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20話 手続き完了

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「リ、リノさああぁぁぁん!」

 私とハンソンさんが関係者用のドアから受付に入った時にそれは起きた。
 突然私は何者かに足首を掴まれたのだ。

「わ!? なに?」

 見ると地面に突っ伏すかのようにして私の足にすがりつく...... ポメラさん?

「な、なんです一体」

 顔をあげるポメラさ...... え、なんで泣いてるのこの人。

「知らなかったんですぅ! まさかリノさんがそんな人だなんて思わなかったんですよー! だから、だからどうか許してくださいぃ!」

 ちょ! ギルド関係者しかいないっぽいとは言えみんな見てる! 見てるから!
 さらになんの事を言ってるのかも分からないけど、とりあえず冷静に対処を......

「あーん! 私『国家反逆罪』とか嫌ですぅ! そんなつもりは毛ほどにも考えた事ありませぇん!」

 ポメラさんはわんわん泣いているけど、今なんて言ったこの人?

「こ、国家反逆罪!? なんで?」

 私は驚いて横のハンソンさんを見た。 同じようにきっと戸惑っているだろ...... うん、なんだかとても落ち着いているように見える。

「君のしでかした罪が分かったかね」

 ハンソンさんは一歩進んでポメラさんを見下ろすように立つ。

「君がきちんとギルド職員規約を把握していればこのような事にはならなかったんだぞ」
「は、反省してます! ですからリノさぁん、いえ、リノ様ぁ!」

 私様付けになった。 いや、こちらも状況が全く理解できないんだけど。 なんか私だけ置いてきぼりで事態が進んでない?

「ある肩書きを名乗る者が現れた場合、対応した者は速やかに責任者へ報告する義務がギルドにはあるのです。 それを怠ったり隠蔽した者は国家反逆罪と見なされても仕方ありません」

 協力する事も国からの優先項目に定められています。
と、ハンソンさんは補足してくれた。
それでレーアさんがあの対応だったのね。

 ポメラさんはそれを知らなかったとは言え、短時間でここまで憔悴している姿を見るといい気味というよりなんだか哀れに思えてきた。

「じ、次回から気をつけてくれればいいですから。 私なら大丈夫ですので」

 これで丸く収まるかしら?

「あ、ありがとうございますぅ! このポメラ=ニアン、一生リノ様についていきますぅ!」

 涙を流して安堵するポメラさん。
なんかあるはずのない尻尾が勢いよく振られて見える気がする。

「本来知らなかったで済む案件ではない。 リノさんに感謝するんだな。 次はないぞ」
「そ、それはもう!」

 あ、どうやらポメラさんを反省させる為にハンソンさんにうまく使われた?
ギルドマスターの立場は飾りじゃないって事ね。

(ギルドが全面協力してくれる理由が分かったろう?)
(ええ。確かに心強いわ)

 はこ丸が語りかけてきたので答える。
 この一件でギルド職員の人達に私の顔は覚えられた。 今後ギルド絡みの案件はかなり楽になるだろう。

 私は出来たばかりのギルド証を受け取り王都に到着した時に利用した宿屋、日溜まり亭へと足を向けた。
 
 夕方ともなると辺りの家から夕飯の匂いが風に乗って漂ってくる。

「そう言えば、私なんだかずっとご飯食べてない気がする」

 あ、これ気のせいじゃないわ。 ヨーダさんに出会う前に宿で食べた朝食が最後の記憶だもの。 時間が経過してないとは言っても意識してしまったらとにかく空腹を感じてきた。

「これは宿に戻ったらまずはご飯ね」

 失踪扱いがちゃんと伝わっているといいけど......

(そこはギルドがうまくやってくれているだろう)

 そう願いたいわ。 ここまで慣れない事ばかりでドタバタしてたんだもの。 少しはゆっくりできる環境に身を置きたいと思ってもバチはあたらないわよね?

 そして視界の先に日溜まり亭が見えてきた。
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