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Interlude1 アレクサンドラのその後
元王太子アルフォンソの陥落(前)
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■Side アルフォンソ
アルフォンソは未だに男爵令嬢ルシアを愛していた。
アレクサンドラへの断罪に失敗して本性を表したルシアを目の当たりにしても、だ。
王国南部の土地に巣食う蛮族共を聖戦で蹴散らせばその功績をもって過酷な修道院に収容されたルシアを救い出せる、と踏んでいた。改めてルシアを迎え、公爵に封ぜられた新天地で彼女とともに新たな生活を送る未来を思い描いて。
アルフォンソのもとにはたまにルシアから手紙が送られてきた。内容はアルフォンソへの愛と学園生活を懐かしむ思い出話、そしてアルフォンソの身を案ずる心配と無事に帰ってきてほしいという願いが込められていた。
「やはりあの時はアレクサンドラの奴が追い詰めたせいで一時的に焦ったためだろう」
アルフォンソは都合のいいように解釈した。ルシアが未だに自分を気にかけてくれている、自分の帰還を待っている、その事実だけでも甘美に酔った。そして改めて聖戦での勝利を愛しい女性に捧げる誓いを立てたのだった。
そんな中、アルフォンソの元に匿名の手紙が届けられた。
それは明らかにルシアの筆跡で書かれていたが、内容はいつもの恋文と明らかに違っていた。何せ、彼が敗北して囚われの身になることを前提とした対応策がただ淡々と記されていただけだったから。
自分を騙すだけなら恋文と同じようにルシアの署名と修道院の封蝋を押せばいい。それに愛の言葉を前文にした方が明らかに説得力がある。かと言って本当にルシアが送ってきたにしては匿名にする理由も思い浮かばない。
結局のところアルフォンソは心に留めていく程度で済ませた。まさかそれが彼の生死を分ける結果となるだなんてその時は微塵も考えていなかった。
そして、聖戦は大敗という最悪の結末を迎えた。
捕らえられたアルフォンソは蛮族達の尋問を受けた。彼を人質として要求した多額の賠償金と領土割譲は国王により突っぱねられたため、彼から有益な情報を搾り取る方針に転換され、尋問はやがて拷問へと変わっていった。
どの程度痛めつけられる度にどの情報を漏らせばいいか、指示書には事細かく書かれていた。その情報も王国に大した影響のないものや微妙に数値が古かったりデタラメだったりする偽物ばかり。しかし蛮族共に判別は付かない。指示書通りに事が運んだ。
「お前、向こうでは王太子だったんだろ? そんな口が軽くていいのか?」
蛮族共の中で立場が上の者が蔑みながら質問してきた時もあった。
そんな時、命が惜しいからという理由では即座にその首ははねられていただろう。
だから、本音半分嘘半分で彼は演じる。己の復讐で国を売る愚か者を。
「私は王太子の座を追われて無茶な遠征軍の大将に祭り上げられたんだ。これで少しは私の苦労も分かって欲しいものさ」
洗いざらい喋ったところでアルフォンソは解放された。彼を見せしめに処刑してその死骸を送りつけたところで王国にはさほど効果が無いと判断されたからだ。とどのつまり、殺す価値もないから放逐されたに過ぎない。
「何とでも言え! 私はルシアのもとに帰らねばならん……!」
全てはルシアを手に入れるためだ。その為なら泥水だって啜ろうじゃないか。
もはや王太子の座を追われ、王家より離され、民や友人から白い目で見られようが構わない。彼にとっての拠り所はルシアのみであり、彼女さえ取り戻せれば良い。それはもはや恋路を通り越した依存である、との自覚がありつつも想いは止められない。
「ダリアは私とジェラールの娘として育てますので」
甘んじて幽閉生活を送っていたある日、かつての婚約者であり現王太子妃、そして転落の元凶であるアレクサンドラが赤子を連れて面会にやってきた。しかもその赤子はアルフォンソとルシアの娘だと語ってきた。
まさかあの一夜で子を授かったなどと全く知らなかったアルフォンソにとっては青天の霹靂だった。ルシアとの間に愛娘が生まれた喜びと、それをあろうことかアレクサンドラが自分の娘にすると言い出した怒りで内心がぐちゃぐちゃになった。
しかし、と冷静になって考える。
ルシアは修道院に、自分は幽閉中。ならダリアはどうなる? アルフォンソの醜態はアレクサンドラの策略で市民に晒されている。その情事で生まれた娘が一体どんな誹りを受けるのか、どれほど悲しみに襲われるのか分かったものではない。
(ルシアの実家に預ける……? いや、止めておくべきか。ただでさえルシアが私達を誑かした悪女などという誹謗中傷を受けているせいで肩身が狭い思いをしているんだ。その上でダリアまで任せられないな)
結局、現時点ではアレクサンドラに託すのが最善手との結論に至った。しかしアルフォンソは娘のダリアを完全に手放すつもりは無かった。いつか必ずルシアを取り戻す日が来る。その暁には迎えに行こう、そう固く心に誓った。
