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1 痴漢列車①
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学校帰りに飛び込んだ地下鉄は、思いのほか、混んでいた。
立錐の余地もないとはこのことで、冷房は入っているものの、車内は乗客の汗の匂いでむんむんだ。
ドア側に立ち、身を縮こまらせた。
窓に映るのは、冴えない若者の顔。
僕の名は矢風滋(やかぜしげる)。
K大学の2年生だ。
夏休みに入り、2週間ほど経っている。
が、長期休暇に入ったというのに、僕の気分は最悪だった。
先週のことである。
故郷で父の営む町工場が倒産した。
自転車操業が限界に達し、不渡りを出したのだという。
当然、今月いっぱいで、僕への仕送りも打ち切られることになった。
「悪いけどね、だから、仕送りはもう無理。大学出たかったら、アルバイトでもしなさい」
電話の向こうで、ため息混じりに母は言ったものだ。
「いやならこっちに帰って就職してもいいんだよ」
それだけは御免こうむりたかった。
さびれた工場地帯。
あの町を出たい一心で好きでもない受験勉強に打ち込み、大学に入ったのだ。
こうなったら、働くしかない。
それも、なるべく条件のいいバイトを探して。
幸い、今はSNSがある。
アルバイト募集のサイトなんて、いくらでも見つかった。
ただ、ブラックバイトにだけは気をつけなければ。
例えば1日で数万円の収入とか、そういうのは危なすぎる。
熟慮に熟慮を重ねたうえ、見つけたのが、とある食品会社の工場勤務だった。
内容は軽作業とあるし、時給も悪くない。
どちらかというと内向的な性格の僕は客商売には不向きだろうから、工場で働くことに抵抗はない。
聞いたことのある社名だし、何より地に足の着いた固そうな仕事であることに好感が持てた。
面接、頑張らないとな。
高鳴る胸を押さえてそう心に決めた時である。
突然臀部に違和感を覚えたのはー。
立錐の余地もないとはこのことで、冷房は入っているものの、車内は乗客の汗の匂いでむんむんだ。
ドア側に立ち、身を縮こまらせた。
窓に映るのは、冴えない若者の顔。
僕の名は矢風滋(やかぜしげる)。
K大学の2年生だ。
夏休みに入り、2週間ほど経っている。
が、長期休暇に入ったというのに、僕の気分は最悪だった。
先週のことである。
故郷で父の営む町工場が倒産した。
自転車操業が限界に達し、不渡りを出したのだという。
当然、今月いっぱいで、僕への仕送りも打ち切られることになった。
「悪いけどね、だから、仕送りはもう無理。大学出たかったら、アルバイトでもしなさい」
電話の向こうで、ため息混じりに母は言ったものだ。
「いやならこっちに帰って就職してもいいんだよ」
それだけは御免こうむりたかった。
さびれた工場地帯。
あの町を出たい一心で好きでもない受験勉強に打ち込み、大学に入ったのだ。
こうなったら、働くしかない。
それも、なるべく条件のいいバイトを探して。
幸い、今はSNSがある。
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ただ、ブラックバイトにだけは気をつけなければ。
例えば1日で数万円の収入とか、そういうのは危なすぎる。
熟慮に熟慮を重ねたうえ、見つけたのが、とある食品会社の工場勤務だった。
内容は軽作業とあるし、時給も悪くない。
どちらかというと内向的な性格の僕は客商売には不向きだろうから、工場で働くことに抵抗はない。
聞いたことのある社名だし、何より地に足の着いた固そうな仕事であることに好感が持てた。
面接、頑張らないとな。
高鳴る胸を押さえてそう心に決めた時である。
突然臀部に違和感を覚えたのはー。
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