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第2章 三人の婚約者
その4 フィアンセは、ご機嫌斜め
しおりを挟む「ティアラ嬢のご機嫌について、何かわかったのか?」
許嫁である。
それも生まれる前からの。
ティアラ嬢は、煌めくような美貌の持ち主だが、ヤキモチ焼きなのである。レディとしての身のこなしも、ダンスも素晴らしい。おまけに、頭も良くて、よく教育されているから「貴族には愛人や側室が必要だ」ってわかってはいるんだよ?
なにしろ、自分の父親にも愛人、側室あわせて八人。あれ? 九人だっけ? えっと、ティアラの兄弟だけで十人ってのは確かだ。
ぜ~んぶ、男だけ。
まあ、ルーストハイム家は、南の最前線でカッテッサ連合王国を守っていて、公爵は南公と通称されている。そんなルーストハイム家にとっては、戦場で指揮を執れる息子達が多いのは、とってもありがたいことなんだ。だけど、貴族って、家と家との結びつきも大事。女の子がどうしても欲しかったらしい。
で、最後に側室を抱えたら、その人から、ようやく生まれてきた女の子がティアラだからね。
兄たちからも、母親からも、正妻、愛人、側室達からも、みんなに愛されて育ったティアラは、愛人や側室に悪い印象はない。でも、許嫁であるオレのことになると別らしい。
オレが誰かと仲良くすると、すぐにむくれてしまうんだ。かといって、頭では「機嫌を悪くするなんて許嫁としては悪いことだ」って知っているティアラは、いっつも懸命に我慢しようとして……
できてない。
ま、それが可愛いのだけれども。
そのティアラが、この間の舞踏会から、おかしいんだ。おそらく、オレにまつわる女のことだと思うのだけれど、身に覚えがない。だから、こういう時は「執事ネットワーク」が役に立つ。
ほら、どこの貴族家で働いていても、主人の恋バナは、家来のカッコウの噂話だろ? それに、いろいろと実利というか、下々の仕事に結びついちゃうから、執事同士で情報をやりとりすることは多いんだ。
既に婚約が成立している以上、公爵家で働いている者と、ウチの連中とで、ティアラ嬢の不機嫌については、利害が一致することがほとんどなので、何かわかるとしたら、ルパッソが頼りになるんだ。と言っても、別にオレの知恵ではない。どこの貴族家でも、息子娘の色恋沙汰は、執事が頼りになるのは常識中の常識。逆を言えば、娘を何とかしたければ、優秀な執事に頼めば、何とかなるってことでもある。
まして、ルパッソは伝説の執事ルポッソの息子で、本人も伝説クラスになりつつある。オレが相談するには、まさに当を得てるってわけ。
だがルパッソの顔が曇る。
「申し訳ございません。まだ判明しておりませんが、ただ一つわかっておりますのは、先日の舞踏会で退室される少し前から、顔色が悪くなったという情報だけでございました」
「ふむ」
オレは紅茶をゆっくりと飲みながら、ルパッソの説明を待った。この辺りは呼吸である。ちなみに、こうして積極的に喋ってくれるのは、お茶の時間だけなのだ。
これは執事にとって絶対的なルール。常に主の影の存在であることが求められる以上、「影」がペラペラ喋ってはならないってことらしい。ただし、唯一の例外は「主が、ノンビリとお茶を飲んでいる時の気楽な話し相手」の役目なのだ。
なにしろ、ルパッソは、オレに対して本当に愛情を持って仕えてくれている。彼の意見は本当に重要だった。
「途中で、ご気分が悪くなられ、いったん控え室に下がられました。その際、公爵家の者達に少々動きは見られましたが、主人のご気分が優れないとすれば、それは不思議無く。現在は、邸内でも、部屋に引きこもっておいでで、食事もほとんど召し上がらないそうです」
「そうか。今日にでも見舞いに行きたいのだが、あれを口実にしたい。枕の下だ」
オレはインベントリスキル発動して、枕の下に「箱」を出現させておいた。
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