンである。女の子に一切の幻想を持っていない分だけ『これなら楽だろ。うん、食べられる分だけ健康的さ』って、むしろ好ましく思えるわけだ。
オレは、最高の笑顔を浮かべてしまった。しかも、きっと、心から。
コン
さすがに窓ガラスを叩かれれば、こちらを見て当然。
目が合った。
オレはニッコリ、ティアラはギックリ。
「私の愛しい人。入れてくれないか?」
ティアラのパッチリした瞳が、これ以上には無いほど、見開かれている顔を見ながら、オレは心から笑っていたんだと思う。
「え? あ、えっと、あの、もちろん構いませんけれど、あの、何か?」
図書室は、どこの邸でも、パーティーなどで解放される「準公室」の扱いだ。まして、オレは子どもの頃から何度も入っている場所だけに、遠慮無く入れるわけだ。
「あの、サトシ様?」
狼狽えたあまり、まさかの名前呼び。ま、普段はティアラと、そう呼んでいるんだろう。ちょっと微笑ましくなってしまう。
クスッとオレが笑ったせいで、ますますワケのわからなくなっているクロエは、狼狽えながら追ってきた。
『うん。このバルコニーは、ティアラの寝室と同じ側になるんだよね』
ガラス戸を開けてバルコニーに出てみると、うん。ティアラの部屋のベランダまで二十五メートルほどだ。
クッと、クロエに顔を寄せると、ポッと真っ赤になってる。うん。これ、一度やってみたかったんだよね。イケメンキャラだけに許される「近いです」状態で、小さなアゴを二本指で支えるように触れながら、ウインク。
うん、これ、ホントのオレがやったら、キモオッサンのセクハラだよな? 警察もんか? と思いつつ、それをおくびにも出さずに、キスでも迫るような距離で囁いた。
「ティアラの部屋の前で待ってて? ナイショだよ?」
「え?」
クリクリした目をパチパチさせているクロエをおいて振り向いた。もちろん、手には「ケーキの箱」だ。
「あの、サトシ様! 一体何を。あっ!」
肉体強化の超人化スキルがあっても、さすがに、ジャンプだけでは無理。風魔法を使って、途中の壁際二カ所に「空気の足場」を作り上げておく。
ピンポイントで真上に向かって空気の固まりを噴き上げれば、バネのような感触の足場となるってわけ。ちなみに、これは初級の風魔法を応用しただけ。魔力の強さではなく、コントロールの問題だ。強い魔力も、特別な魔法もヤバいけど、初級魔法を「繊細に」コントロールしただけなら、何の問題も無い。高位貴族は、強い魔力を持っているっていうのが基本設定だからね。
トン、トン、ポンッと。
手にした箱を少しも揺らさない。ティアラの部屋のバルコニーへと、予定通り、軽やかに到着っと。
振り返れば、クロエは、黒い瞳を白目にして、アワアワしてる。あんな所は、元世界の普通の女子高生と何にも変わらない感じだ。
そこに軽く手を振ってから、部屋の様子を窺ったんだ。だって、乙女の部屋を「覗く」形になる以上、万が一にも「ラッキースケベ」を起こせないからね。ま、マリアが許可している以上、婚約者であるオレが何かを「見ちゃって」も、問題はないって言えばないんだけどさ。
『え?』
すみません、イケナイもんを見ちゃいました。
だって、一応、机に向かっている気配を確認してから、覗いたんだよ? 机に突っ伏しているのかと思ったら、なんと、バクバクとクッキーを両手に持って食っていやがった。
深窓の令嬢キャラっていうか、クール系ツンデレ・ヒロインキャラだと思ってたのに、本当は、ドジ系・食いしんぼキャラだったのか?
いやぁ、食う、食う、食う、食う。
あれだけ食べて、なんであんなに細い身体なんだよってくらい、むさぼり食ってる。しかも、あの幸せそうな顔。うん。本当に、幸せそうだ。
『なんだよ、これ。ま、元気なら、かえって話は早いか』
しょせん、こんなもんだよ。年頃の男子なら、これで幻滅するところかもよ。けれども、オレの中の人は、しょせん、オッサンである。女の子に一切の幻想を持っていない分だけ『これなら楽だろ。うん、食べられる分だけ健康的さ』って、むしろ好ましく思えるわけだ。
オレは、最高の笑顔を浮かべてしまった。しかも、きっと、心から。
コン
さすがに窓ガラスを叩かれれば、こちらを見て当然。
目が合った。
オレはニッコリ、ティアラはギックリ。
「私の愛しい人。入れてくれないか?」
ティアラのパッチリした瞳が、これ以上には無いほど、見開かれている顔を見ながら、オレは心から笑っていたんだと思う。
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