情報屋と絆の友の会

tetudou1014

文字の大きさ
上 下
18 / 18
外伝

外伝~ホームズ先生による超能力解説編~

しおりを挟む
 僕はひざ丈ぐらいの短い患者衣を着せられて、救急車に乗せられた。
 そのあとを親父が4WDでついてくる。
 親父の車の中にはお袋と次兄、それから結衣が乗る。


 救急病院から10分ほどでその病院についた。
 海沿いの森の中にあって、どこか建物自体を隠しているように見えた。

 目の前には老人ホームとラブホテル。

 簡易的な手術は終わったものの、僕の左腕は血で赤く染まっている。
 救急病院では太く短い糸で縫われただけで、きれいにしてもらえなかった。
 血も固まりだして、腕をまげるのが困難だった。

 救急隊員は冷たいほどに冷静だった。
 僕に優しい言葉をくれるわけでもなく、ただ運転に注意しているだけ。


 病院につくとそこからは歩かされた。
 スリッパに患者衣で、なんとも情けない格好だった。


 すぐに医師の診察室に誘導された。
 部屋の中にいたのは中年の痩せた女医。
 喋り方はとてもさばさばしているが、僕の話を真面目に聞いてくれる姿から信頼できるのかもしれない。
 いや、今はとにかくこの人に頼るしかない……とか思っていたかもしれない。

 あとから家族と結衣が部屋に入ってくる。
 この時はすでにみんな冷静さを取り戻していた。

 女医は僕に細かい話はとにかくしないで、「危険だから」と理由で入院をすすめられた。

 程なくして、僕は閉鎖病棟に入れられた。
 いや、半ば強制的にぶち込まれたというのが本音。

 本当は結衣と一緒にいたかった。
 けど自分で切ったとはいえ腕が痛む。
 その治療も兼ねて、入院することにした。

 大きなエレベーターに入るとがたいの良い看護師たちが僕を見張っている。
 まるで僕が暴れ出すのを抑える護衛というより看守のようだった。

 エレベーターから降りると、分厚いガラスで出来た二枚の自動ドアが見えた。
 一枚目の隣りにインターホンがあって、奥のナースステーションから看護師が応答する。

「あ、どうぞ」

 慣れた手つきで一枚目のドアを手動で開く。
 一枚目と二枚目の間は人が10人以上は入れる余裕があった。
 担架も二台ぐらい入りそう。

 そこで奥から若い男の看護師がやってきて、病棟側から鍵を回す。
 するとやっと二枚目のドアが開き、閉鎖病棟に入ることができた。

 血だらけで真っ赤にそまった僕を見ても、誰も驚く様子はしなかった。
 むしろ鋭い目で睨まれているようだった。

 中に入るとちょうどL字の形で部屋が分かれていて、Lの角にあたるところが食堂。
 それから左右に大部屋が複数あった。
 
 異様な雰囲気だった。
 よだれを流しながら、僕をじーっと見る人。
 奇声をあげて暴れる人。
「誰だ、お前!」と突っかかってくる人。

 僕が今まで入院した病院とは全然違って、健常な人間がいない……まるで、そうまるで動物園のようだと思った。
 言い方が悪いけど、本当にそう思った。

 二重ドアが閉まるとと共に僕は恐怖を覚え、安易に入院を選択したことを後悔した。

 血だらけの僕に若い看護婦がこういった。
「もうすぐお昼ご飯だからね。食堂で待っててね」

 僕は「この人バカなんじゃないの?」と思った。
 さっきまで救急病院で手術を受けた人間がなんで自発的に食事をとろうと思うんだ?
 しかも僕の左腕は未だに血だらけだ。

 仕方ないと思った僕は「バカらしい」と思いつつ、食堂に入る。
 普通の病院だったら自室でベッドの上で食べるのに……。
 しかも僕は精神だけでなく、見たらわかる通りケガ人なのに、なんで食堂にまで足を運ばないといけないんだ。


 食堂に大きなカーゴが現れた。
 すると他の患者たちが無言で群がりだす。
 みんな食事の入ったトレーを各々取ると、四角形のテーブルに座る。
 ちょうど対面式で4人座れるボロボロのテーブルだ。

 僕は片手が動かないので、黙って見ていた。
 それに気がついた看護師が「空いている席に座りなよ」とぶっきらぼうに言う。

 仕方ないので空いている席を見つけ、腰を下ろした。
 見るからにまずそうな食事だった。
 僕はさっき結衣とハンバーグを食べるって約束したのに……。

 その結衣と家族たちは今、先ほどの女医から説明を受けている。

 僕が箸を取ろうとしたその時だった。

「おいお前! そこの席は俺のだぞ! 勝手に座るな!」

 髪が真っ白で坊主の初老の男が叫んだ。
 すごく怒っている様子だった。

 僕もイラっとした。
 さっき入ったばかりでルールなんて知らないし、看護師に言われてすわっただけなのに。
 そのおじさんを少し睨んでいると、近くにいたおじいちゃんが僕に声をかけた。

「ぼく、こっちおいで」
 一番まともそうな人ですごく優しそうだった。
「ここはね、席が決まっているの。私の隣りはいつも空いているから今日から君の席だね」
 そう笑顔で答えてくれた。

 今日初めて見たひとの笑顔だった。
 その優しさが少し辛かった。

 さっきまで自殺願望があった僕なのに、今は必死に生きようとしている。
 血で固まった左腕をブランと下ろして反対の腕でまずし飯を泣きながら食べた。

 生きたくないって思っていたのに、どうしてこんな格好悪いことまでして生きなきゃいけないんだ。

 僕は一年前までただの普通の健康な大学生だったのに……。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家
ファンタジー
 科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。  実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。  無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。  辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この世界には縁がない

病好蛾蝶
ファンタジー
青年女性(オルフェ・モンテスキュー)が迷い込んだ世界は、争いも戦争もない平和な町。革命に伴う内戦で疲弊していた彼女にとってはとても新鮮だった。そんな世界に変態戦士(リア・ド・モーリス)と天才少女(ゴッホ=テレジア)が合流し、この世界は、一気に変わりだす。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...