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最終章 それぞれの旅立ち

第十六話 決断と旅立ち

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 第十六話 決断と旅立ち


 パンッ、パン

 開催を告げる花火がなった。
 『王国求婚舞踏会』
 それは盛大で華やかに行われていた。
 朝から我こそはと思う各国の王子達がリプルの前に列をなしては求婚を続けていた。
 その数は数百人。
 異国の王子や豪族の跡取り、はたまた顔や財力、才能に自信のある者。
 身分は問わず、問うのは彼女への想いだけと告知されるとその数は一気に膨れ上がった。
 顔ぶれの中には、当然に見知った顔も多く含まれている。
 
 まず最初に来たのは幼馴染のニットだった。
 小顔で銀髪のイケメン。
 私の事を昔から知っていて、ずっと一途に私を想い守って来てくれた。
 そのコロコロ変わる愛くるしい表情はまるで可愛いリスの様だった。
 ニットは私にとって気心の知れた可愛い弟のような存在だ。
 明らかに絶対的な好意を感じるその愛くるしい瞳は、いつも私に安らぎを与えてくれた。

「ニコレ フォン リプル。
 ずっと君の事が好きだった。
 ボクと結婚して下さいっ。」

 ニットはそう告白すると静かに下がって行った。

 そうこの『王国求婚舞踏会』にはルールがあった。
 一人の持ち時間は三分。
 希望者全ての告白を聞いた後に王子達が一列に並んで膝まづいてダンスへ誘う。
 その最後のセレモニーでリプルが意中の王子の手を取り名を呼ぶ決まりだった。
 だから王子達にしては気が気ではない。
 夜までの間、大丈夫だと自分を鼓舞し、もうダメだと悲嘆にくれる。
 また愛の告白も全員の前で行われる為、会場は愛と嫉妬で異様な雰囲気が渦巻いていた。

 次に来たのは、兄のタフタだった。

 ザワザワ

「おいっ、タフタ隊長だっ。」
「実の兄がどうしてここに?」

 会場がどよめいた。

 タフタはリプルの前で跪くとハッキリとした声で整然と告白をした。

「俺の気持ちは変わらない。
 お前のコトを妹以上に想っている。
 生涯をかけてお前を幸せにすると今ここで誓う。
 一緒に暮らそう。」

 そう言うと背筋を伸ばし凛々しくその場を立ち去った。

 終盤にはパイル宰相まで現れた。
 
 (えっ、パイル宰相がなぜ?)
 意外な人物の登場に私は少し驚いた。
 いつも気難しく、不機嫌で、てっきり私は嫌われていると思っていた。

「リプルっ、
 君の屋敷で行われた王国特命公爵就任パーティーを覚えているか?」

「えっ、ええ、勿論。」

「では、その時に私が君の左手の薬指へ指輪をはめた事も?」

「えっ、はい。覚えています。
 でもそれは指輪を返そうとした私を」

 そこまで言うとパイルは途中で私の言葉を遮った。

「あの時から私の気持ちは変わらない。
 私の妻になって欲しい。
 もう他の者の瞳に君が映る事すら我慢がならない。」

「あっ、あの。
 一つだけお聞きしても……
 貴方はシフォンではないのですよね?」

「シフォン?
 聞いた事がない名前だ。
 すまない。」

 そう言うとパイルはその場を立ち去った。

 最後に来たのはフライス第二王子だった。
 王族の登場に会場が更に騒めいた。

 ザワザワ

「おいっ、フライス第二王子だ。」
「おぉぉぉ」
「王族までもが求婚を求めるのか?」
「凄いなっ」

 フライス第二王子は膝まづくと求愛を始めた。

「俺の気持ちは以前既に伝えたから知っているね。
 だが俺にはその資格はないのだろう。
 何故ならずっと君を騙していたのだから。
 初めまして、カツラギコーポレーションのプログラマの結希だ。
 葛城CEOの弟でもある。」

 そう言うとフライス王子は、更に私に近づいて囁いた。

「そのまま立ち上がって、俺の肩に手をかけて動揺しないで聴いて。」

 (えっ)
 私は言われるがままに立ち上がると、フライス王子の肩に手をかけた。

「おぉぉぉ」
「王族の肩に手をかけたぞ。」

 周囲がどよめいた。

「兄さんが常に執事として張り付いていたから伝えられなかった。
 俺が死神と繋がっているとバレたら殺されるからね。
 よく聞いて、シフォンは生きている。
 兄さんに居場所がバレたのでパイルのアバターを捨てたんだ。
 だから今は別のアバターで君の側で見守っている。」

「えっ、本当ですか?
 シフォンは今どこに。」

 そこまで言った瞬間に今まで告白して来た王子達が騒ぎだした。

「おいっ、近づき過ぎだ。」
「いくら王族だからってルール違反だ。」
「恋愛に王族も何もあるかっ、時間切れだ。
 早く下がれ。」

 余りの騒ぎにカツラギが声をかける。
 仕方がなくフライスはそのまま下がって行った。

「えっ、フライス王子っ、ちょっと待って。」

 追いかける私をルールだからと周囲がたしなめる。

 終演。
 全ての王子達の告白が終わり、一同が並び膝まづいていた。
 周囲はリプルがどの王子の求婚を受けるのか興味深々で見つめていた。

 以前なら迷わずに第一王子ブロード様を選んでエンディングを迎えていただろう。
 でも今は皆の愛に包まれて選ぶ事なんて出来なかった。
 ましてやシフォンが生きていると聴かされて、他を選べる訳がなかった。
 
 パパパパーン パパパパン

 軽快な演奏と共にドラムロールが鳴り響く。
 周囲の期待と好奇な瞳が一斉に私に注がれる。

 ドラムロールが鳴る中で、私はその場を逃げ出した。

 ユーザIDが失効し私が死ぬまで後、二時間。
 時刻は夜の十時の事だった。
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