……結局その願いが叶うことは無かったのだが。
アルフォンソは未だに男爵令嬢ルシアを愛していた。
アレクサンドラへの断罪に失敗して本性を表したルシアを目の当たりにしても、だ。
王国南部の土地に巣食う蛮族共を聖戦で蹴散らせばその功績をもって過酷な修道院に収容されたルシアを救い出せる、と踏んでいた。改めてルシアを迎え、公爵に封ぜられた新天地で彼女とともに新たな生活を送る未来を思い描いて。
アルフォンソのもとにはたまにルシアから手紙が送られてきた。内容はアルフォンソへの愛と学園生活を懐かしむ思い出話、そしてアルフォンソの身を案ずる心配と無事に帰ってきてほしいという願いが込められていた。
「やはりあの時はアレクサンドラの奴が追い詰めたせいで一時的に焦ったためだろう」
アルフォンソは都合のいいように解釈した。ルシアが未だに自分を気にかけてくれている、自分の帰還を待っている、その事実だけでも甘美に酔った。そして改めて聖戦での勝利を愛しい女性に捧げる誓いを立てたのだった。
そんな中、アルフォンソの元に匿名の手紙が届けられた。
それは明らかにルシアの筆跡で書かれていたが、内容はいつもの恋文と明らかに違っていた。何せ、彼が敗北して囚われの身になることを前提とした対応策がただ淡々と記されていただけだったから。
自分を騙すだけなら恋文と同じようにルシアの署名と修道院の封蝋を押せばいい。それに愛の言葉を前文にした方が明らかに説得力がある。かと言って本当にルシアが送ってきたにしては匿名にする理由も思い浮かばない。
結局のところアルフォンソは心に留めていく程度で済ませた。まさかそれが彼の生死を分ける結果となるだなんてその時は微塵も考えていなかった。
そして、聖戦は大敗という最悪の結末を迎えた。
捕らえられたアルフォンソは蛮族達の尋問を受けた。彼を人質として要求した多額の賠償金と領土割譲は国王により突っぱねられたため、彼から有益な情報を搾り取る方針に転換され、尋問はやがて拷問へと変わっていった。
どの程度痛めつけられる度にどの情報を漏らせばいいか、指示書には事細かく書かれていた。その情報も王国に大した影響のないものや微妙に数値が古かったりデタラメだったりする偽物ばかり。しかし蛮族共に判別は付かない。指示書通りに事が運んだ。
「お前、向こうでは王太子だったんだろ? そんな口が軽くていいのか?」
蛮族共の中で立場が上の者が蔑みながら質問してきた時もあった。
そんな時、命が惜しいからという理由では即座にその首ははねられていただろう。
だから、本音半分嘘半分で彼は演じる。己の復讐で国を売る愚か者を。
「私は王太子の座を追われて無茶な遠征軍の大将に祭り上げられたんだ。これで少しは私の苦労も分かって欲しいものさ」
洗いざらい喋ったところでアルフォンソは解放された。彼を見せしめに処刑してその死骸を送りつけたところで王国にはさほど効果が無いと判断されたからだ。とどのつまり、殺す価値もないから放逐されたに過ぎない。
「何とでも言え! 私はルシアのもとに帰らねばならん……!」
全てはルシアを手に入れるためだ。その為なら泥水だって啜ろうじゃないか。
もはや王太子の座を追われ、王家より離され、民や友人から白い目で見られようが構わない。彼にとっての拠り所はルシアのみであり、彼女さえ取り戻せれば良い。それはもはや恋路を通り越した依存である、との自覚がありつつも想いは止められない。
「ダリアは私とジェラールの娘として育てますので」
甘んじて幽閉生活を送っていたある日、かつての婚約者であり現王太子妃、そして転落の元凶であるアレクサンドラが赤子を連れて面会にやってきた。しかもその赤子はアルフォンソとルシアの娘だと語ってきた。
まさかあの一夜で子を授かったなどと全く知らなかったアルフォンソにとっては青天の霹靂だった。ルシアとの間に愛娘が生まれた喜びと、それをあろうことかアレクサンドラが自分の娘にすると言い出した怒りで内心がぐちゃぐちゃになった。
しかし、と冷静になって考える。
ルシアは修道院に、自分は幽閉中。ならダリアはどうなる? アルフォンソの醜態はアレクサンドラの策略で市民に晒されている。その情事で生まれた娘が一体どんな誹りを受けるのか、どれほど悲しみに襲われるのか分かったものではない。
(ルシアの実家に預ける……? いや、止めておくべきか。ただでさえルシアが私達を誑かした悪女などという誹謗中傷を受けているせいで肩身が狭い思いをしているんだ。その上でダリアまで任せられないな)
結局、現時点ではアレクサンドラに託すのが最善手との結論に至った。しかしアルフォンソは娘のダリアを完全に手放すつもりは無かった。いつか必ずルシアを取り戻す日が来る。その暁には迎えに行こう、そう固く心に誓った。
……結局その願いが叶うことは無かったのだが。
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