『Pâtisserie Hina 〜夢と絆のスイーツ物語〜』

ユキワラシ

文字の大きさ
148 / 173
第7章 フードアカデミーニューヨーク校開校!

第147話 - 退学届け

しおりを挟む
アレックスは理事長室に入り、退学届けを机の上に置いた。理事長がそれを見つめると、沈黙が一瞬だけ流れた。アレックスは深呼吸をしてから、しっかりと顔を上げて理事長を見つめた。

「どうして退学したいんだ?」理事長が静かに尋ねた。

アレックスは言葉を選ぶように少し間をおいて答えた。「自分の道を進むためです。これ以上、フードアカデミーに留まっていても、僕が望む未来を掴むことができないと思いました。」

理事長はしばらく黙って考え込み、ゆっくりと息を吐いた。「お前がここに来てから、ずっと成績も素晴らしく、学びも深くなった。でも、この決断には何かがあるように感じる。君が今、どんな気持ちでいるのか、少し理解したい。だから、教えてくれ。」

アレックスは胸の内で何度も言葉を整理しようとした。だが、理事長が続けて問いを投げかけた。

「リンとはどうするつもりだ?君がこの学校を辞めるということは、今の状況、特にリンとの関係にも影響が出るはずだろう。君の気持ちを理解したいんだ。」

アレックスはその問いに少し驚いた。リンのことを話すのは、やはり避けたい気持ちがあったからだ。しかし、理事長の優しい眼差しが彼に向けられると、自然と口を開くことになった。

「リン…彼女とは結婚を考えていました。でも、今はお互いに別々の道を歩んでいくしかないと思うんです。」アレックスはしばらく黙った後、少し苦しい表情を浮かべた。「彼女が好きだったからこそ、別れることがこんなにも辛い。でも、僕が選んだ道は、彼女と一緒には歩めない道だと思う。」

理事長は真剣にアレックスの言葉を聞いていた。その後、彼は静かに言った。「それが本当に君の幸せにつながる道だと思うのか?」

アレックスは深く考えた。リンとの別れは、間違いなく彼にとって痛手であり、彼女を手放すことは決して簡単なことではない。しかし、彼の中で彼女との未来を描くことができなくなっていたのも事実だった。

「幸せかどうかはわかりません。でも、これが僕の選んだ道です。僕が今やるべきことは、フードアカデミーを卒業して、僕の実力を試し、次のステージへ進むことです。」アレックスは目を逸らさずに答えた。「リンにも、きっと自分の道を歩むべき時が来る。それを待っているだけでは、二人の未来はどんどん遠くなるだけだと思うんです。」

理事長はしばらく沈黙を保った後、穏やかな口調で言った。「わかった。君がその決断をしたということは、君にとって最良の道だと信じる。だが、君が後悔しないように、そしてリンに対しても誠実でいられるよう、これからの人生を歩んでいってくれ。」

アレックスは深く頭を下げた。「ありがとうございます、理事長。僕は、この学校で学んだことを決して忘れません。そして、これからの未来に向かって頑張ります。」

アレックスは退学届けを受け取った理事長に向けて一礼し、部屋を出た。自分の決断が正しいのか、間違っているのか、まだ確信を持てない部分もあった。しかし、彼の心は固まっていた。これからの人生は、彼の手の中にある。どんな困難が待ち受けていようとも、アレックスは新たな道を進み始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...